「プラスチックごみ再生」カテゴリーアーカイブ

海洋プラスチックごみ問題の解決に向けて“共創”で実現する循環型社会へ

サントリーホールディングス 執行役員
コーポレートサステナビリティ推進本部長

福本 ともみ氏

福本 ともみ氏

サントリーホールディングス 執行役員
コーポレートサステナビリティ推進本部長福本ともみ氏、慶応義塾大学大学院修了。1981年、サントリーに入社。2012年サントリー芸術財団サントリーホール総支配人、15年サントリービジネスエキスパート常務取締役・お客様リレーション本部長などを経て16年サントリーホールディングス執行役員コーポレートコミュニケーション本部長、18年にコーポレートサステナビリティ推進本部長に着任、現職。兼職で公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン理事。

サントリーでは、グループ全体の売り上げの約6割を清涼飲料が占めており、プラスチック問題は非常に重要な課題です。こうした社会課題に対する当社のサステナビリティ活動は、経営理念に根差したものだということからお話ししたいと思います。

1899年に鳥井信治郎が大きな夢と強い信念をもって創業した当社には、今も経営の支柱になっている2つの精神があります。1つは常にチャレンジをする「やってみなはれ」の精神で、2つ目は「利益三分主義」です。「利益三分主義」とは、私たちの事業はお得意先様とお客様、そしてこの社会のおかげで成り立っており、事業で得た利益は、「事業への再投資」にとどまらず、「お得意先様・お取引先様へのサービス」や「社会の貢献」に役立てていこうという考え方です。

いまでは海外の投資家や企業でマルチステークホルダーという考え方が浸透し始めていますが、サントリーだけではなく、日本企業にはこれに相当する考え方が100年以上前からありました。ESG(環境・社会・企業統治)やサステナビリティは海外から輸入されたテーマではなく、自分たちのフィロソフィーとして追求していくものだと私たちは考えています。

サントリーはこれまで時代に合った社会課題に取り組んできました。創業期には生活困窮者が無料で診療を受けられる診療所等を開設し、戦後の高度経済成長期には、真の豊かさのためには心の豊かさが必要であるとの思いからサントリー美術館やサントリーホールを開館しました。公害問題が浮上した70年代には愛鳥活動を展開し、90年代以降は、全社環境方針のもと、水源涵養(かんよう)活動「サントリー天然水の森」等を軸とした環境経営を推進してきました。

これらの活動の起点となったのは「やってみなはれ」と「利益三分主義」の精神です。その精神の下に、いま私たちが目指しているのが事業活動を通じて「人と自然と響きあう」ことです。私たちの事業によって人々の生活や社会がさらに豊かになり、同じように自然環境も持続可能になっていく。これを実現することがサントリーの存在意義であり、サステナビリティ経営そのものだと考えています。

そしてグループ全体でこのサステナビリティ経営を推進していくため、昨年「サステナビリティ・ビジョン」を策定し、サントリーグループにとって特に重要な「水」「二酸化炭素(CO2)」「原料」「包材」「健康」「人権」「生活文化」の7つのテーマを掲げました。その中でも「包材」分野の課題であるプラスチック問題は、海外も含めたグループ全体で取り組んでいくべき重要な課題であると考えています。

水と生きる
2030年までにペットボトルを100%サステナブルなものにプラスチック基本方針の策定へ
02.

プラスチックはその有用性により私たちの生活に様々な恩恵をもたらしています。軽くて丈夫といった利便性だけではなく、密封性にも優れていることから「食品ロスの低減」といった社会課題の解決にもつながる素材です。

一方、プラスチックには課題もあります。ポイ捨てや分別せずに捨ててしまうなど、使用後に適切に処理されないことで再利用されず、環境問題を生じさせてしまっています。

これまでサントリーはこの課題解決に向け、2R+B(リデュース・リサイクル・バイオ)戦略のもと様々な取り組みを実践してきました。使用量を削減するリデュースでは1990年代から容器デザインを何度も見直し、90年代と比較し、現在ではプラスチックの使用量を約半分にまで下げることができています。ただ、このような活動だけではプラスチック問題を解決することはできません。そこで、問題の根本解決につながる対策にグループ全体で取り組むため、昨年「プラスチック基本方針」を策定しました。

目指すのは循環型社会、そして脱炭素社会の実現です。サントリーグループが使用するプラスチックの約8割がペットボトルです。基本方針では、2030年までにグローバルで使用するすべてのペットボトルを、サステナブルなものに切り替える目標を掲げました。具体的には、使用するすべての原料をリサイクル素材、あるいは植物由来素材100%に切り替え、新たに化石由来原料を使用しないことを目指しています。

皆さんご存知のように、日本のペットボトルのリサイクル率は高水準です。回収率は約9割、リサイクル率も8割を超えており、ペットボトルやトレイ・シート、衣類、成形プラスチック製品などにリサイクルされています。ただ、注目すべきは、そのなかでペットボトルにリサイクルされているものがまだ4分の1ぐらいにとどまっていることです。他の製品に生まれ変わる場合には、現段階では数回程度のリサイクルですが、ペットボトルからペットボトルへの水平リサイクルは、理論上は半永久的にリサイクルができるのです。そこでサントリーでは、このボトルからボトルへのリサイクル(BtoB)を広げていく取り組みを行っています。

この循環型社会の実現には、あらゆるステークホルダーとの連携と共創が不可欠です。これまで取り組んできた容器やラベルの軽量化やペットボトルのリサイクル技術の開発なども、一社だけで実現できるものではありませんでした。業界や国境を超えた多様なステークホルダーが連携してこそ循環型社会が実現します。

化石由来原料の新規使用ゼロの実現
国や業界を超えた協業で実現するプラスチックの再資源化
03.
福本 ともみ氏

サントリーホールディングス 執行役員
コーポレートサステナビリティ推進本部長福本 ともみ氏

言葉で言うのは簡単ですが、垣根を越えた連携は容易ではありません。そうした状況の中でサントリーが推進する連携や共創の事例をいくつかご紹介します。

まず2011年、協栄産業様との協働で半永久的にペットボトルが再生化できる「ボトルtoボトル(BtoB)メカニカルリサイクルシステム」を国内飲料業界で初めて構築しました。これにイタリアのSIPA社、オーストリアのEREMA社の技術が加わり、輸送と溶解の工程を省くことに成功し、より環境負荷が軽くかつ効率的に再生化する「フレークto プリフォーム(FtoP)ダイレクトリサイクル技術」が2018年に実現しました。

こうした国を超えた協働は、CO2排出量の大幅な削減をもたらしました。従来のBtoBリサイクルとの比較で約25%、石油から新たにペットボトルをつくる場合との比較では、60%以上のCO2が削減できています。

再生可能な素材の開発についても、海外企業との協働を試みています。米国バイオ化学ベンチャー企業のAnellotech社との、植物由来原料100%のペットボトルの新素材開発の取り組みです。非食用の松の間伐材を使用した原料の生成に成功し、実用化に向けて取り組みを進めています。

新たな挑戦からは思わぬ副産物も生まれます。Anellotech社との今回の開発過程で、ペットボトルだけでなく、リサイクルが困難なレジ袋や弁当容器などに使われるプラスチックを効率的に再資源化する技術の芽を発見しました。このプラスチック問題に大きく貢献する可能性のある、使用済みプラスチックの再資源化技術の開発・実用化を推進するため、業界の垣根を超えた12社が共同出資する新会社「アールプラスジャパン」を設立しました。

私たちがこの技術を使って目指すのは、プラスチックからプラスチックを再生するエコシステムの構築です。その実現のために、原料メーカーから容器消費財メーカー、廃材処理会社までプラスチックのバリューチェーン全体にわたる異業種の企業が集結しました。これまで再資源化は難しいと言われてきたその他プラスチックですが、この技術の実用化で循環利用の道を開いていこうという志を持った連携が生まれました。一日も早い実装化に向けて取り組みを進めていきたいと思っています。

国や業界を超えた連携は技術だけでなく、ソリューション全般において重要です。私たちが事業を展開している国や地域の中には回収インフラ自体が構築されておらず、分別してゴミを出す習慣がない地域も多くあります。そのような国や地域ではそれぞれの実情に即したソリューションの開発や啓発活動などが必要であり、それは当然企業一社ができることではありません。

例えばベトナムでは、当社のグループ会社が政府と企業によるローカルアライアンスに立ち上げから関わり、回収インフラの構築や人々への啓発活動の展開方法を検討し、活動をスタートしようとしているところです。

こうした各国でのローカルアライアンスは社会変革の要となります。そしてこのローカルな取り組みを支えるのは、グローバルな連携によるサポートです。当社は昨年の11月にワールドエコノミックフォーラム主催のプラスチックによる環境課題の解決に取り組むグローバルなアライアンス「Global Plastic Action Partnership(GPAP)」に日本企業として初めて加盟しました。GPAPが推進するプラスチック問題解決に取り組む国や企業へのノウハウや専門人材の紹介なども重要な役割だと考えています。

BtoBリサイクルの技術連携

様々なステークホルダーとの連携で循環型社会を実現させていく
04.

私たちの活動はスタートラインに立ったところです。パートナー企業の皆様と志を一つにすることの大切さを実感する一方、具体的な課題で実際にベクトルをあわせていくことの難しさも実感しています。これを乗り越え、様々な技術や知見を持つプレーヤーが、それぞれの力を結集し融合させることができれば、社会を大きく動かすムーブメントを起こせるはずだと確信しています。プラスチック問題だけでなく、サステナビリティ課題は山積しています。この「共創」というスキルを磨くことが、そういった課題の解決にも大きく貢献すると信じています。

今後も様々なステークホルダーと連携しながら循環型社会の実現に向けてしっかり取り組んでいきたいと思います。

プラごみ「0」へ 研究活発 微生物で分解/カメラで監視し回収

海洋を漂うプラスチックごみは環境を汚染し、エサと間違えて食べたウミガメや海鳥などの命を奪っている。2019年に開かれた20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)では50年までに流出をゼロにする目標が立てられた。プラスチックの利用をすぐにやめるのは難しい。目標達成に向け、分解や回収など新たな対策技術の開発が活発になってきた。
ペットボトルは海洋プラごみの典型例といわれる。丈夫で飲料容器などに多用されるが、ポイ捨てされるとそのままの形でいつまでも残る。その原料のポリエチレンテレフタレート(PET)という樹脂を分解する初の微生物が日本で見つかり、プラごみ問題に挑む世界の研究者の注目を集めている。
この微生物「イデオネラ・サカイエンシス」は、京都工芸繊維大学の小田耕平名誉教授が05年に分離に成功し、16年に命名した。見つけた場所は大阪府堺市にあるリサイクル用ペットボトルの集積地だ。「分解してほしいものがたくさんある環境にこそ、目的の微生物はいる」という小田名誉教授の読みが当たった。採取した地名を微生物の名前に取り入れた。
サカイエンシスは小さく切り刻んだ厚さ0.2ミリメートルのPET片なら、6週間で二酸化炭素(CO2)と水に分解する。余分なエネルギーや高価な装置を必要とせず、PETボトル処分の新手法になる可能性がある。「分解反応を途中で止めて、生成物を回収できればペットボトルの原料として再利用できるかもしれない」(小田名誉教授)。慶応義塾大学などと協力して16年に論文を発表後、同じような微生物がいないか世界で探索が始まった。
プラごみが海洋で漂う理由は分解しないからだ。生分解性プラスチックがすでに実用化されているが、土壌中の微生物の力を利用している。海洋は微生物が少なく温度も低く、一般の生分解性プラスチックもごみになってしまう。三重大学の野中寛教授はこの課題を解決しようと、海洋で分解するプラスチックの開発を目指している。
木粉やコーヒーかすを主原料にし、自然由来ののりを加えた新材料を東京農工大学などと共同で開発した。すでにストローや食品トレー、カップなど様々な形に成型できることを確かめている。海洋で分解するプラスチックも一部で応用されているが、微生物による合成を利用するなどコストが高くなりがちだ。海で実際に溶けるまでに長時間かかるという課題もある。新材料は安価に作れ、海洋での分解も早い可能性がある。
実用化するには耐久性を高める必要がある。現時点では水に弱く20分ほど浸すと軟らかくなってしまう。野中教授は「素材や構造を工夫したりはっ水剤を使ったりして耐水性を高められる。水を含んでも1時間はもつ性能にしたい」と意気込む。
海洋への流出を防ごうという取り組みもある。東京理科大学の二瓶泰雄教授と片岡智哉助教らは、川を流れるプラスチックなどの人工ごみを自動で検出するシステムを開発した。川の表面を動画で撮影し、画像の色の差を利用して瞬時に自然のごみと人工のごみを見分ける。現在、三重県の天白川で試験中だ。
海洋プラごみの7〜8割は川を経由している。この7〜8割は洪水時に流出するともいわれる。15年に発表された調査によると、日本では推定で年間2万〜6万トンのプラスチックが海に流出しているもようだ。いったん流出したプラごみを回収するのは容易ではない。対策は急務だ。
二瓶教授らは画像の面積から流れるごみの量を計測する手法も開発中だ。流れるごみの量が分かれば、流出源を特定して対策も打てる。二瓶教授は「自治体の啓発活動に役立ててもらいたい」と話す。ただし、プラスチックごみを見つけても現時点で自動的に回収する技術が無い。「簡単にごみを回収する方法も目指したい」(二瓶教授)
日常生活の利便性を高めるうえでプラスチックの役割は大きい。使った後の軽率な行動が結局、私たちを取り巻く環境の悪化を招いている。新技術の開発とともに、ごみにしない行動にも目を向ける必要がある。
(福井健人)