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米経済学会、黒人や女性の活躍促す 面接ルールも変更 「多様性は革新にプラス」と自ら動く

黒人の女性経済学者らが、自らの体験を語り合った(3日、米カリフォルニア州サンディエゴ)
米国で130年超の歴史を持ち、2万人超の経済学者や学生が会員となっている米国経済学会が、より多様性を持つ場に変わろうとしている。米国で経済学は長らく白人男性中心の分野とされてきた。1月3〜5日に米カリフォルニア州サンディエゴで開かれた米国経済学会の総会では、黒人や女性の活躍を促すための活発な議論がなされた。
「黒人女性が経済学を専攻することについて」――。ボストン大やミシガン州立大など5人の黒人の女性経済学者が集ったパネルディスカッションで、人種と性別で分けた博士課程の学位取得者のデータが示された。黒人男性はその他の人種の男性と比べて10分の1以下で、黒人女性はさらに少なかった。「掃除をする人、コーヒーを補充する人とみなされている」。自らの体験談を交え、学術界の現状と課題を話し合った。
会場には性的少数者「LGBTQ」への理解を深めるためのブースも初めて設けた。会場全体で多様性を重んじる姿勢を打ち出すに至ったのには前段がある。昨年9月、大規模な会員への調査結果を公表した。
「性や人種による差別や不公平な扱いを受けた経験はありますか」。47にわたる質問項目で、会員個人の体験を尋ねた。結果は人種や性別で明確な違いが出た。「ある」と答えた人の割合は白人男性で6%だったが、白人女性で50%、黒人女性では62%に上った。
「自分の評価に対する満足度」も、性に応じて異なった。男性は46%だった一方で、女性は25%、性的少数者は34%だった。「学会発表で、著名な学者から同性愛者という理由で無視された」という自由回答もあった。根強い偏見も浮き彫りとなった。
「経済学を取り巻く空気を変える」(経済学会会長のベン・バーナンキ元FRB議長)。コロンビア大学の伊藤隆敏教授は経済学的な観点から「社会の『偏見』を統計的に正当化する悪循環が起きている」と説明する。
具体的にはこうだ。女性や黒人の能力が低いという偏見が社会にまん延した結果、会社の幹部や教授など主要ポストに採用されず、それを見た若い女性や黒人が努力しなくなり、結果的に優秀な人の比率が下がるというサイクルだ。「女性、黒人、移民、誰であっても能力があれば偏見なく登用する」という客観的な基準を明確にすることで「長期的に偏見の悪循環を断ち切る」効果があるとみる。
開かれたホールで採用面接を実施する(3日、米カリフォルニア州サンディエゴ)
経済学会の会合は、助教や准教授など学術ポストを目指す学生にとって、様々な大学の教授陣と会える最大の就職面接の場でもある。学会は今年から、採用面接に関して女性の心情に配慮し、面接ルールを変えた。教授らが泊まるホテルの居室での採用面接を禁じたのだ。性的被害を告発する「♯MeToo」に呼応する動きだ。
「教授の服が散らかっているベッドに座って面接をしていた。不愉快だ」。米国の女性博士研究員(29)はルール変更を歓迎する。面接する側も「当然共感する。オープンな場が必要だ」(オーストラリアの大学の講師)と話す。
諸外国を比較すると、米国で経済学を専攻する女性の割合は高い。2018年は教授で14%、准教授で28%だ。博士研究員も3割に上った。経済協力開発機構(OECD)によると、日本では研究者全体でみて女性比率は17%にすぎない。米国経済学会のルール変更は、女性の活躍が増えてきたからこその動きともいえる。
(サンディエゴで、大島有美子)

剥奪されかけたW杯開催 裏方たちのスクラム ラグビーW杯協奏曲(3)

「日本で成功するわけがない」。今回のラグビーワールドカップ(W杯)は、そんな前評判を覆しつつある。チケット売上高は当初予想の1.5倍超の350億円に達し、総収入はラグビー発祥の地イングランドで開かれた前回大会を上回る見通しだ。だがここに至るまでには、様々な曲折と日本代表OBや関係する企業人ら裏方の奮闘があった。
■南ア戦勝利、もう一つの意味
2015年9月19日、英ブライトンで行われた前回W杯予選の南アフリカ戦。優勝2回を誇る強豪を日本代表が破った「ブライトンの奇跡」には今回のW杯を左右する大きな意味があった。
日本でのW杯開催は2009年には内定していたが、実はこの時、その座が揺らいでいた。開幕戦と決勝戦を行う予定だった新国立競技場の建設費が3000億円を超えることが判明。世論の反発からデザイン公募がやり直され、W杯開催に間に合わないことが明らかになったからだ。
「新国立競技場を使えないなら客席やVIPスペースが減り、数十億円の減収になる」「減収分を補填するため日本政府に追加で1億ドル払ってほしい」「無理なら開催地の変更も辞さない」。ラグビーW杯を主催するワールドラグビー(WR)は日本のW杯組織委員会に対し、再三厳しい要求を突きつけてきた。
■勝利で鎮まった反対論
日本開催の反対派の急先鋒(せんぽう)が実は南アだった。新国立の問題による減収に加え、南半球の最高峰リーグ、スーパーラグビーへの日本の参戦準備の遅れなどを理由に、開催地を”強奪”しようとWRに働きかけていた。日本の身内であるはずの前日本代表ヘッドコーチ、エディー・ジョーンズ(59)すら南ア開催に賛成したとされる。だが「ブライトンの奇跡」を目の当たりにしたWRのブレット・ゴスパー最高経営責任者(CEO)は試合直後、日本の協会幹部に「おめでとう。これで問題はなくなった」と握手を求めた。反対論は一気に鎮まった。
この南ア戦を語る上で欠かせないのが日本代表元主将の広瀬俊朗(37)だ。ジョーンズに生来のリーダーシップを見込まれ、代表経験がほとんどなかったにもかかわらず主将に抜てきされた。だがW杯開幕1年半前に主力から外れ、リーチ・マイケル(30)に主将を引き継いだ後も、相手チームの分析や先発する選手のフォローなど裏方として汗をかいた。

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君が代も練習 多国籍代表の緻密なラグビー ラグビーW杯協奏曲(2)

6月上旬から7月中旬まで断続的に行われたラグビー日本代表の宮崎合宿。豪華なリゾートホテルの一室から、時折「君が代」が聞こえてきた。
慣れない日本語の歌詞と格闘しながら声を合わせていたのは、同部屋だった南アフリカ出身のピーター・ラブスカフニ(30)と、オーストラリア出身のジェームス・ムーア(26)。海外生まれながら、「3年以上継続してその国・地域に居住」という、国際統括団体ワールドラグビー(WR)の規定をクリアして今夏、日本代表となった選手だ。
【前回記事】 リーダーが10人 ラグビー日本の意思決定力
9月6日のワールドカップ(W杯)前哨戦、南アフリカとの試合前の国歌斉唱では、大きく口をあけて歌う2人の姿があった。「君が代に敬意をもっているので、ちゃんと練習した。何回も歌っているのでほぼマスターしたと思う」とラブスカフニ。
もちろん母国との対戦に抱いた複雑な感情も隠さない。「小さいころはまさか自分が日本代表として国歌を歌うとは夢にも思わなかった。南アの国歌を聴くと感情が高ぶるが、いまは日本の国歌を歌うことを誇りに思うし、振り返ってみても(日本代表になる)選択は良かった」
今回のW杯日本代表31人中、海外出身者は15人。前回2015年大会の10人を上回り、過去最多だ。他競技を見渡してみても、これほど「多様性」をキーワードに語られる日本代表はかつてなかった。その重要性を最も理解しているのが、ニュージーランド出身で日本に帰化した主将、リーチ・マイケル(30)だ。
■日本史も学べるクイズ大会も開催
前回大会も主将として海外出身選手たちに「君が代」を教え、歌うことを促した。リーチは「ラグビーというスポーツは情熱と愛国心が大事。情熱を出すために、国歌を歌うことは重要だと思う」と話す。リーチ自ら歌唱指導し、歌詞の意味も教えた。
出身国が7つと、これも過去最多となる代表をまとめる工夫はそれだけではない。代表の滞在先の一室には昨年から、甲冑(かっちゅう)が飾られている。名前は「カツモト」。ハリウッド映画「ラストサムライ」で渡辺謙が演じた「勝元」にちなんだ。他にも過去の代表選手の名が刻まれた模造刀などが飾られている。
リーチはスライドを使って日本史を教え、ゲーム感覚で歴史を学べるクイズ大会も主催。ラブスカフニやムーアのように、日本での滞在期間が短い選手たちに、日本代表の心棒のようなものを通すためには、こうした”授業”は欠かせないとリーチは言う。「潜在意識を強化することが、その後につながる。そこで相手と差をつけないといけない。それで歴史を入れたりした」
表面的に日本の文化を受け入れるだけでは足りない。心の奥底に植え付け、いざという時に無意識で引き出せないと、チームの一体感を保てないということか。チーム全体の半分を海外出身者が占めるとなるとなおさらだろう。W杯3大会連続出場の田中史朗(34)も「外国人で固まったりするから、日本人の中に引き入れている。もっと日本の文化を理解してもらってチームとしてやっていきたい」と宮崎合宿中に語っていた。

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リーダーが10人 ラグビー日本の意思決定力 ラグビーW杯協奏曲(1)

スポーツの歴史を振り返っても、今のラグビー日本代表は珍しい特長がある。「〇〇(監督名)ジャパン」という愛称がつき、「監督」の存在感がクローズアップされがちな日本にあって、「選手自身で動かすチーム」を目指してきたからである。9月28日に行われたワールドカップ(W杯)日本大会の2戦目、アイルランド戦は、それが問われる試合だった。
前回大会から日本を率いる主将のリーチ・マイケル。W杯で初めて先発を外れ、ベンチからの出場となった。従来の日本代表ではあり得ない、異例の決断である。
■アイルランド戦、主将不在でも揺るがなかった組織
W杯のような大舞台で主将を外すことは、サッカーなど他競技の日本代表でもめったにない。特にラグビーでは監督が試合中に出せる指示は限られており、主将は「グラウンド上の監督」とも言える立場。本来なら意思決定に支障を来すこともあり得る、リスクのある決断だった。
主将不在で臨んだアイルランド戦。日本の組織は揺るがなかった。代理の主将を務めた南アフリカ出身、ピーター・ラブスカフニを皆で支えたからだ。リーダー陣の一人、稲垣啓太は言う。「次に何をしようと個人で考えたり、プレーが途切れた時に周囲に声を掛けたりした。僕以外の選手もやってくれた」
細かい意思疎通で、試合中の戦術変更もうまくいった。キックの使い方を修正したことで、ボールを持つ時間を延ばし、アイルランドの攻める機会を減らした。前半30分、先発のアマナキ・レレイ・マフィの負傷によりリーチ主将が早めに登場したが、そうでなくともチームが崩れることはなかったのではないか。
リーチが先発しなかった直接の原因をジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチ(HC)は「経験のある選手が控えに必要だったから」と説明する。リーチが初戦で本調子でなかったことと、同じポジションの層が厚いことも理由になっている。ただ、異例の決断ができた背景には、キャプテン不在でもチームが回るようにリーダーを多くつくってきた経緯がある。
8月に北海道網走市で行った合宿。珍しいトレーニングが行われた。バーベルを担いだり自転車型トレーニングマシンをこいだりする合間に、52枚のトランプが並べられる。選手が息を整える間に、分担してカードの位置を全部覚える。別の日は、矛盾するいくつかの文章が提示され、登場人物のうち、嘘をついているのは誰かを当てる――。
心身が厳しい状態の中で、仲間同士がコミュニケーションを取り、意思決定するための訓練。リーダー陣の一人、流大は「試合中にリーダーに不測の事態が起きたり、ケガをしたりした時でも、チームがまとまれるようにという目的がある」と話す。
ジョセフは31人のW杯メンバーの中から、リーチを含む10人のリーダーを任命。攻撃、守備など役割を分担して、権限を委譲している。例えば、試合の4日ほど前のミーティングでは、戦術を選手に説明するのはコーチではなく、リーダー陣の役目になっている。
各リーダーは2〜3人の選手とともにミニグループをつくり、練習の感想を話し合ったり、食事に行ったりもする。1年前からは、合宿の空き時間にポジションの近い選手同士が集まり、練習や試合の映像を見て分析する「自習」も始めた。
ジョセフの母国は「ラグビー王国」のニュージーランド。W杯を2連覇中の同国代表「オールブラックス」は、監督が提示した練習メニューを主将が変更することもあるほど、選手の意見を尊重する。その理念や仕組みをジョセフは日本に導入した。
成果は出ている。ラグビーの戦術のキモの一つが、キックの使い方。多く蹴ってボールの保持率を減らし、カウンターを狙うのか。パスでつないで、ボールを相手に渡さない戦いをするのか。コーチ陣の指示を待たず、試合中に選手が変更できるまでになった。8月の米国戦では、当初はパスを主体に攻めたものの、有効でないとみるや、グラウンド上で選手が話し、キックを増やすやり方に転換。快勝した。

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