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日本列島、Go To特需に笑顔 混乱に悲鳴も

「GoToトラベル」事業で主要な観光地は旅行客が戻った(東京・浅草の仲見世通り・10月31日)

「GoToトラベル」事業で主要な観光地は旅行客が戻った(東京・浅草の仲見世通り・10月31日)

10月下旬。星野リゾート(長野県軽井沢町)が運営する「星のや軽井沢」は多くの宿泊客でにぎわっていた。客室は連日満室。「こちらで検温をお願いします」。「3密」回避へ、客室でのチェックイン対応など従業員が慌ただしく動き回る。

星のや軽井沢は客室の平均単価が9万円を超える高級ホテル。だが政府の観光支援策「Go To トラベル事業」の効果はすぐに表れた。「既に入れた予約は割引対象か」。支援開始が決まった7月上旬以降、問い合わせが相次いだ。

「東京発着の旅行が加わった10月にさらに予約が増えた」。総支配人の金子尚矢は驚く。来年1月までの予約は前年の2~3割増で推移する。

軽井沢だけではない。クラーク博士の銅像で知られるさっぽろ羊ケ丘展望台(札幌市)は10月11日、銅像前で写真撮影を待つ長い列ができた。1日の来場者が40人以下の日もあった6月とは様変わりだ。支配人の田中義信は「1千人を超えた日が10月だけで9日もある。予想以上だ」と喜ぶ。

旅先で使えるクーポン券を合わせ、1泊1人2万円を上限に旅行代金の半額を補助する「Go To トラベル」。活況は旅行会社も同じだ。日本旅行は9月下旬から来店予約が急増。4店舗で始めたオンライン旅行相談を14店舗に拡大した。

10月から東京発着の旅行も対象に加わると、地方から東京に向かう旅客の波も大きくなっている。1日の東京・浅草。浅草寺を訪れた佐賀市の会社員の男性は「GoTo」を利用し、家族5人で2泊3日で旅行に来た。「約30万円の旅費が半額近くで済む。いい気分転換」と笑顔を見せた。

浅草寺近くで人形焼きを販売する店の女性店主は「この1カ月で店も客数が1、2割ほど増えた」と振り返る。ドコモ・インサイトマーケティングの位置情報データでも、10月下旬の日光東照宮付近の人出が感染拡大前の3倍、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(大阪市)も3割増えた。コロナで冷え込んだ各地域と観光産業を支える効果が着実に出始めている。

だが、急きょ導入が決まった「GoTo」を巡っては一部で混乱やひずみも浮き彫りになった。

「このままでは予約を止めないと」。10月10日、航空便予約サイトを運営するアドベンチャー(東京・渋谷)の広報担当、春木和也は焦っていた。同日深夜「ヤフートラベル」など大手旅行予約サイトが突然、「GoTo」の割引上限を3500円に下げたからだ。

「GoTo」の予算は事業者の前年の販売実績や販売計画に基づき配分する。10月以降、一部の業者に申し込みが集中。国から割り当て済みの予算枠が逼迫し、割引額の維持が難しくなった。政府は10月13日、全ての業者が1泊最大1万4千円の割引を提供できるよう追加で予算配分するとの発表に追い込まれた。

五月雨式に発表する政府の方針変更も、現場から困惑の声が出ている。「各地から事業の延長を求められている」。国土交通相の赤羽一嘉は10月30日、来年1月末までとする旅行商品の販売の延長を検討すると表明した。一方で観光庁は同日、ビジネスでの出張や高額なサービスがついた宿泊プランを対象外にする考えを示した。

運転免許取得の合宿ツアー、コンパニオンの接待付き旅行――。観光庁は10月末にかけ、観光を主な目的としない商品を軒並み対象から外した。さらに今後の支援対象は7泊8日までが上限となる。ビジネス利用を防ぎ観光目的に絞るためだが、都内のホテルの担当者は「出張の合間に観光する人もいる。どこからがビジネス目的か線引きが難しい」と打ち明ける。

観光客の急増で、新型コロナの感染拡大への懸念も根強い。北海道は10月28日、5段階の警戒ステージを最も低い「1」から「2」へと引き上げた。知事の鈴木直道は「感染拡大を早期に抑え込み、社会経済活動との両立を進める重要なステージ」と訴える。

GoToトラベルの予算は現状1.3兆円規模だが、星野リゾート代表の星野佳路は話す。「事業が終われば需要が落ち込む。今から終了後を考えなければいけない」

観光など需要が冷え込む業界の支援策として打ち出された政府の「GoTo」事業。現場の最前線を追う。(敬称略)