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省庁に「デジタル大号令」 予算編成の常識変わるか

始動 菅予算(1)

菅首相の指示を受け、平井デジタル相(写真左)はシステム予算の一元化に乗り出す

菅首相の指示を受け、平井デジタル相(写真左)はシステム予算の一元化に乗り出す

「経済社会の大転換がこの場からスタートする」。首相の菅義偉は9月30日、内閣官房IT総合戦略室の職員に向き合って直接、檄(げき)を飛ばした。目玉施策であるデジタル庁の設置準備にあたるメンバーたちだ。「庁」になれば会計や予算執行の機能を自前で持つ。責任は重い。

新型コロナウイルス禍の影響で、例年より1カ月遅い9月末に締め切られた2021年度予算の概算要求。一般会計の総額は105兆円超と過去最高になった。デジタル関連は1%の1兆円程度にとどまるが、コロナ禍の今年は現時点で金額を示さない項目も多い。

デジタル庁の予算もその一つだ。コロナ禍で浮き彫りになった日本の病巣を改革するための異例の予算編成は、年末に向けて攻防が本番に入る。

デジタル改革相に就いた平井卓也は同庁設置への準備室の職員に「システムの効率化で終わらせてはいけない。国民が幸せになる社会をつくるのが使命だ」と発破をかける。今の国のシステムは効率が低く、うまく機能していないからだ。

新型コロナの感染が広がった3月、平井が自民党のデジタル政策の会議をオンラインで開くとIT室の職員は職場から参加できなかった。民間では普通のテレビ会議にIT担当の役所が対応できない。平井はお粗末な実態を目の当たりにした。

省庁ごとにバラバラに構築するシステムをまとめて改良するには、まず大本である予算から一元化しないと始まらない。デジタル化を政策の「一丁目一番地」とする菅政権が誕生した今は、またとない好機だ。しかし長年にわたって続く霞が関の常識が簡単に変わるかは不透明感が漂う。

システム予算を失いたくない各省庁は一元化に必ずしも乗り気ではない。IT室が概算要求で一括計上した霞が関のシステム経費の829億円は、まだ全体のシステム経費の1割程度にとどまる。デジタル庁が幅広く各省庁の予算を握れるか、綱引きはこれからだ。

「デジタル」が焦点に浮上する場面はデジタル庁以外にもある。

「もう一声、お願いします」。消費者庁の会計担当課長の広瀬健司は9月中旬、庁内の課長たちに迫った。依頼して回ったのはデジタルに関連づけた予算の上積みだ。

同庁長官の伊藤明子も菅政権をチャンスとみる。消費生活センターなどには消費者から年90万件の電話と窓口での相談が寄せられるものの、今のシステムはSNS(交流サイト)などに対応しない「周回遅れのシステム」(伊藤)。相談事務をデジタル化し消費者から寄せられる情報を生かす体制づくりを始めた。

高まるデジタル化の機運は変化の起点になりえる。消費者庁の概算要求の資料に1年前は1度しか出てこなかった「デジタル」の文言が29回まで増え、金額も増えた。

予算の確保は省庁の仕事にとってすべての根幹だ。波に乗り遅れれば埋没してしまうとばかりに、各省庁が雪崩を打ってデジタル化を掲げる。しかし「デジタル化に取り組んでいる」という姿勢が先行して内実を伴わなければ意味がない。

総務省が概算要求の説明資料の目玉に載せたのは、自治体のデジタルトランスフォーメーション(DX)のための経費だ。計上した38.8億円は20年度当初予算と比べ5倍の大幅増になる。

ただその8割を占めるのはクラウド上に置く自治体共通のセキュリティー対策システムの経費。たまたま5年ごとの更新の時期に当たっただけで、実態はほぼ横ばいだ。

ある官庁の幹部は「DXでまとめた方が与党に説明しやすい」と明かす。予算取りのためにデジタル施策の器ばかりが増え、効率化よりムダが膨張するなら本末転倒だ。

改革を迫られるのは民間も同じだ。省庁や自治体ごとにシステムを構築し、個別のシステムを維持・管理して稼ぐビジネスには行政とのもたれ合いの構図があった。

NTTデータ富士通NECなど多くの民間システム会社は身構える。ある大手幹部は「既存のビジネスは守られるのか」と不安を抱きながら、「デジタルガバメントの推進に貢献する方策を提案しなければ」と表情を引き締める。(敬称略)