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スタートアップ育成の国連拠点、神戸で開所 アジア初

スタートアップ育成のための国連拠点が神戸に開設された(6日、神戸市)

スタートアップ育成のための国連拠点が神戸に開設された(6日、神戸市)

国連機関が旗を振るアジア初のスタートアップ育成拠点「グローバルイノベーションセンター(GIC)」が6日、神戸市に開設された。まず気候変動の課題解決に挑む企業が入居し、社内ベンチャーの育成に取り組むソニーなどが入居企業を支援する。「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成のため、有望な先進技術は国連事業に採用される可能性がある。

世界のインフラ整備を援助する国連プロジェクトサービス機関(UNOPS、ユノップス)が設けるGICは世界で3カ所目。場所は三井住友銀行の神戸本部ビル2階で、広さは433平方メートル。併設する兵庫県の起業家支援拠点「起業プラザひょうご」の会議室を無料で使える。光熱費や通信費はUNOPSが負担する。

新型コロナウイルスの影響もあり、海外の企業はオンライン経由で支援を受ける場合もある。グレテ・ファレモ国連事務次長は「神戸への立地により、(スタートアップ支援に注力する)兵庫県や神戸市の経験や知識を活用できる。持続可能な開発目標の達成に向けた新たなビジネス機会と解決策の創出につながる」とビデオメッセージで語った。

井戸敏三・兵庫県知事は「ここが世界の課題に対して挑戦し、新しい社会をつくりあげる先頭を走り続ける場所であってほしい」と話し、神戸市の久元喜造市長は「神戸がグローバル都市として発展する新たなステージに入ったことを意味する」とした

ポストZoomを競うビデオ会議システム、勝者は誰か

ンーフーは肩越しにスライド資料を指さしてプレゼンテーションの演出効果を高められる(写真はリービン氏)

ンーフーは肩越しにスライド資料を指さしてプレゼンテーションの演出効果を高められる(写真はリービン氏)

新型コロナウイルスに伴う在宅勤務でオンラインのビデオ会議サービス「Zoom(ズーム)」は存在感を急速に高めた。運営会社の時価総額は米IBMを超え、この分野では誰もが認める巨人だ。だが実は、すでに「ズームの次」を巡る競争は始まっている。ニーズの多様化に応え、急成長を遂げるのは誰か。

背後の発表スライドで重要なポイントを肩越しに指さし、同僚と代わる代わる画面に登場して「かけあい」を演じてみる。単調になりがちなビデオ会議のプレゼンテーションに彩りを添え、聞き手を引き込む演出を可能にするのが「mmhmm(ンーフー)」だ。ズームなどと一緒に使う。

■話し手がスライド画面に入れる

最大の特徴は話し手がスライド画面に入れること。自分の表示サイズを変えたり、好みの位置に据えたりも自由自在だ。ズームは資料表示画面と自分の画面が別々だが、ンーフーは発表の要点を直感的に伝えやすい。

「在宅勤務を始めてから数カ月がたち、退屈なプレゼンしかできない既存サービスでは満足できなくなった」。ンーフーの責任者で、クラウド情報管理サービス「エバーノート」創始者としても有名なフィル・リービン氏は開発の経緯を語る。

「プレゼン」と聞くとビジネスパーソンの姿を思い浮かべるかもしれない。実際、すでにPwCジャパングループが全社規模でのモニター利用を決めるなど、ビジネスシーンでの期待度は高い。

ただし「プレゼンはあらゆる仕事で必要とされている」というのがリービン氏の持論だ。医師や教師、弁護士などでもプレゼンは必要。「新型コロナで対面が難しくなり、意図を相手に伝えるのに苦労している全ての人に届けたい」という。

ンーフー自体はビデオ会議サービスでなく、ズームやユーチューブの動画収録に使えるリアルタイムの映像加工アプリに位置づけられる。7月上旬に試用版を公開すると、すぐに10万人を超える申し込みがあった。現在は米アップルのマックOS版しか公開しておらず、幅広い利用者へ届ける手段が課題となる。今秋をめどに、正式版の立ち上げを目指す。

リービン氏の語る「退屈な既存サービス」とは何か。直接の言及は避けたが、ズームが含まれているのは間違いないだろう。それは、ズームがこの1年で急成長を遂げた証しでもある。

運営会社ズーム・ビデオ・コミュニケーションズの決算資料によれば、ズームを使う法人ユーザー(従業員10人超)は7月末で37万社。前年の同じ時期と比べて5.6倍に増えている。

日本でもズームはビデオ会議サービスの普及のけん引役だ。調査会社J・D・パワージャパン(東京・港)が4月に実施した調査によれば直近でビデオ会議を利用した人のうちズームを使ったのは約3割と、関連サービスで最も多かった。よく使うようになった時期は「今年2月以降」が61%。ズームが急ピッチで浸透したことがわかる。

■「こんなふうに使えればいいのに」

「ビデオ会議って便利だな」。なじみの薄かった消費者にもそう気づかせたズームの功績は大きい。しかし新型コロナの感染拡大は長引き、在宅期間が続くにつれて人々は利便性に慣れてきた。「もっとこんなふうに使えればいいのに」との声も聞こえ始めている。

日本経済新聞は調査会社インサイトテック(東京・新宿)の協力を得て、消費者がズームに感じている不満を調べた。インサイトテックは日本国内の消費者から様々な不満の投稿を有償で募り、商品開発やマーケティングに生かしたい企業に提供する「不満買取センター」を運営している。

ズームをめぐる投稿件数をみると、2019年は通年でも3件しかなかった。急増したのは今春だ。4月に53件を記録すると、緊急事態宣言の出ていた5月には初めて100件を超えた。感染者拡大がやや落ち着いた7月には66件まで減ったが、再び感染が増えた8月には171件、9月には198件まで伸びた。

内容で目立つのが画面表示をめぐる不満だ。三重県の20代女性は「画面共有中の参加者の画像サイズを調整したい」と投稿した。東京都の30代女性も「画面共有ではなく資料共有の機能が欲しい。映したくないものが写るのが怖い」という。

大人数での飲み会についても要望が多い。「少人数ならいいが、10人を超えると間延びしたり、会話がかぶったりする」(栃木県の30代男性)。千葉県の30代女性は「1人ずつ順番に話すのを聞くだけではなく、まわりの会話を耳に入れつつ、話したい人と話せるようにしたい」と訴えた。

中には「本人だけではなく、まわりの人もミュート中かどうかを知らせる機能がほしい。娘の会話中に自分が入り込んでしまわないか不安」(神奈川県の40代男性)という指摘もあった。奈良県の20代女性は「トイレに行きたくなったり、何かを取りに行ったりするときに『一時離脱中』などと表示できる機能が欲しい。離脱中に話しかけられたのに返せないと、無視したと思われてしまう」との不満を寄せた。

サービスに対する消費者の期待は、まずは不満として現れる。急成長を遂げたズームに対する不満を調べれば「ズームの次」に求められるヒントも見えてくる。

Remoは大人数のパーティーをオンラインで再現できる

Remoは大人数のパーティーをオンラインで再現できる

営業活動などで優れた成果を出すには社内外の人脈づくりが重要となる。ときには偶然の出会いが思わぬ成果を生み、商機につながることもある。そんな出会いの場としてこれまで重宝されてきたのが、大人数が集まるパーティーだ。しかし不特定多数と接触する大規模なパーティーは新型コロナウイルスの流行後、開きにくくなった。

■パソコン画面がパーティー会場に

代替策でビデオ会議での「オンライン飲み会」も定着しつつあるが、難点は多い。参加者が3~4人なら円滑に進む場合も多いが、数十人になると発言できない「待ち時間」が長くなり、濃密なコミュニケーションを取りづらい。そこで期待されているのが米国発の「Remo(リモ)」だ。

サービスを立ち上げると画面には会議場の見取り図のようなイラストが現れる。フロアにはテーブルが配置され、写真つきのアイコンが「着座」している。これが参加者だ。会話に加わりたいテーブルを選ぶとビデオ会議の画面が立ち上がり、会話の輪に入れる。あとは話をしたり資料を共有したりと、何人かで「輪」を作って自由にコミュニケーションできる。

一つの「輪」への参加はもう十分だと思えば、好きなタイミングで離れられる。見取り図の画面に戻れば次の会話の輪に移れる。まさに立食パーティーの会場を自由に歩き回るような感覚だ。

リモ創業者のホーイン・チャン最高経営責任者(CEO)は「もともとはオンラインの仮想オフィスとして開発したサービスだった」と話す。香港で企業のSNS活用を支援する別会社を経営していた同氏がサービスを立ち上げたのは2019年1月。その会社自体がオフィスを持たず全社員がリモート体制で働いており、社員同士のコミュニケーションを円滑にするサービスを作れないかと考えたのだという。

しかしサービスを始めた当初の利用は低調だった。そこでチャン氏は同年8月、大規模なカンファレンスをオンラインで開くサービスに形態を改めた。そして公式サイトでのアピール形式も「仮想オフィス」から「仮想集会」に変えたところ、徐々にユーザー数が増え始めた。

そんなときに吹いたのが今年初めから世界各国で求められた外出自粛という「追い風」だ。カンファレンスの主催に必要な月額100ドル(約1万600円)からの有料アカウントは登録が増え続け、月間利用者は世界で数十万人に達する。採算も黒字化したという。

米大統領選に向けて民主党の支持者らが集会に使った例や、日本で若いカップルが結婚式に活用した実績がある。「まず会話の輪に加わり、そこから話に耳を傾けるというオフラインの体験を再現している」(チャン氏)。営業や人脈構築で重宝されてきたパーティーや商談会も、リモならば実現に近づける。

ハーバード・ビジネス・スクールは「白熱教室」の臨場感を再現する

ハーバード・ビジネス・スクールは「白熱教室」の臨場感を再現する

教育現場でも独自のシステム開発が始まっている。その中でフロントランナーと呼べそうなのが米ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)だ。6月に本格運用を始めた「HBSライブ・オンライン・クラスルーム」は、従来なら本拠地ボストンの教室内で繰り広げられていた熱のこもったディベート型授業をオンラインで可能にした。

■約100人の参加者が並ぶ

その最大の特徴は臨場感だ。学内の収録スタジオの内部は、100人弱いる参加者の表情が映った画面が半円状にずらりと並ぶ。講師はその中心から、テンポよく参加者に質問を投げかける。

画面には個別のカメラとスピーカーが据え付けられ、参加者が発言するとスピーカーから声が流れる。声を聞いた講師が体を向けると動きをカメラがとらえ、参加者は「自分のほうを向いた講師」の視線を浴びた感覚を持てるという。全員が正面を向く既存のビデオ会議にはない緊張感だ。

参加者の考えをリアルタイム集計するアンケート機能や、電子黒板に書かれた内容を記録して表示できる機能も備える。実空間での「白熱教室」を上回るような工夫だ。

このクラスを6月から7月にかけて受講した東京海上日動火災保険の兵頭由剛氏は「高等教育の未来を目撃した気がした」と振り返る。

当初はボストンに足を運んで講義を受ける予定だったが、日本にいながらにして最先端の現場を体験することができた。すでに世界で数百人が受講したという。

文部科学省によれば、日本では今夏の時点で8割を超える大学が遠隔授業をしていた。しかし学生の間では「集中力が続かない」など悩みも聞かれる。HBSは専用スタジオを新設するなど一定の投資も伴う事例だが、臨場感のある講義を実現するという意味で日本の大学にも参考になる。

ビデオ会議自体は必ずしも新しい仕組みではない。しかし新型コロナはビデオ会議の仕組みに「進化」を迫った。今後も「ポストZoom」の座を狙うサービスは増え続け、競争激化に伴って利用者の利便性も高まっていくだろう。

(企業報道部 藤村広平氏)

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人生に「遅い」はない 80代のプログラマー、探求なお ITエバンジェリスト・若宮正子さん

81歳でiPhoneのアプリを開発し「世界最高齢のプログラマー」と呼ばれた女性がいる。若宮正子さん(84)だ。「シニアにこそ情報技術(IT)を使ってほしい」という思いから、国内外での講演や本の執筆など活動の幅を広げ、自らをITエバンジェリスト(伝道師)と称する。
◇   ◇   ◇
北欧のエストニアがIT先進国だと聞き、6月に1人で現地に行ってきました。電子政府をシニアがどう活用しているかを調べるためです。
初めに役所で話を聞くと「シニアの役に立つことをメニューに入れている」「使いやすさに徹底的にこだわっている」「役所と民間の垣根をなくした」と言っていました。本当にそうなのか。検証するため、エストニアのシニアにアンケートへの協力を依頼したところ、約100人が応じてくれました。
6月にIT先進国エストニアの実情を視察した(写真はエクセルでアート作品を作るワークショップの様子)
現地で日本企業の進出や法人設立を支援している斎藤・アレックス・剛太さんと共同で、私が考えた質問を英語とエストニア語に訳しました。すると8割方が電子政府のサービスを使っていると回答。「生活を豊かにしている」という答えも9割以上で、政府の説明と一致していました。
 自分でも体験してみるため、エストニアのバーチャル市民としてIDを取得した。
パソコンを開いてIDを読ませると健康保険、かかりつけ医の情報、自身の通院履歴や処方箋などが同じページでわかります。根っこにあるのは「情報は私たちのもの」「だから自分たちで管理する」という思想です。哲学が違うんですね。
電子政府の恩恵を一番受けるのはシニアだと思います。災害で薬が流され保険証もお薬手帳もなくなって、かかりつけ医もよそに避難したとします。常用している薬を飲もうとしたら、日本なら最初から検査をやり直さなければいけないでしょう。エストニアならIDカードを読むだけで処方してもらえます。
 最先端のIT事情を貪欲に吸収する若宮さんだが、初めてパソコンを手にしたのは1990年代前半。勤めていた銀行の定年が近づいた58歳の時だった。
まだ一般にパソコンが普及する前でしたが、「おもしろそう」と思い、独学でスキルを身につけました。そのころ母が要介護状態になって、私もつきっきりでした。一歩も外に出られない日も、パソコンは私を広い世界に連れて行ってくれました。
「メロウ倶楽部がなければ今日の私はなかった」と言う(前列右から2人目が本人、11月7日に東京都江東区で開かれた「20周年記念全国オフ」で)
20年前、シニア世代の交流サイト「メロウ倶楽部」の設立発起人になり、今は副会長を務めています。その前身に入会したとき、歓迎メッセージが届きました。「人生は60歳を過ぎるとますますおもしろくなる。それまでの蓄積が花開く。70歳を過ぎるともっと充実してくる」
最初は書き込みをすると「作法がなっていない」とか「そんな内容はここに書くべきじゃない」とか、よく叱られました。でもこの年代で叱ってもらえるのは貴重な経験です。私はみなさんに「人生に『遅い』はない」と言っています。
■アップルCEOから「ハグ」
 パソコンだけでなくスマートフォンにも、出始めた当初から親しんだ。だが一般には、「使い方がわからない」などといって敬遠するシニアが多かった。
年寄りが面白がるようなアプリが全然なかったんですよ。年寄りが若者に勝てるゲームを作ろう、それならひな祭りの飾り付けがいいと思いました。
自分で設計図を書き、東日本大震災のボランティアで知り合った宮城県のアプリ開発会社の社長に「作ってください」と頼んだら、「マーチャン(若宮さん)が自分でやれば?」。神奈川県内の私の自宅から、通話ソフト「スカイプ」で教えてもらいながら作りました。
2017年のひな祭り直前に「hinadan(ひな壇)」が完成しました。「素人っぽさもここまで来ると立派なものだ」なんて言われました。でも、ちゃんと動きます。
縁あって朝日新聞の記事になりました。それを見た米CNNから20問ぐらいの英語のメールが来て、「2時間以内に返事がほしい」って。グーグルの翻訳アプリを使って返信したら追加の質問がきて、今度は「20分以内に返事をしたら今晩流してやる」。日本の伝統行事をゲームにしたのが画期的だという電子版の記事で、40カ国語以上に翻訳されたようです。
アップルのティム・クックCEOと談笑する若宮さん(2017年6月、米カリフォルニア州サンノゼで)
しばらくしてアップルの日本法人の方が「話を聞かせてほしい」と言ってこられました。1カ月ぐらいすると「一緒に米国に行きましょう」と。最初は「用事がある」と断りましたが、「あなたにどうしても会いたいという人がいる」と言われてしまって「どなたですか」と聞くと「ティム・クック最高経営責任者(CEO)です」。さすがに失礼になるので、米国に向かいました。
米アップルが年1回開く「世界開発者会議」への特別招待だった。世界の優秀なアプリ開発者を集め、新製品も発表する重要イベントだ。前日、サンノゼ市の会場近くの指定された部屋で待っていると、クック氏が現れた。
「はじめまして」ぐらいかと思っていたら、「あなたのiPhoneを見ながら一緒に話しましょう」と言われたので、うろたえました。ほかの方は遠巻きに見ているだけでした。
アップルの世界開発者会議で、クックCEOは若宮さんの画像の前でスピーチした(17年6月、米サンノゼで)=ロイター
私は「シニアはスワイプ(指を滑らせる)が苦手だから、タップ(たたく)で遊べるようにしました」などと説明しました。CEOが「テキスト(文字)が小さすぎるんじゃないか」とおっしゃるので「iPhoneは画面が小さいから絵柄とのバランスが崩れます」。
「ではiPad用にすればいい」「縦横比が違うから難しい」なんて、町のプログラミング教室みたいな会話になりました。最後に、CEOが「私はあなたから刺激を受けた」と言ってハグしてくださったのでびっくりしました。
開発者会議では冒頭、CEOから「世界最高齢のプログラマー」と紹介されました。一緒に登壇したのはオーストラリアから来た10歳の坊やでした。彼らは多様性を訴えたかったのね。民族、性別などの多様性はあったけれど、80歳代のおばあちゃんは大発見だったんですよ。
■銀行では「業務改善」大好き
東京教育大学付属高校(現筑波大学付属高校)を卒業後、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行した。1997年に定年を迎えるまで勤めあげた。
 
生まれたのは東京です。父は三菱鉱業(現・三菱マテリアル)に務める会社員でした。第2次世界大戦中は信州の鹿教湯温泉(長野県上田市)に学童疎開したり、父の転勤について兵庫県生野町(現・朝来市)で暮らしたりしていました。小学4年生のとき、敗戦を迎えました。
兄の学生帽をかぶらされて少し不機嫌な若宮さん。兄は「とても活発で『向かうところ敵なし』だった」と回想する
高校は進学校でしたが、戦後のどさくさで入ったようなものです。若い人から「どうして大学に行かなかったんですか」とよく聞かれますが、女性は大学に行かない時代でした。
最初の配属先は本店営業部で、貸金庫などの窓口を担当しました。計算はそろばん、お札は手で数える世界です。私は不器用だったから、先輩にいつも「まだ?」って聞かれていました。10年ぐらいするとだんだんコンピューターが導入され事務が機械化されたので、そんなことも言われなくなりました。
私は業務改善が大好きで、上司によく提案をしていました。当時は支店ごとにお客さまの要望を聞いていましたが、それでは手に負えないこともあります。だから全社的な「お客様相談窓口」を作るべきだといった内容です。
当時、「ベルトクイズQ&Q」というテレビ番組がありました。職場の花(女性)対決という企画で、対戦相手は全日本空輸に決まりました。「向こうは客室乗務員が出てくる。絶対に勝てる行員を選手にしろ」ということで、私がキャプテンになりました。4〜5人勝ち抜いて見事に勝ちました。
30歳代の後半、企画開発部門に移る。当時の若宮さんをよく知るのが畔柳信雄・三菱東京UFJ銀行元頭取だ。仕事ぶりで印象に残っているのは、ほぼすべての金融機関の口座からの代金引き落としに使うシステム「ワイドネット」の立ち上げ。「相当、熱心にやってもらった。合理性の追求の極致のような仕事で、若宮さんにぴったり合っていた」という。
上司には目を掛けてもらいました。法人部門のマーケット調査をしたり、銀行振込や口座振替の手数料システムに関わったりしていました。
当時の私は「こうしてほしい」というアイデアは出すけれど、実際にシステムを作るわけではありません。担当部署には「素人なのにうるさい」と、ずいぶん、嫌がられていたのではないかと思います。
畔柳さんから見ると、私は高校の先輩にあたります。私は気軽に「くろちゃん」なんて呼んでいました。今は応援団になっていただいています。
趣味は海外旅行。一人で出かけて、現地の人と交流するのが好きだ。
これまで訪問した国は60カ国以上になります。予約の手違いで、言葉が通じない国のホテルで宿泊を断られることもありますが「泊まれないと困る」と言って粘る。そうすれば何とかなるものです。
■AIスピーカーはシニアの味方
人生100年時代、高齢者も学び直しが必要と指摘する。特に重要なのは金融と情報技術(IT)だという。
 
6月に東京で開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議関連のシンポジウム「高齢化と金融包摂」で基調講演をしました。シニアに金融教育をすると認知症になる率が低下するそうです。とはいえ、インターネットで株を売り買いしたりするのは難しいかもしれません。
G20財務相・中央銀行総裁会議の関連シンポジウムで基調講演した(6月、東京都千代田区)
私は「ジジババファンド」を提案しています。例えば1人50万円ずつ拠出して、スタートアップを目指す若者に投資する。失敗することもあるだろうけれど、オレオレ詐欺に引っかかるよりマシでしょう。100人から集めれば合計5千万円。若い起業家は高齢者に事業内容がわかるように、工場や農場の見学会を開けばいい。それによって高齢者と若者が近づけます。
こういうことを通してシニアも「時代を知る」「社会を知る」「科学を知る」「ITを知る」ことが大事だと思います。
「スマートフォンは難しいから使わない」ではなく、なぜできないのかを若い開発者たちに伝えないといけません。彼らも知りたいでしょう。
自宅には人工知能(AI)スピーカーを設置し、日常生活で使いこなしている。
AIスピーカーはシニアの味方だと思います。初期設定さえしておいてもらえば、寝たきりになっても使えます。
 
自宅でもIT機器を使いこなす(神奈川県藤沢市)
いま一番必要なのは、AIの側から働きかけるプッシュ型のサービスです。大雨が降ったら「避難準備命令が出ました」とモニターとスピーカーで教えてくれるといった機能です。あるいは胸が苦しくなったら119番に電話するとか、いろいろなシニアのニーズがあります。
日本の建設業では何百万人も働いているけれど、台風で飛んだ屋根を直せる職人さんの多くはシニアです。「おじいちゃん大工さん」の存在は貴重です。若者にノウハウを伝えることは大事ですが、おじいちゃん自身がITを学べば鬼に金棒です。
ドローンを使って屋根の上に材料を運ぶとか、壁の中を内視鏡で見るとか、音の反射で様子を探るとか、デジタルの世界を知らないで旅立った大先輩に比べ、私たちは恵まれています。
 シニアのIT教育に関しては、教える側の問題も多いと指摘する。
役所では詳細を知ることは難しいでしょう。統計では70歳代の半分がスマホを持っているかもしれませんが、家に帰ったらバッグに入れっぱなしで、充電していないから、もしものときに使えない。どう使っているかまで踏み込んで考えないと意味がありません。スマホなどの説明書も、専門家が作っているから伝わりにくい面があります。
若い世代とも交流の輪を広げている(エストニアの電子政府を共同で調査した斎藤・アレックス・剛太さんと、都内で)
私に言わせれば、LINE(ライン)はコミュニケーションツールというより、シニアにとっては「茶の間」です。家族や気心の知れた仲間が安心してくつろぐところです。一方、ネット空間は不特定多数が行き交う銀座や原宿です。専門家からはひんしゅくを買うかもしれませんが、そういう解説の本を書いてもうすぐ出版します。
■エクセルでアート作品
若宮さんは表計算ソフト「エクセル」を使って様々なデザインをつくる「エクセルアート」の創始者でもある。
 シニアにコンピューターを使うと何ができるかを理解してもらうために始めました。セルを塗りつぶしたり、ケイ線を色づけしたりして、好きな模様をつくります。シニアの女性は編み物や手芸が好きだから、その延長線上でできます。
エストニアで皆さんとお近づきになるため、おばあちゃんと子どものためのエクセルアートでうちわを作るワークショップを開きました。シニアも子どもも2時間もあれば「私が作りました」と言って、個性的な柄を持ってきます。最後に子どもたちがうちわを振って「おばあちゃん、さようなら」って言ってくれたので、うるうるしちゃいました。
エストニアの子供たちとエクセルアートのうちわを作った(右から2番目が若宮さん、6月に同国の首都タリンで)
昨年秋の園遊会に呼んでいただいたとき、エクセルアートのロングドレスとハンドバッグで行きました。バッグは発光ダイオード(LED)ライトでぴかぴか光るようにしました。
皇后さま(当時)が「あら、光りますのね」と話しかけてくださって、天皇陛下(同)もご覧になりました。皇后さまからは「いつまでもお元気でご活躍くださいませ」とおっしゃっていただきました。
58歳でパソコンを手にした若宮さんは、世代を超えて様々な人たちとつながっている。
私は国籍、年齢、性別などに関係なく、フラットな付き合いをしたいと思っています。
井上美奈ちゃんをご存じですか。ロボットの研究をしている10歳の小学生です。私がIT先進国のエストニアに行く話をしたら、すごく興味を持ってくれて、同じ時期に現地に行くことになりました。彼女は「同世代のかけ橋になりたい」という立派な趣意書を書き、クラウドファンディングで渡航費を集めました。帰国後には自分で報告会を開きました。
私は美奈ちゃんを、友人であるロボットコミュニケーターの吉藤オリィさんに紹介しました。2人はきっといい友達になれると思います。
来年度から小学校でプログラミング教育が必修になります。「スマホは教育に悪い」と思っていたお母さんたちは「文部科学省に裏切られた」と言っているそうですが、それは違います。例えばA君は跳び箱を飛べるのにB君は飛べない。スマホで動画を撮って、仕切りの位置や飛び出す角度を分析する。そういうのがプログラミング的発想であり、つまり理論的思考を教えるのだと思います。
 大切にしているテーマは「私は創造的でありたい」だ。
創造こそ人工知能(AI)にも動物にもできない最も人間的な活動です。ある小学校の先生がこう言っていました。「近ごろ元気に活躍している大人は小学生時代の問題児が多い。優等生はふるわない」。そういう時代なんです。
私は84歳になりましたが、前よりアタマが良くなった気がしています。たくさんの人に会い、いろいろな刺激を次から次へと与えてもらったことが成長の元になっているのでしょう。
(伊藤浩昭氏が担当しました)

銀行、巨大ITに対抗できるか(2020変われニッポン)

2020年は銀行を2つの大波が襲う。一つはマイナス金利政策で収益を削られる構図が続く。もう一つは異業種との競争だ。ヤフーを運営するZホールディングスとLINEが目指す「スーパーアプリ」は台風の目になりそうだ。銀行と異業種の生き残りをかけた競争で、革新的な金融サービスが生まれる年になるかもしれない。
銀行はこれまで営業職員を通じて個人や企業がどんな金融サービスを求めているのかを知り、実際にサービスを提供してきた。プラットフォーマーは多機能アプリなどの圧倒的な利便性を武器に金融機関と顧客との間に入る。銀行は戦略立案のうえでもっとも大事な顧客データを奪われ、顧客やプラットフォーマーによって複数の金融機関から選んでもらう立場になるかもしれない。
中国の「アリペイ」などのように生活に関わるほぼすべてのサービスを提供できる「スーパーアプリ」は、その最たるものだ。ヤフーとLINEの顧客は単純合算で1億人を超える。また有力なスマホ決済である「PayPay」と「LINEPay」を持つ。いずれも政府のポイント還元事業で商圏を広げた。メッセージアプリ内で決済だけでなく給与振込、金融商品の購入までできるようになれば勢力図は変わる。
企業融資の世界でも同様だ。たとえばクラウド会計のfreee(東京・品川)は地方銀行と組み、取引先企業の資金データをすべて可視化できるサービスを展開している。地銀にとっては取引先企業の実情が手に取るように分かる利点はあるが、もはやfreeeのサービスを通じてしか情報を入手できなくなるのではと懸念する声もある。
メガバンクも自前主義に限界を感じている。20年度中に設立が予定されているLINEとみずほフィナンシャルグループのスマホ銀行はLINE側が51%の出資を握る。銀行側は「助手席」(みずほ幹部)というわけだ。
三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は自社で進めていたコイン構想を転換し、20年からはリクルートが51%出資する新会社に委ねることを決めた。こうした戦略で銀行がどこまで主導権を残せるのか、バランスは手探りだ。
他支店との統合により移転予定の銀行の店舗(東京都世田谷区)
銀行に残された選択肢はそう多くない。新たな技術分野に手を広げる経営資源がマイナス金利政策によって削られているためだ。全国銀行協会が公表する全国115行の実質業務純益は2018年度に3兆240億円と3年で3割減った。
2019年には短期金利だけでなく、長期金利もマイナス圏に入り、市場運用も厳しくなった。合理化によって利益をひねり出そうにも、店舗や人員を減らすスピードには限界があり、規制対応での人員配置に経費もかかる。世界のマネーロンダリング(資金洗浄)対策を調査する金融活動作業部会(FATF)の審査もあり、預金の本人確認にもこれまで以上にコストがかかる見通しだ。
「できることなら銀行免許を返上したい」。銀行からはこんな弱音も漏れる。米マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ氏は1990年代に「銀行機能は必要だが今ある銀行は必要なくなる」と発言したが、では将来は誰が代わりに銀行の役割を担えるのか。
注目されるのは公正取引委員会の動きだ。スマホ決済業者の利用者が銀行口座からチャージする際に生じる手数料や、家計簿アプリに口座情報を提供する「オープンAPI」の手数料など、銀行の動きを調査し始めた。送金手数料や、その土台となっている「全銀システム」のあり方も調べており、それらの結果を20年3月までに公表する予定になっている。
公取委の狙いは、銀行が金融分野での技術革新を邪魔する構図になっていないかどうかのチェックだ。安全・安心を守ることと新しい技術革新を進めることのバランスはいつも難しい。だが銀行が単に既得権益を守る側だと世間からみなされれば、その先の試練はさらに厳しいものになる。20年はその分岐点になる。
(高見浩輔氏)

貧困の現状と対策(下) 労働巡る負の連鎖 断ち切れ 小原美紀 大阪大学教授

ポイント
○働く者の中での格差の拡大が日本の特徴
○親が非正規だと子供も非正規なりやすく
○子供の医療や高等教育への補助の拡充を
日本の世帯間格差は2000年代後半まで緩やかに拡大した後、高止まりしている。18年の経済協力開発機構(OECD)統計によれば、他の先進諸国でも同じ傾向にある。先進国の格差拡大の背景には高齢化の進展がある。加齢とともに世帯間格差は通常拡大するので、高齢者が増えれば社会全体の格差は大きくなる。
また技術革新とともに教育を受けた者とそうでない者の差も拡大したといわれる。高度な技術を使える者への収益が相対的に増えたことに加え、技術に見合う教育を受ける者が増えていないことも指摘される。
だがこれらだけでは日本の世帯間格差の特徴を説明できない。日本では働いているかどうかの差よりも、働いている者の中での格差が拡大している。特に低所得階層の増加が背景にあるといわれる。これは所得よりも、包括的な世帯の厚生(満足度)を表すとされる消費でみた場合にも当てはまる。多くの先進国でみられる高所得層がますます富む現象とは異なる特徴だ。
働いている低所得層の拡大といえば、非正規労働者と正規労働者の格差が思いあたるだろう。非正規の所得は相対的に低く、その差は依然大きい。さらに日本の場合、一度非正規になるとなかなかその状態から抜け出せないといわれる。つまり非正規の経済厚生は現在だけでなく生涯にわたり低くなる。そしてこれが彼らの将来不安につながる。
◇   ◇
非正規労働者の経済厚生を議論する場合には、統計の整理が欠かせない。感情的な意見や印象に基づく議論では本当に必要な政策にたどりつけないからだ。
こはら・みき 大阪大博士(経済学)。専門は応用計量経済学、労働経済学、家計行動の実証分析統計を分析する際にはいくつか注意が必要だ。第1に非正規労働者を世帯として把握したい。特に非正規が家計を担う者であるかどうかをとらえたい。
ある人が非正規労働者だったとしても、その人の世帯に安定した所得を得ている者が存在すれば、各世帯員の経済厚生は低くなりにくい。逆にいえば、世帯の状況を考えずに個人が非正規かどうかだけをみて、経済厚生を把握すれば非正規労働による経済厚生の低さを過小評価してしまう。その点、世帯全体で分かち合うと考えられる消費に注目して経済厚生を計測すればこの問題は小さくなる。
第2に非正規労働者の所得や消費が低いとしても、それがただちにその人の経済厚生の低さを表すわけではない。所得や消費よりも、非就業時間の長さを求める者はいる。例えば子育て中の者がそうだろう。消費だけでなく時間の価値の考慮も重要だ。
第3に経済厚生を計測する場合には、所得や消費といった金銭的な側面だけでなく、非金銭的な側面も考慮したい。例えば精神的なものも含めた健康状態の悪さは見過ごせない。
これらに気を付けながら2人以上世帯に関する統計を整理すると、家計を担う者が非正規である場合、所得や消費の水準が低いことがわかる。また特に既婚女性が非正規として働く場合には、働かない場合や正規として働く場合よりも精神的な健康状態が悪くなる。労働時間が短いことによる喜びよりも、所得が低いことによる苦痛の方が大きいのかもしれない。
このように、働きながらも低い階層に分類される世帯の経済厚生は低いとされる。その何が問題なのか。一つにこのグループに属する世帯が将来を考えた行動をとりにくいことがある。例えば不慮の事態、特に好ましくない出来事の発生に備えた貯蓄や投資がなされにくい。そして予備的行動をとれない世帯の方が、負の出来事に直面する確率が高く、発生したときの厚生の損失が大きい可能性もある。このことは個々の世帯の問題にとどまらない。社会全体の厚生の損失だ。
さらにそうした世帯に子供がいれば、予備的な行動をとらないことは長期的な厚生の損失につながる。次世代への負の連鎖である。「Great Gatsby Curve」として知られるように、格差が大きい国で階層移動が少ないという関係がある。これによれば格差が大きい社会では、低所得階層の親から生まれた子供が低所得階層にとどまる確率が高い。
不慮の事態に対する行動差だけが、この関係を発生させる理由ではない。因果関係をとらえた統計分析の見解は一致していないが、子供の健康に関する予防行動や子供のための教育投資、家庭環境の差などが理由として挙げられる。
より複雑なのは親の働き方の連鎖だ。家計を担う親が非正規として働いている場合、その子供も成人したときに非正規として働く確率が高くなりがちだ。親の職業ネットワークが子供の職業決定に影響していることや、良くも悪くも親がロールモデルとなっていることが背景にあるのだろう。
◇   ◇
ところで、人々は「働けない」のだろうか、それとも「働かない」のだろうか。この識別は政策を議論する際には重要となる。
貧困層を含む低所得階層で、人々が純粋に外的な理由で行動をとれないならば環境を改善すればよい。本人の能力不足や家庭環境の悪さにより就業に関する質の高い情報を得られないのなら、それを与える場所をつくればよい。一方、実際は行動可能なのに行動をとろうとしないのならば、環境整備にどれだけ資金を投じても効果は見込めない。
残念ながら両者を完全に識別することは難しい。ただし、わかっていることもある。貧困層を含む低所得階層に、働くとか将来のための行動をとるといった意欲を持てない層がいることだ。筆者の分析では、日本の既婚世帯で夫が常勤以外の被雇用者(低所得階層に属すると考えられる)である場合に、貯蓄できない割合だけでなく、貯蓄しようと思わない割合も高いことが示されている。
貧困層を含む低所得階層で負の連鎖が起きる背景に意欲を持てないことがあるのならば、推奨される行動をとったときに得られる便益を高める必要があるだろう。例えば子供が医療サービスを受けるといった将来のためになる消費に対する補填が求められよう。子供の厚生でいえば、子供が選択する高等教育への補助拡充も望まれるだろう。消費に対する補助ならば、労働意欲を阻害しない。

ローソン、データに活路 KDDIと資本提携発表

ローソンが16日、KDDIと資本業務提携すると発表した。ローソンが導入する共通ポイントサービス「Ponta(ポンタ)」の運営会社にKDDIが出資。将来はKDDIが手掛ける自社ポイントとポンタを統合し、顧客データ基盤を底上げする。データを基に会員の嗜好にあうクーポンや情報を配信して来店を促す。コンビニエンスストアの大量出店モデルが限界を迎える中、既存店の収益基盤を底上げし、将来のネットとリアルの協業でも先手を打つ。
KDDIはポンタを運営するロイヤリティマーケティング(東京・渋谷)に約20%、ローソンに約2%出資する。ロイヤリティ社にはローソンも20%出資している。将来はKDDIの自社ポイントとポンタが統合し、ポンタの基盤を強化する。KDDIのスマートフォン決済「auペイ」や電子マネーなどと連携させ、ポンタの会員数は約9300万人から1億人超に膨らむことになる。
ローソンは買い物でたまる共通ポイントでは「ポンタ」とNTTドコモの「dポイント」を導入している。ポンタの会員数が増えることで新たな利用客の流入が期待できる。小売り業態ではコンビニのデータ分析は群を抜くが、年齢などの属性分析や購買履歴などを蓄積する共通ポイントのインフラ基盤が強化されれば、マーケティングを精緻化できる利点もある。
KDDIは独自に電子商取引(EC)サイト「au Wowma!(ワウマ)」も手掛けており、ポンタがワウマで使えるようになれば、将来はローソンと共にネットとリアルの購買データを連係した顧客分析やマーケティングでの協力に発展する可能性もある。コンビニにとっても立地などリアル(実店舗)の接点だけでなく、ネット上での顧客接点は欠かせなくなっており、両社は提携により、ネットとリアルとの相互送客につなげるメリットも考えられる。
コンビニは店舗数増加やドラッグストアなど異業種との競合で、既存店の客数が伸び悩む。これまで収益を支えていた新規出店も人手不足などで限界を迎えており、ローソンの2020年2月期の新規出店から閉鎖店舗数を引いた純増数はゼロを計画する。600〜800店規模だった2〜3年前と比べると大きく下回っている。
ローソンは06年に電子マネーの活用を巡ってドコモからも2%の出資を受け入れており、携帯大手との資本提携は今回が2社目だ。ローソンはdポイントを通じても購買データの分析を進めており、KDDIとの提携後もドコモとの関係は続ける。今回のローソンとKDDIの提携を受けて、実店舗の雄であるコンビニとECの融合がさらに進む可能性もある。(矢尾隆行氏)
ドコモ・KDDI、QR決済で接近 相互利用可能に
電子商取引(EC)や金融など次世代サービスの顧客基盤となる決済分野でNTTドコモとKDDIが接近している。両社はQRコードを使うスマートフォン決済で提携して決済端末を互いに活用し、加盟店開拓でも協力する。携帯電話の新ルール施行や契約者数の頭打ちで通信料収入は伸びないため、両社は非通信分野を稼ぎ頭に育て、先行するソフトバンクに対し追い上げを狙う。
NTTドコモとKDDIは普及が進むQR決済で手を組む。加盟店開拓で連携するメルカリ傘下のメルペイ(東京・港)、LINEペイ(同・品川)、ドコモという3社の枠組みにKDDIが加わり、4社のQRコード端末のいずれかが店にあれば相互に使えるようにする。メルカリ、LINEにとっても個別に開拓するより携帯大手と組めば経費を抑えられる。
「利用可能な店を増やすとともにコード決済の導入負荷を下げる」。KDDIパーソナル事業本部の中井武志副本部長は3社枠組みに参加した理由をこう話す。ドコモウォレットビジネス推進室の田原務室長は「顧客との接点をあらゆる面で拡大させる」と歓迎する。
KDDIの前身企業には1985年のNTTの民営化時に競争相手として登場したDDIと、53年に旧電電公社から分離されたKDDがある。通信分野ではライバル関係だが、両社は「協調できる分野は組んでいく」(関係者)と決めた。
その背景には、急速にスマホ決済で存在感を増すライバル、ソフトバンクへの危機感がある。
同社とヤフーの共同出資会社ペイペイ(東京・千代田)は、18年末に「総額100億円還元」をうたう大型キャンペーンなどで認知度を高めた。利用者は開始1年となる10月に1500万人を突破し、ドコモの「d払い」(1000万人超)やKDDIの「auペイ」(600万人超)を引き離す。
決済基盤は携帯大手3社が強化するECや金融などの土台になる。ソフトバンクはヤフーを子会社にし、17日には新たなネットECモール「ペイペイモール」を開設したと発表した。出店料が無料の「ヤフーショッピング」を展開しているが、それより出店基準を厳しくし、ペイペイと連携して新たな顧客を狙う。
第1弾として年内に家電のダイソン、菓子のロイズコンフェクト(札幌市)など600店が出る。実店舗や月4千万人の会員が使うヤフーのビッグデータを分析して顧客への商品の推薦(レコメンド)機能を高め、競争力を高める。宮内謙社長は「他社にはまねできない未来を創る」と話す。
ソフトバンクはこのほか、グループ内に「ZOZOタウン」「ロハコ」というECモールも抱えている。ライバルのドコモやKDDIに比べて、この分野では圧倒的に先行している。
KDDIもEC事業に注力し始めている。4月には楽天と連携し、KDDIの「Wowma!(ワウマ)」で、出店事業者の商品の保管から出庫まで一括で担う「楽天市場」の物流網が使えるようになった。両サイトに出店する事業者を対象に始め、いずれはワウマだけに出店する事業者にも広げる計画だ。同社はカブドットコム証券に出資するなど、金融サービスも強化している。
携帯電話の総契約数は日本の人口を超えて頭打ちだ。10月に施行した改正電気通信事業法で2年契約の途中解約にかかる違約金は1000円以下となり、顧客流出のリスクも高まった。
環境が厳しくなる中、携帯各社は非通信事業の分野で提携の動きを進めている。米通信大手がメディア事業に参入し業界再編のきっかけとなる例もあり、携帯各社の業容の広がりは他分野の再編を促す可能性もある。
非通信のサービスを通信事業の顧客つなぎ留めに利用する動きも出ている。ドコモは3月から動画サービスでディズニーとの提携を拡大した。
各社は非通信事業を成長分野と位置付けている。ドコモは19年3月期の営業利益が全体の1割強の1473億円だが、これを早期に2千億円まで拡大する計画だ。
KDDIは22年3月期まで非通信分野の「ライフデザイン領域」の売上高を1兆5千億円と19年3月期に比べ1.5倍に増やす。連結売上高で非通信分野が推計2割のソフトバンクも拡大に意欲を示す。
政府は10月の携帯新ルール施行による値下げが不十分だと見て、今後も値下げ圧力を続ける。通信に依存する収益モデルの転換は待ったなしだ。
(新井重徳氏、駿河翼氏)

国際手話 五輪で注目

外国人との交流・ボランティア活用 熟練者の育成が課題
来年の東京五輪・パラリンピックを見据え、海外の聴覚障害者とコミュニケーションする方法として国際手話が注目されている。訪日外国人との交流やボランティアでの活用などが期待され講座で学ぶ人が増加。ただ正確な通訳ができるほど熟練した人はまだ少なく人材育成が課題だ。
東京都千代田区にあるビルの一室で5日、日本国際手話通訳・ガイド協会が運営する中級講座が開かれた。静かな教室で、講師と生徒数人が国際手話でさまざまな単語をやりとり。話が通じると一気に笑顔が広がった。
国際手話は、聴覚障害者が国際会議などで使用する言語。耳の聞こえない外国人が全員習得しているわけではないが、聴覚障害者による国際総合スポーツ大会デフリンピックなどで広く活用されている。
中級講座の生徒で埼玉県入間市のパート、青塚昌子さん(53)は「国際手話を身につけて東京五輪・パラリンピックの都市ボランティアに臨みたい」と声を弾ませる。講師を務めるガイド協会の砂田武志代表理事(58)によると、生徒は約3年前から3倍に増え、現在は約100人に上る。
東京都は、国際手話や米国で使われるアメリカ手話を学ぶ人に対し、受講料の半額を補助する制度を設けた。2014年度の利用者は110人だったが、2018年度は341人にまで伸びた。
学びの場は各地に広がる。ガイド協会は広島市ろうあ協会と連携し来年から広島県内で講座を開く計画を進める。被爆地を訪れる外国人を国際手話で案内することを目指す。
日本財団ボランティアサポートセンターは来年の東京大会の運営に携わる大会ボランティア予定者向けに開く手話講座に国際手話を盛り込んだ。9月に受講した千葉県浦安市の会社員、八木政道さん(33)は、チケット購入やレストラン案内を想定した手話を学び「世界中の人をおもてなしできたら」と目標を描く。
だが通訳者の人数は十分ではない。外国人向けにツアーと通訳ガイドを紹介する企業「otomo」(東京・文京)は、インターネット上で客がガイドを選ぶ際、英語などに加え国際手話を選択できるようにする予定だが、当面は用意できるガイドが5人前後にとどまる見通しだ。
2025年に日本でのデフリンピック開催を目指す全日本ろうあ連盟は今月末に学習本「Lets’ Try国際手話」を発行する。ページのQRコードをスマートフォンで読み取れば動画が見られる。吉野幸代理事(47)は「本を使って国際手話ができる人が増えてほしい」と語った。

給食から消えた和食 子どもの舌を取り戻せ

「昆布とかつお節を一緒に口に含んでごらん」
料理研究家の柳原尚之(40)が話しかけると、教室がしんと静まりかえった。少しすると、子どもたちがざわめき始めた。
「あ、おいしい」「いい香りだ!」
■小学校で和食を伝える
江戸時代に興り、和食を伝える「近茶流」の継承者である柳原は今、小学校の教壇に立つ。10月半ばのこの日は、東京都千代田区にある私立雙葉小学校を訪れた。担当したのは「味覚の授業」。今年で9回目となる食育活動で、全国の学校を料理人や料理研究家が訪れ、子どもたちに食文化を伝える取り組みだ。
授業が終わると、教壇には柳原を囲む子どもたちの輪が自然にできた。
「かつお節って木みたいに堅いよ」
「削り器ってこうなってるんだ」
一昔前の人なら当たり前のことにも子どもたちは驚く。多くの子どもにとっては、初めて見るものだからだ。
■人気ランキングでは急落
和食が好きと答える人は半分以下で、1998年には好きな料理で7位にいた「野菜の煮物」は24位。博報堂生活総合研究所による2018年の調査は、日本人の和食離れを映している。主席研究員の夏山明美は背景に、共働き世帯の増加があると見る。
夫婦がともに会社に通い、帰りが遅くなる家庭は多い。平日には夕食を準備する時間がなかなかとれず、スーパーやコンビニエンスストアの総菜を使ったり、宅配でピザや中華料理を頼んだりして食卓を囲む「中食」が活況だ。
季節ごとに旬の素材を使い、主食と主菜、副菜などをそろえる和食が栄養のバランスで優れている面はある。しかし日本人の働き方がかわり、食習慣そのものが和食から離れる傾向にある。
「先生が好きな食べ物ってなんですか」。小学生たちにそう聞かれた柳原は「季節の旬のものを食べるのが一番かな」と答えた。これが最も難しいという現実が、子どもたちを和食から遠ざけているのだ。
それでもまだ、日本の家庭には炊飯器があり、多くの人は家でご飯を炊く。「小さい時に食べたものは大人になっても食べたくなる。子どもの時にちゃんと和食の味を知ってほしい」と柳原は言う。
■和食が見当たらない
和食の人気を取り戻すため、子どもをつかむ。だが、子どもたちが頻繁に外食をするわけではない。子どもたちがいて、ご飯を食べているのはどこか。
学校だ。給食だ。
パン、ミネストローネ、ジャンバラヤ、チキンピラフ……。西居豊(36)は給食のメニューを手にして驚いた。和食がない。隣から聞こえた栄養教諭らのつぶやきは、今の子どもたちの舌の現実を端的に表していた。
「白いご飯は食べ残しが多いんですよ」
合同会社五穀豊穣で代表を務める西居は、築地で食材の仲卸を手掛けていた。11年、訪れた都内の小学校の給食に、伝統的な和食はほとんどなかった。
■ぜひ送ってほしい
「日本の食文化が廃れてしまう」。東京・恵比寿にある和食料理店「賛否両論」を営む笠原将弘(47)に相談したら、秋シャケなど季節の素材を生かした給食の献立を作ってくれた。
学校に送ると好評で、近くの学校からも「ぜひ送ってほしい」との声が寄せられた。子どもに給食をたくさん食べてほしい栄養教諭も、和食ではどうすればいいのか分からなかったのだ。ここから、子どもたちに和食を伝える草の根の取り組みが始まった。
■無形文化遺産で浮き彫りに
これに注目したのが農林水産省だ。2013年12月、和食にユネスコ無形文化遺産への登録が決まったことは、次の世代に和食の魅力を伝えていくことの難しさをかえって浮き彫りにしていた。
大人になってからでは遅い。まず子どもたちに和食の魅力を知ってもらう。2014年度から「和食給食」を国の政策として取り入れ、西居が事務局長となった「和食給食応援団」が主体となる活動を3年間支援した。
今は三井製糖やフジッコ、塩事業センターなどの食品メーカー、JA全中などが協力企業となり事業が続く。年に100回ほど、全国の学校に和食の料理人が出向き、子ども向けの授業を開いたり、給食を作る栄養教諭向けの講習会を実施したりする。
■食文化も学べる
学校に特に力を入れてもらっているのが、だしの取り方だ。1食250円の制約がある給食では、食材をぜいたくに使うことはできない。うま味を出すために、昆布やかつお節をぐつぐつと煮立て、しっかり絞りきってもらう。料理人が紡いできた和食のノウハウを伝える。
東京都目黒区の五本木小学校は2016年度から和食給食に取り組んでいる。サトイモとイカの煮物や小松菜のからしあえ、芋ようかんやゆでぐりなど、週に4〜5回は和食が並ぶ。食べ残しは4年生以降の高学年では特に目立たないという。栄養教諭の松本恭子は「食事から日本の食文化を学べる。社会科とも連携でき、食と知識が一体的に身についている効果」と感じる。
■もち麦を給食に
神戸市に本社がある煮豆・つくだ煮メーカーのマルヤナギ小倉屋も、若者に目を付けた。
「豆や雑穀なら食物繊維をたくさんとれますよ」
「だしを上手に使えば塩分や糖分、油脂を抑えられますよ」
管理栄養士の資格を持つ社員たちが地元の高校や専門学校に出向き、和食の良さを伝える。
「食育型カンパニー」を掲げる同社で副社長の柳本勇治は伝統食材の一つ、「もち麦」に力を入れる。2017年秋に兵庫県加東市で地元JAと組んで試験栽培を始め、2019年春には約70トンを収穫した。
全量を買い取るマルヤナギが蒸しもち麦に加工し、加東市内の小中学校の給食に納める。「おいしくて体にいい伝統食材を守りたい」。食品メーカーを経営する立場にある柳本の視線が子どもたちに向くのも、このままでは健康に良いはずの和食が廃れていくのを止められない、と感じているからだ。
■伝える人はいるか
和食は高級料亭や割烹(かっぽう)だけではなく、それぞれの家族で家庭料理として受け継がれてきた。だが、農水省の食育に関する意識調査によると、「地域や家庭で受け継がれてきた伝統的な料理を継承し伝えている」と考えている人は半分にとどまる。
「親も子どもも和食を知らないままでは、コメを作る人も器を作る人も廃れてしまう」。長く和食給食に携わってきた笠原は危機感を募らせる。将来の消費者となる子どもたちに選ばれる料理にならなければ、和食の未来は開けない。
(松尾洋平氏、小嶋誠治氏)

給食から消えた和食 子どもの舌を取り戻せ

「昆布とかつお節を一緒に口に含んでごらん」
料理研究家の柳原尚之(40)が話しかけると、教室がしんと静まりかえった。少しすると、子どもたちがざわめき始めた。
「あ、おいしい」「いい香りだ!」
■小学校で和食を伝える
江戸時代に興り、和食を伝える「近茶流」の継承者である柳原は今、小学校の教壇に立つ。10月半ばのこの日は、東京都千代田区にある私立雙葉小学校を訪れた。担当したのは「味覚の授業」。今年で9回目となる食育活動で、全国の学校を料理人や料理研究家が訪れ、子どもたちに食文化を伝える取り組みだ。
授業が終わると、教壇には柳原を囲む子どもたちの輪が自然にできた。
「かつお節って木みたいに堅いよ」
「削り器ってこうなってるんだ」
一昔前の人なら当たり前のことにも子どもたちは驚く。多くの子どもにとっては、初めて見るものだからだ。
■人気ランキングでは急落
和食が好きと答える人は半分以下で、1998年には好きな料理で7位にいた「野菜の煮物」は24位。博報堂生活総合研究所による2018年の調査は、日本人の和食離れを映している。主席研究員の夏山明美は背景に、共働き世帯の増加があると見る。
夫婦がともに会社に通い、帰りが遅くなる家庭は多い。平日には夕食を準備する時間がなかなかとれず、スーパーやコンビニエンスストアの総菜を使ったり、宅配でピザや中華料理を頼んだりして食卓を囲む「中食」が活況だ。
季節ごとに旬の素材を使い、主食と主菜、副菜などをそろえる和食が栄養のバランスで優れている面はある。しかし日本人の働き方がかわり、食習慣そのものが和食から離れる傾向にある。
「先生が好きな食べ物ってなんですか」。小学生たちにそう聞かれた柳原は「季節の旬のものを食べるのが一番かな」と答えた。これが最も難しいという現実が、子どもたちを和食から遠ざけているのだ。
それでもまだ、日本の家庭には炊飯器があり、多くの人は家でご飯を炊く。「小さい時に食べたものは大人になっても食べたくなる。子どもの時にちゃんと和食の味を知ってほしい」と柳原は言う。
■和食が見当たらない
和食の人気を取り戻すため、子どもをつかむ。だが、子どもたちが頻繁に外食をするわけではない。子どもたちがいて、ご飯を食べているのはどこか。
学校だ。給食だ。
パン、ミネストローネ、ジャンバラヤ、チキンピラフ……。西居豊(36)は給食のメニューを手にして驚いた。和食がない。隣から聞こえた栄養教諭らのつぶやきは、今の子どもたちの舌の現実を端的に表していた。
「白いご飯は食べ残しが多いんですよ」
合同会社五穀豊穣で代表を務める西居は、築地で食材の仲卸を手掛けていた。11年、訪れた都内の小学校の給食に、伝統的な和食はほとんどなかった。
■ぜひ送ってほしい
「日本の食文化が廃れてしまう」。東京・恵比寿にある和食料理店「賛否両論」を営む笠原将弘(47)に相談したら、秋シャケなど季節の素材を生かした給食の献立を作ってくれた。
学校に送ると好評で、近くの学校からも「ぜひ送ってほしい」との声が寄せられた。子どもに給食をたくさん食べてほしい栄養教諭も、和食ではどうすればいいのか分からなかったのだ。ここから、子どもたちに和食を伝える草の根の取り組みが始まった。
■無形文化遺産で浮き彫りに
これに注目したのが農林水産省だ。2013年12月、和食にユネスコ無形文化遺産への登録が決まったことは、次の世代に和食の魅力を伝えていくことの難しさをかえって浮き彫りにしていた。
大人になってからでは遅い。まず子どもたちに和食の魅力を知ってもらう。2014年度から「和食給食」を国の政策として取り入れ、西居が事務局長となった「和食給食応援団」が主体となる活動を3年間支援した。
今は三井製糖やフジッコ、塩事業センターなどの食品メーカー、JA全中などが協力企業となり事業が続く。年に100回ほど、全国の学校に和食の料理人が出向き、子ども向けの授業を開いたり、給食を作る栄養教諭向けの講習会を実施したりする。
■食文化も学べる
学校に特に力を入れてもらっているのが、だしの取り方だ。1食250円の制約がある給食では、食材をぜいたくに使うことはできない。うま味を出すために、昆布やかつお節をぐつぐつと煮立て、しっかり絞りきってもらう。料理人が紡いできた和食のノウハウを伝える。
東京都目黒区の五本木小学校は2016年度から和食給食に取り組んでいる。サトイモとイカの煮物や小松菜のからしあえ、芋ようかんやゆでぐりなど、週に4〜5回は和食が並ぶ。食べ残しは4年生以降の高学年では特に目立たないという。栄養教諭の松本恭子は「食事から日本の食文化を学べる。社会科とも連携でき、食と知識が一体的に身についている効果」と感じる。
■もち麦を給食に
神戸市に本社がある煮豆・つくだ煮メーカーのマルヤナギ小倉屋も、若者に目を付けた。
「豆や雑穀なら食物繊維をたくさんとれますよ」
「だしを上手に使えば塩分や糖分、油脂を抑えられますよ」
管理栄養士の資格を持つ社員たちが地元の高校や専門学校に出向き、和食の良さを伝える。
「食育型カンパニー」を掲げる同社で副社長の柳本勇治は伝統食材の一つ、「もち麦」に力を入れる。2017年秋に兵庫県加東市で地元JAと組んで試験栽培を始め、2019年春には約70トンを収穫した。
全量を買い取るマルヤナギが蒸しもち麦に加工し、加東市内の小中学校の給食に納める。「おいしくて体にいい伝統食材を守りたい」。食品メーカーを経営する立場にある柳本の視線が子どもたちに向くのも、このままでは健康に良いはずの和食が廃れていくのを止められない、と感じているからだ。
■伝える人はいるか
和食は高級料亭や割烹(かっぽう)だけではなく、それぞれの家族で家庭料理として受け継がれてきた。だが、農水省の食育に関する意識調査によると、「地域や家庭で受け継がれてきた伝統的な料理を継承し伝えている」と考えている人は半分にとどまる。
「親も子どもも和食を知らないままでは、コメを作る人も器を作る人も廃れてしまう」。長く和食給食に携わってきた笠原は危機感を募らせる。将来の消費者となる子どもたちに選ばれる料理にならなければ、和食の未来は開けない。
(松尾洋平氏、小嶋誠治氏)