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香港の若手起業家、理数系の教育改革で創造力育む

「ファースト・コード・アカデミー」を設立したミシェル・サン氏(楊徳銘撮影)

香港でプログラミングを軸とする「STEM」教育が広がってきた。詰め込みを脱して、イノベーションにつながる豊かな発想力を育む狙いがある。普及を担うのが試行錯誤を繰り返して教育ビジネスに挑む若い起業家たちだ。

「STEM」は科学、技術、工学、数学を組み合わせた造語だ。香港政府が2015年に本格導入を宣言し、中国やシンガポールも人工知能(AI)などの専門人材を育てるためSTEMに力を入れる。

香港のミシェル・サン(33)は米国の大学を卒業した後「ブートキャンプ」と呼ばれる短期集中講座でコンピューターのプログラミングを学んだ。大学の専門は経済学で、エンジニアやソフトウエア開発者をめざしていたわけではなかったが「アジアの若者が学ぶべきもっとも重要な共通言語の1つ」と確信した。

シリコンバレーのスタートアップを経て香港に戻り、13年にプログラミング教室を運営する「ファースト・コード・アカデミー」を設立した。3歳から18歳までを対象にウェブページやアプリの作り方を教える。オンラインや少人数の対話形式で授業を進め、1回ごとにアプリ制作など1つのプロジェクトを達成するのが特徴だ。

ミシェルは「単なるスキルではなく、失敗を恐れない気持ちを育んでほしい」と話す。台湾やシンガポールにも進出し、教え子は累計1万5千人になった。進出した中国本土では競合が激しく、拠点を閉鎖する苦い経験もあった。4月から小学校でプログラミングが必修化された日本にも関心を寄せる。

オンライン学習ツールを開発した楊卓裕氏

オンライン学習ツールを開発した楊卓裕氏

香港大学でコンピューターサイエンスを学んだ楊卓裕(29)は「未知の問題でも柔軟に対処できる創造的な考え方を学ぶ重要性が高まっている」と話す。

楊は17年にプログラミングのオンライン教材を手掛ける「マジキューブ」を設立した。パソコンでブロックを並び替えてプログラミングを完成させ、小型のコンピューターを実際に動かす仕組みだ。

50を超える学校や塾がマジキューブが開発したクラウドベースの教育ツール「ウナ・プラットフォーム」の採用を決めた。教師が生徒一人ひとりの進捗を確認しながら双方向に授業を進められるのが特徴だ。楊は「新型コロナウイルスの流行で対面とオンラインの両方に使える教材の人気が高まっている」と話す。

アジア共通の課題は脱「詰め込み」だ。経済協力開発機構(OECD)の国際学習到達度調査(PISA)によると、香港やシンガポールは科学と数学の分野で世界トップレベルの能力を持つものの、イノベーションを生み出す創造力が弱いと言われ続けてきた。

ミシェルは「ネットにつながれば世界のどこからでも次のフェイスブックやインスタグラムを生み出せる」と話す。楊も「楽しみながら学べ、教育の効率と学習効果を最大限に高める教材を提供したい」と強調する。ミシェルや楊のような新しいSTEM教育の起業家たちが従来の詰め込み教育を変える可能性を秘める。=敬称略

(香港=木原雄士)