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すべてはHIKAKINから 急成長UUUMの裏側 YouTubeの引力(2)

「それって仕事になるの?」。2013年3月、携帯販売会社を退職したばかりの鎌田和樹は、東京・日暮里のカフェで20代半ばの男に問いかけた。男は声や口の動きで楽器の音やリズムを再現するパフォーマー「ヒューマンビートボクサー」だ。「ユーチューバーという仕事もありまして」。「あやしいな」。鎌田はこう感じた。
■エアロスミスとの共演に驚く
これが後に日本で最も有名なユーチューバーとなるHIKAKIN(ヒカキン)との本格的な出会いだった。日本ではまだユーチューバーという言葉が、さほど知られていなかった頃のことだ。
ヒカキン(左)はユーチューバーの枠を超えた人気を得た
鎌田はほどなくしてヒカキンを見直すことになる。その年の6月のある日、シンガポールに行ってきたというヒカキンに「何してたの?」と聞くと「エアロスミスと共演しました」。米国を代表する大物ロックバンドだ。「この人は本物だ」。ビジネスにつながると直感した。
「動画で紹介するとその商品が売れるんですよ」。ヒカキンのこんな一言を聞いて思いついたのが、ユーチューブ版のテレビショッピング。こんなアイデアを持ってほかのユーチューバーともやり取りしているうちに気付いたことがあった。クリエーター気質のユーチューバーは、企業とのやり取りや営業活動が苦手な人が多かった。「それならまとめてサポートできないかな」。同年11月、6月に起業してとりあえずつくった会社を、ユーチューバーのマネジメント全般を手がけるタレント事務所に衣替えし、社名を「UUUM(ウーム)」とした。
■UUUM設立
13年末にはヒカキンは日本のユーチューバーとして初めて本格的に全国区のテレビCMに登場。知名度の高まりとともにUUUMも急成長した。
17年8月には東証マザーズに株式を上場。19年5月期の売上高は前年同期比68%増の197億円、営業利益は同74%増の12億円。19年には一時時価総額1000億円を超えた。上場する芸能事務所大手アミューズやエイベックスをしのぐ。
現在の売上高の6割近くを占めるのが、ユーチューブから受け取る広告料だ。ユーチューブは動画の冒頭などに自動的に流れる「アドセンス広告」に対する広告料を各ユーチューバーに支払っている。UUUMはこれをマネジメント業務の一環として一括して受け取り、8割を所属ユーチューバーに分配する。残り2割がマネジメント料としてUUUMの懐に入る。広告料はユーチューブ側が動画再生回数や登録者の数、属性をもとにした複雑な計算式で決めている。トップ級のユーチューバーは、これだけで億円単位の収入があるとされる。
ユーチューバーが家内制手工業で動画を配信していた時代に、ヒカキンや「はじめしゃちょー」といったスターをいち早く囲い込んだのが、鎌田が成功した最大の要因と言える。スマートフォンの普及でユーチューブを日常的に楽しむ若者が増える時期だったのも追い風だった。
パイオニアたちが所属しているのが求心力となり、次から次へと人気のユーチューバーがUUUMの門をたたき、雪だるま式に収益を増やしていく好循環を生んでいった。
■所属ユーチューバー300人超
急激な膨張にはリスクもある。UUUMの所属ユーチューバーは、今や300人を超える。鎌田が気にしているのは、動画の「炎上」やユーチューバーの不祥事だ。
「どうしてユーチューブを始めたの」。「どれぐらい準備しているの」。鎌田は新たなユーチューバーと契約するときには、事前に3時間以上の動画を見たうえで、質問攻めにする。1〜2時間話す時間があったら、会社について説明するのは15分程度だ。友人のような距離感で相手を見極めるのだという。
株式上場を機にコンプライアンス体制の構築にも腐心した。所属ユーチューバーの動画は専門チームが数十項目のチェックリストをもとに全て確認する。項目は著作権侵害のリスクから倫理的な問題まで多岐にのぼる。週に数本は問題のありそうな動画が見つかり深刻度に応じてユーチューバーに対応させる。鎌田は「チェック体制には自信がある」と胸を張る。
鎌田は「チェック体制には自信がある」という
■「自由」とコンプライアンスの間
ユーチューバーの研修にも力を入れている。年2回コンプライアンス研修を開き、過去に炎上した動画をもとに何が問題だったのかを解説する。たとえば背景に何が映り込んだらプライバシーを侵害しそうか。外で撮影する場合には、偶然入った一般人から苦情を寄せられる懸念もある。海外の人が見たらどう感じるか、という点にも気を配っている。
こうした取り組みもあって、炎上リスクを嫌ってこれまで見向きもしなかった大手企業からも声がかかるようになった。ユーチューバーが企業の商品を宣伝するタイアップ動画も売上高の2〜3割を占める収益部門に育った。
ただ難しいのはユーチューブならではの、個人の発信だから実現できる「作り手の自由」とコンプライアンスのバランスだ。
作り手の自由を確保するため、UUUMが動画をチェックするのはユーチューブに公開された後だ。どんなに事前に研修しても、再生回数を稼ぐための”炎上商法”は後を絶たない。広告主から見て一定のリスクは残っている。
UUUMは「TikTok」など新たな動画配信サービスにも接近している
■脱ユーチューブ依存
テレビ出身の芸能人も交えたユーチューバー間の競争の激しさの裏返しともいえるが、鎌田自身も安閑とはしていられない。大きな課題の一つが、UUUMの今の最大の収益源が、ユーチューブからの広告料である点だ。
どこにどれだけ広告料を支払うかはユーチューブ次第。ひとたびユーチューブ側が条件を変えれば、収益に影響を及ぼす可能性がある。そもそも新しい無料動画配信サービスが次々に登場する中、いつまでもユーチューブがその王様でいられるとは限らない。UUUMがいつまでも先行者利益を得られるわけではない。
UUUMは「ユーチューブ頼み」からのシフトを急速に進めている。18年にインスタグラマーを支援する企業を吸収合併し、19年には「TikTok(ティックトック)」投稿者のマネジメントを手がける企業と提携。ライブ配信でLINEとの提携も決めた。
「もっと個人が前面に出てくる時代になる」。鎌田はエンターテインメントの先行きについてこう確信している。「ユーチューブはその手段の一つにすぎない」。無料動画配信の主役が変わった時に、どうやって新たなクリエーターを発掘し、どこで勝負するのか。常に思いを巡らしている。
=敬称略、つづく
(清水孝輔)

9割が消える? ユーチューバーが迎える試練のとき YouTubeの引力(1)

無料の動画配信は有料とは異なる世界が広がっている。動画サイト「ユーチューブ」に自らを撮影した作品を投稿し、収入を稼ぐ「ユーチューバー」が、その中心だ。トップクラスの年収は億単位で、子どもの憧れの職業の一つに数えられるようになったが、近年、試練に直面している。類似作品が相次ぎ爆発的なヒットが生まれなくなっていることに加え、テレビからの参入者が草創期から活動するユーチューバーの視聴者を奪う。動画市場を支えてきたユーチューバーたちはどこに向かうのか。
「世界最大級のグミ、一人で食います!」。Tシャツ姿の青年がマンションの一室で、巨大なグミを次々と口へと放り込む。2015年の投稿後に1億2千万回以上再生されたこの動画の主は、チャンネル登録者数国内トップの約830万人を誇るユーチューバー、はじめしゃちょーだ。
はじめしゃちょーの巨大なグミを食べる動画は1億回超の再生回数を記録(UUUM提供)
再生回数わずか3回の自己紹介動画からスタートしたユーチューバー人生は、「スライムで満たした浴槽に入る」や「コンビニの全種類のパンを買って混ぜる」など、ユニークなアイデアで幅広い世代の支持を集め、登録回数を伸ばしていった。動画中に使用した商品は売れ行きが伸びるなど、動画のインパクトの強さは企業も着目。商品の共同開発は引きも切らない。
ユーチューバーのマネジメントを手掛ける事務所、UUUMに所属し、テレビCMにも出演。社会的な知名度を獲得し、16年に登録者数日本一に輝いた。総再生回数が100億回を超えるユーチューバー、HIKAKINと並び業界のトップを走り続けてきた。
そのトップランナーが今、「動画の内容も変えていかないと……」と危機感を漏らす。再生数が1千万を超える動画は、多くが2〜3年以上前のもの。体を張った実験やゲーム実況といった「定番もの」が氾濫し、かつてのような爆発的ヒットは至難の業となっている。
有力なライバルも登場している。テレビからの参入者だ。
■「プロ」の参入
「さあ今日もやってまいりましょう、エクストリーム現代社会、米中新冷戦編!」
お笑いコンビ「オリエンタルラジオ」の中田敦彦が開設した「YouTube大学」。ホワイトボードと軽妙な語り口で歴史や政治・経済を解説する異色の内容は、お笑いファン以外にも支持を広げる。19年4月開設で再生回数は1億6千万回を超え、芸能人ユーチューバーの代表格の一人となった。
19年10月に人気グループ「嵐」がユーチューブチャンネルを開設すると、チャンネル登録者は瞬く間に約250万人に。こつこつと独自の動画を発信し、登録者を積み上げてきたユーチューバーにはできない芸当だ。
■自由度が魅力
なぜ、著名人がユーチューブに入ってくるようになったのか。さきがけとされるお笑いコンビ「キングコング」の梶原雄太は「1人で時間を使える魅力」を挙げる。梶原によると、ひな壇に芸能人を集める1時間のバラエティー番組で、お笑い芸人に与えられる時間は「長くても1人5分」。「いまのテレビ番組ではスターが生まれにくい」と明かす。
お笑いコンビ「キングコング」の梶原雄太はユーチューバー「カジサック」としても活動する
18年10月にユーチューバー「カジサック」として活動し始めた梶原は、テレビで得た自らの強みを生かす。他の芸人との共演や、過去に出演した人気バラエティー番組の再現など、テレビ視聴者もつかむ企画を打ち出した。ほぼ連日投稿する動画は数十万単位で再生され、登録者は目標の100万人を大きく上回る160万人に達した。
■「テレビより収入は上」
動画の魅力は自由度だけではない。その市場規模の大きさだ。ユーチューブの月間ログイン視聴者数は世界で20億人。サイバーエージェント子会社のCA Young Lab(現Cyber Now)が18年に発表した国内ユーチューバーの市場規模は、15年の33億円から17年に219億円に急拡大。22年には579億円まで伸びると予測する。テレビ離れがささやかれる一方で、ユーチューブは若い世代の多くが接したことがあるメディアに成長した。
「ユーチューブの広告収益は、再生数1回あたり0.1円」―――。運営側は明らかにしていないものの、多くの関係者が明かす基準だ。動画の時間や内容、視聴者の年齢などによって異なり、人気が出れば1回あたり1円前後に上ることもあるという。100万回再生の動画1本ならば数十万円が稼げる計算だ。人気が出れば、物販や企業との共同企画などでさらに上振れする。梶原は詳しい基準は明かさなかったものの、「テレビでレギュラー番組を持っていた時代よりも全然収入は上。ユーチューブでスターになればいい」と話す。
■「9割が消える」
動画市場の黎明期を支え、市場拡大を後押ししてきたのが、低コストでユニークな動画を作り続けてきたユーチューバーであることは間違いない。彼らが開拓してきた市場に、若者が距離を置き始めているテレビ界からの参入者が相次ぐのは自然な流れともいえる。
強敵の登場に、ユーチューバーの未来はどうなるのか。ユーチューバー支援に取り組むユーチューバーNEXT(東京・千代田)の社長、岡野武志は「100万人近くの登録者がいる人気ユーチューバーも、10年後には9割が姿を消すだろう」とみる。
予算や人手が限られ、アイデア勝負のユーチューバーの動画は他者に簡単に模倣されてしまうのがネック。かつて人気だった「○○をやってみた」という類いの実験動画は、同様の動画が数多く投稿されたことで飽和状態。「一部のトップを除けば、自身の才能というより、たまたま黎明期に投稿を始めたら業界が盛り上がったという人も多い」と指摘する。
■テレビとネットの垣根は
はじめしゃちょーも環境の変化を実感している。「(同じことをやってる動画なら)素人より芸能人の方が見られる。ネタや映像の内容で勝負し、芸能人のネームバリューを超えられるかどうか」
はじめしゃちょーは多人数が参加するチャンネルを新設するなど次の一手を模索。19年末には、自身のチャンネルに芸能人を呼ぶ企画を開催した。再生数は290万回に上り、「いい意味で、テレビとネットの垣根がなくなってきた。クリエーターが多角的に活動するようになる」
岐路を迎えているユーチューバー。その中心にいるのが、100人を超えるユーチューバーが所属する最大手のUUUM。動画の作り手のみならず、マネジメント側のビジネス戦略も変化を迫られている。
=敬称略、つづく
(岩沢明信氏、篠原英樹氏)