月別アーカイブ: 2020年11月

オムロンなど温暖化ガス2割削減 日経SDGs調査

日本経済新聞社は国内731社について、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」への取り組みを格付けする「SDGs経営調査」をまとめた。2019年度の温暖化ガス排出を前年度比で減らした企業は4割にのぼり、オムロンなど約20社で削減幅が2割に達した。新型コロナウイルス下でも7割が雇用を維持するなど社会貢献を重視する企業が増えている。

菅義偉首相は10月末、温暖化ガスの排出量を50年までに実質ゼロにする目標を掲げた。調査で自社で直接排出する温暖化ガスについて尋ねたところ、19年度の排出量を前年度より減らした企業は全体の42%で、約20社が2割以上の削減となった。

オムロンは19年度の二酸化炭素(CO2)排出量を前年度より22%減らした。滋賀、京都、三重、岡山の国内4事業所で太陽光発電設備を新設。再生可能エネルギーを使った生産活動に切り替えた。サッポロホールディングスも2割削減を達成し総合格付けを前回から1つ上げた。ビールの製造工程で発生する排熱を利用するためのヒートポンプ設備を導入した。

調査では20年度についても3社に1社が19年度より排出を減らすとの見通しを示すなど、気候変動への意識が高まっている。実現には部品や原材料の調達を含めた対応が欠かせないが、今回調査では前回より4ポイント多い45%が供給網全体での温暖化対策に目配りをしていると回答した。

総合格付けで2年連続トップに立ったリコーは供給網と一体となって30年までにCO2排出量を20%減らす目標を掲げる。取引額の大きいサプライヤー企業350社向けにCO2削減を促す説明会を設けている。

雇用もSDGsの重要テーマだ。今年は新型コロナの感染拡大でサービス業などは大規模な人員削減を余儀なくされている。調査ではコロナ下での雇用方針について、全体の69%が「非正規を含めて維持を最優先する」と答えた。新卒採用についても6割が「維持する」と回答した。

SDGsを経営に取り込んでいる企業ほど、危機下でも投資家の評価を得ている。新型コロナの感染拡大で株式相場が急落する前の2月21日時点から半年間の時価総額を調べると、総得点の偏差値65以上の上位グループ39社は下落率が平均29.3%にとどまった。60以上~65未満の下落率は32.4%、55以上~60未満は32.8%だった。

「SDGs経営調査」は毎年実施し、今回が2回目。事業を通じてSDGsに貢献し、企業価値向上につなげる取り組みをSDGs経営と定義。「SDGs戦略・経済価値」「環境価値」「社会価値」「ガバナンス」の4つの視点で評価した。国内の上場企業と従業員100人以上の非上場企業を対象に731社(うち上場企業685社)から回答を得た。

海洋プラスチックごみ問題の解決に向けて“共創”で実現する循環型社会へ

サントリーホールディングス 執行役員
コーポレートサステナビリティ推進本部長

福本 ともみ氏

福本 ともみ氏

サントリーホールディングス 執行役員
コーポレートサステナビリティ推進本部長福本ともみ氏、慶応義塾大学大学院修了。1981年、サントリーに入社。2012年サントリー芸術財団サントリーホール総支配人、15年サントリービジネスエキスパート常務取締役・お客様リレーション本部長などを経て16年サントリーホールディングス執行役員コーポレートコミュニケーション本部長、18年にコーポレートサステナビリティ推進本部長に着任、現職。兼職で公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン理事。

サントリーでは、グループ全体の売り上げの約6割を清涼飲料が占めており、プラスチック問題は非常に重要な課題です。こうした社会課題に対する当社のサステナビリティ活動は、経営理念に根差したものだということからお話ししたいと思います。

1899年に鳥井信治郎が大きな夢と強い信念をもって創業した当社には、今も経営の支柱になっている2つの精神があります。1つは常にチャレンジをする「やってみなはれ」の精神で、2つ目は「利益三分主義」です。「利益三分主義」とは、私たちの事業はお得意先様とお客様、そしてこの社会のおかげで成り立っており、事業で得た利益は、「事業への再投資」にとどまらず、「お得意先様・お取引先様へのサービス」や「社会の貢献」に役立てていこうという考え方です。

いまでは海外の投資家や企業でマルチステークホルダーという考え方が浸透し始めていますが、サントリーだけではなく、日本企業にはこれに相当する考え方が100年以上前からありました。ESG(環境・社会・企業統治)やサステナビリティは海外から輸入されたテーマではなく、自分たちのフィロソフィーとして追求していくものだと私たちは考えています。

サントリーはこれまで時代に合った社会課題に取り組んできました。創業期には生活困窮者が無料で診療を受けられる診療所等を開設し、戦後の高度経済成長期には、真の豊かさのためには心の豊かさが必要であるとの思いからサントリー美術館やサントリーホールを開館しました。公害問題が浮上した70年代には愛鳥活動を展開し、90年代以降は、全社環境方針のもと、水源涵養(かんよう)活動「サントリー天然水の森」等を軸とした環境経営を推進してきました。

これらの活動の起点となったのは「やってみなはれ」と「利益三分主義」の精神です。その精神の下に、いま私たちが目指しているのが事業活動を通じて「人と自然と響きあう」ことです。私たちの事業によって人々の生活や社会がさらに豊かになり、同じように自然環境も持続可能になっていく。これを実現することがサントリーの存在意義であり、サステナビリティ経営そのものだと考えています。

そしてグループ全体でこのサステナビリティ経営を推進していくため、昨年「サステナビリティ・ビジョン」を策定し、サントリーグループにとって特に重要な「水」「二酸化炭素(CO2)」「原料」「包材」「健康」「人権」「生活文化」の7つのテーマを掲げました。その中でも「包材」分野の課題であるプラスチック問題は、海外も含めたグループ全体で取り組んでいくべき重要な課題であると考えています。

水と生きる
2030年までにペットボトルを100%サステナブルなものにプラスチック基本方針の策定へ
02.

プラスチックはその有用性により私たちの生活に様々な恩恵をもたらしています。軽くて丈夫といった利便性だけではなく、密封性にも優れていることから「食品ロスの低減」といった社会課題の解決にもつながる素材です。

一方、プラスチックには課題もあります。ポイ捨てや分別せずに捨ててしまうなど、使用後に適切に処理されないことで再利用されず、環境問題を生じさせてしまっています。

これまでサントリーはこの課題解決に向け、2R+B(リデュース・リサイクル・バイオ)戦略のもと様々な取り組みを実践してきました。使用量を削減するリデュースでは1990年代から容器デザインを何度も見直し、90年代と比較し、現在ではプラスチックの使用量を約半分にまで下げることができています。ただ、このような活動だけではプラスチック問題を解決することはできません。そこで、問題の根本解決につながる対策にグループ全体で取り組むため、昨年「プラスチック基本方針」を策定しました。

目指すのは循環型社会、そして脱炭素社会の実現です。サントリーグループが使用するプラスチックの約8割がペットボトルです。基本方針では、2030年までにグローバルで使用するすべてのペットボトルを、サステナブルなものに切り替える目標を掲げました。具体的には、使用するすべての原料をリサイクル素材、あるいは植物由来素材100%に切り替え、新たに化石由来原料を使用しないことを目指しています。

皆さんご存知のように、日本のペットボトルのリサイクル率は高水準です。回収率は約9割、リサイクル率も8割を超えており、ペットボトルやトレイ・シート、衣類、成形プラスチック製品などにリサイクルされています。ただ、注目すべきは、そのなかでペットボトルにリサイクルされているものがまだ4分の1ぐらいにとどまっていることです。他の製品に生まれ変わる場合には、現段階では数回程度のリサイクルですが、ペットボトルからペットボトルへの水平リサイクルは、理論上は半永久的にリサイクルができるのです。そこでサントリーでは、このボトルからボトルへのリサイクル(BtoB)を広げていく取り組みを行っています。

この循環型社会の実現には、あらゆるステークホルダーとの連携と共創が不可欠です。これまで取り組んできた容器やラベルの軽量化やペットボトルのリサイクル技術の開発なども、一社だけで実現できるものではありませんでした。業界や国境を超えた多様なステークホルダーが連携してこそ循環型社会が実現します。

化石由来原料の新規使用ゼロの実現
国や業界を超えた協業で実現するプラスチックの再資源化
03.
福本 ともみ氏

サントリーホールディングス 執行役員
コーポレートサステナビリティ推進本部長福本 ともみ氏

言葉で言うのは簡単ですが、垣根を越えた連携は容易ではありません。そうした状況の中でサントリーが推進する連携や共創の事例をいくつかご紹介します。

まず2011年、協栄産業様との協働で半永久的にペットボトルが再生化できる「ボトルtoボトル(BtoB)メカニカルリサイクルシステム」を国内飲料業界で初めて構築しました。これにイタリアのSIPA社、オーストリアのEREMA社の技術が加わり、輸送と溶解の工程を省くことに成功し、より環境負荷が軽くかつ効率的に再生化する「フレークto プリフォーム(FtoP)ダイレクトリサイクル技術」が2018年に実現しました。

こうした国を超えた協働は、CO2排出量の大幅な削減をもたらしました。従来のBtoBリサイクルとの比較で約25%、石油から新たにペットボトルをつくる場合との比較では、60%以上のCO2が削減できています。

再生可能な素材の開発についても、海外企業との協働を試みています。米国バイオ化学ベンチャー企業のAnellotech社との、植物由来原料100%のペットボトルの新素材開発の取り組みです。非食用の松の間伐材を使用した原料の生成に成功し、実用化に向けて取り組みを進めています。

新たな挑戦からは思わぬ副産物も生まれます。Anellotech社との今回の開発過程で、ペットボトルだけでなく、リサイクルが困難なレジ袋や弁当容器などに使われるプラスチックを効率的に再資源化する技術の芽を発見しました。このプラスチック問題に大きく貢献する可能性のある、使用済みプラスチックの再資源化技術の開発・実用化を推進するため、業界の垣根を超えた12社が共同出資する新会社「アールプラスジャパン」を設立しました。

私たちがこの技術を使って目指すのは、プラスチックからプラスチックを再生するエコシステムの構築です。その実現のために、原料メーカーから容器消費財メーカー、廃材処理会社までプラスチックのバリューチェーン全体にわたる異業種の企業が集結しました。これまで再資源化は難しいと言われてきたその他プラスチックですが、この技術の実用化で循環利用の道を開いていこうという志を持った連携が生まれました。一日も早い実装化に向けて取り組みを進めていきたいと思っています。

国や業界を超えた連携は技術だけでなく、ソリューション全般において重要です。私たちが事業を展開している国や地域の中には回収インフラ自体が構築されておらず、分別してゴミを出す習慣がない地域も多くあります。そのような国や地域ではそれぞれの実情に即したソリューションの開発や啓発活動などが必要であり、それは当然企業一社ができることではありません。

例えばベトナムでは、当社のグループ会社が政府と企業によるローカルアライアンスに立ち上げから関わり、回収インフラの構築や人々への啓発活動の展開方法を検討し、活動をスタートしようとしているところです。

こうした各国でのローカルアライアンスは社会変革の要となります。そしてこのローカルな取り組みを支えるのは、グローバルな連携によるサポートです。当社は昨年の11月にワールドエコノミックフォーラム主催のプラスチックによる環境課題の解決に取り組むグローバルなアライアンス「Global Plastic Action Partnership(GPAP)」に日本企業として初めて加盟しました。GPAPが推進するプラスチック問題解決に取り組む国や企業へのノウハウや専門人材の紹介なども重要な役割だと考えています。

BtoBリサイクルの技術連携

様々なステークホルダーとの連携で循環型社会を実現させていく
04.

私たちの活動はスタートラインに立ったところです。パートナー企業の皆様と志を一つにすることの大切さを実感する一方、具体的な課題で実際にベクトルをあわせていくことの難しさも実感しています。これを乗り越え、様々な技術や知見を持つプレーヤーが、それぞれの力を結集し融合させることができれば、社会を大きく動かすムーブメントを起こせるはずだと確信しています。プラスチック問題だけでなく、サステナビリティ課題は山積しています。この「共創」というスキルを磨くことが、そういった課題の解決にも大きく貢献すると信じています。

今後も様々なステークホルダーと連携しながら循環型社会の実現に向けてしっかり取り組んでいきたいと思います。

シビックハッカーが覆す官製の常識 行政は市民とつくる

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新型コロナウイルス禍を契機に行政のデジタル化が日本の課題に急浮上した。だが、従来の「役所とシステム会社」の組み合わせだけで「ニッポンのデジタルトランスフォーメーション(DX)」という大事業に挑めるのか。行政と市民をつなぐ「シビックテック」や革新的な「ガブテック」がもたらす新たな潮流と働き方を追う。

10月末、兵庫県加古川市がフェイスブック上でこう告知した。「全国初!オンライン上で政策の議論ができるシステムをスタート!」

加古川市のフェイスブック。告知を受けて高校生など多くの若者も議論に参加しているという

加古川市のフェイスブック。告知を受けて高校生など多くの若者も議論に参加しているという

加古川市は「スマートシティ構想」を掲げている。その新たな街づくりを行政が一方的に決めるのではなく、市民とともに進めていくため、疑似議会ともいえる「市民参加型合意形成プラットフォーム」を立ち上げた。

市民参加の試みもユニークだが、地方自治体の取り組みとして異色なのは議論のシステムとしてスペイン・バルセロナ生まれの「デシディム」を活用した点にある。コードが無料で公開されたオープンソースのプラットフォームで、欧州を中心に利用が増えている。

日本の役所のシステム開発の定石は、きっちりとした仕様書に従って大手会社が専用のシステムを構築するやり方だ。オープンソースのシステムを柔軟に活用する事例はまだ珍しい。

■行政と市民をつなぐテックの力

なぜ加古川市は新しい手法にチャレンジできたのか。背景には「シビックテック」と呼ばれる活動を展開する一般社団法人「コード・フォー・ジャパン」の存在がある。

コード・フォー・ジャパン代表理事の関さん。中学時代からの筋金入りのプログラマーだ

コード・フォー・ジャパン代表理事の関さん。中学時代からの筋金入りのプログラマーだ

「行政や地域の問題に接したとき、多くの人は『それは政府や自治体が解決すべき問題だ』と考える。一方、そうした問題を市民が自分たちの手でテクノロジーを使って解決しようとする。それがシビックテックです」。2013年に同団体を立ち上げた関治之代表理事(45)は語る。

コード・フォー・ジャパンはシビックハッカー(市民技術者)と呼ばれるボランティアのエンジニアたちの力を結集し、多くの市民と議論しながらITで地域の課題を解決したり、便利な行政サービスを実現したりする。時には、加古川市のように自治体から委託を受けてシビックテックの活用を支援する。

■コロナ禍の「奇跡」

シビックテックの力が大きく注目される契機となったのが新型コロナウイルス禍だ。

たとえば東京都が3月上旬にコード・フォー・ジャパンと立ち上げた新型コロナ対策サイト。役所なら通常は「3カ月はかかる」というサイトをわずか数日で立ち上げ、「遅い」「ダサい」「使えない」といった官製サイトの常識を覆し、使い勝手のよいインターフェースをつくりあげた。

オープンソース上につくられた東京都のコロナ対策サイトは多くのシビックハッカーの手で改善されてきた

オープンソース上につくられた東京都のコロナ対策サイトは多くのシビックハッカーの手で改善されてきた

さらにサイトはオープンソースのプラットフォーム「GitHub」上に公開されており、公開後も多くのシビックハッカーの手でブラッシュアップを続けた。公開されたコードを使い、大阪や神奈川など複数の自治体が同様のサイトを迅速に立ち上げる動きも続いた。

日本の行政ではこれまでなかったオープンでスピーディーな動き――。ネット上では「奇跡だ」と称賛の声が広がった。

なぜ今シビックテックが必要とされるのか。

「かつては行政や官僚組織など大きな組織が意思決定し、社会課題に対応してきた。だが、社会が複雑性を増し、従来の統治機構は限界を迎えている」と関さんは指摘する。

コロナ禍が行政に突きつけた課題も類似した問題をはらむ。医療現場の逼迫やマスク不足など不測の事態が次々と広がるなか、中央による情報収集は遅れが目立った。「アベノマスク」をはじめとするトップダウンの政策も国民のニーズをくみ取っていなかった。

「市民の多様な声に対応するためにも、市民とつながり、市民と協力しながら社会のあるべき姿をさぐる。そんなやり方が求められる時代になった」。とはいえ、かつては市民一人ひとりが行政に参画するようなやり方は物理的に難しかった。「今ならテックの力でそれが可能になる」と関さんは強調する。

東日本大震災からの復興に向け、福島県・浪江町の住民の人々とシビックハッカーらがともに町のコミュニティー復活のための課題と方法を話し合った。シビックテックの象徴的な活動といえる

東日本大震災からの復興に向け、福島県・浪江町の住民の人々とシビックハッカーらがともに町のコミュニティー復活のための課題と方法を話し合った。シビックテックの象徴的な活動といえる

関さんは中学時代からの筋金入りのプログラマーだ。ただ、音楽の道を志して大学を中退した。それでも資金確保のために続けていたプログラミングの仕事が増え、いつしか本業に逆転した。

■震災でみえたオープンソースの力

「ITを使った地域の問題解決」に本格的に関わり始めたのは09年に起業した「ジオリパブリック・ジャパン」から。得意としていた位置情報技術の活用を考えるうちに地方の問題に目が向いた。

地方では少子高齢化や財政難などで行政サービスに課題があっても対応しきれていないことが多い。だが、ITを使えば解決できることもある。

たとえば「オンデマンドバスの運行経路の自動計算システム」。地方に多いオンデマンドバスは通常は予約があれば役所の職員が経路を考え運転手に指示を出す。数が多いと煩雑な作業となる。そこで地図情報から自動で最適経路を計算できるシステムを開発した。

転機は東日本大震災だった。すべてが混乱し、避難所がどこに立ち上がり、どこにどんな支援の手が届いているのかわからない。「自分もなにかできないか」と震災情報サイトの「sinsai.info」を立ち上げた。

東日本大震災時にはシビックハッカーたちも支援に動いた。手にした紙には「Hack for いわて」のスローガンが

東日本大震災時にはシビックハッカーたちも支援に動いた。手にした紙には「Hack for いわて」のスローガンが

この活動を通じて、いくつかの気づきがあった。1つはオープンソースの力を改めて実感したことだ。プロジェクトには業界で名前の知られたプログラマーなど様々な人がボランティアで集い自治体も企業も作り出せないパワーを生み出した。

2つめは「オープンデータ」の重要性だ。自治体に情報があっても自由に利用できる状態になっていないことが多く、生み出せるはずの利便性や価値が生み出せない。

3つめが「ボランティアの限界」だ。せっかく生まれた機運も、自治体や地域を巻き込んで継続的に活動できる体制がなければ社会を変える力とはなり得ない。

■運命の一言「Why not?」

そう考えていたときネット上で知ったのが「コード・フォー・アメリカ」という米国の団体だった。彼らは「ブリゲード」と呼ばれるシビックテックの組織を各地で運営し、自治体への人材派遣などで収入も得ていた。

キャサリン・ブレイシーさん(中央)の一言がコード・フォー・ジャパン設立へ関さん(左)の背中を推した(2013年、ニューヨークで開かれたコード・フォー・アメリカのカンファレンスにて)

キャサリン・ブレイシーさん(中央)の一言がコード・フォー・ジャパン設立へ関さん(左)の背中を推した(2013年、ニューヨークで開かれたコード・フォー・アメリカのカンファレンスにて)

関さんはコード・フォー・アメリカのカンファレンスに参加するためニューヨークに飛んだ。そこで出会ったのが幹部のキャサリン・ブレイシーさんだ。「コード・フォー・ジャパンをやりたいと考えている」。こう話しかけた関さんに彼女は笑顔で答えた。「Why not?(ぜひやったら?)」。それが運命を動かす一言となった。

テックで社会をよくする――。同じ志を持つ仲間を集め、2013年10月にコード・フォー・ジャパンを設立した

テックで社会をよくする――。同じ志を持つ仲間を集め、2013年10月にコード・フォー・ジャパンを設立した

今、力を入れているプロジェクトの一つに非営利団体(NPO)への「STO(ソーシャル・テクノロジー・オフィサー)」の派遣がある。NPOは社会課題への様々なアイデアをもっているが、ITに落とし込む知識や人材がいない。一方、優秀なエンジニアにとってNPOの給与水準は企業に比べて低く、通常はなかなか人材が集まらない。だが、コード・フォー・ジャパンには社会課題の解決に関心を抱くシビックハッカーのネットワークがある。すでに10人ほどのエンジニアを派遣しているという。

■全国に広がる「コード・フォー・X」

コード・フォー・ジャパンの設立から7年。日本でシビックテックを志す輪は広がり続けている。「コード・フォー・X(地域名)」という名のシビックテックの団体も全国でおよそ80に増えた。それぞれ独立組織として自主的に活動しているが、互いに緩やかに連携し、絆を深めている。

今年はコロナ禍でオンライン開催となったが、毎年開く「コード・フォー・ジャパン・サミット」には全国の「コード・フォー・X」メンバーが集い、熱い議論を交わす。

(写真は19年のサミットの様子)ReplayUnmuteCurrent Time 0:06/Duration 0:06Loaded: 100.00% Picture-in-PictureFullscreen

シビックテックは今後、どう展開するのだろうか。

「理想は『DIY都市』」と関さんは語る。少子高齢化と人口減少は避けられず、地方都市が人口増や税収増を評価の指標として追い求めることは難しい。市民と一緒に行政サービスを手作りしながら「都市の経営の基準を『住民がどれだけ幸せか』に切り替える必要がある」。

行政と住民が「ともに考え、ともにつくる社会」――。それはコード・フォー・ジャパンのスローガンであり、シビックテックが指し示す未来でもある。

=つづく

(桃井裕理)

スタートアップ育成の国連拠点、神戸で開所 アジア初

スタートアップ育成のための国連拠点が神戸に開設された(6日、神戸市)

スタートアップ育成のための国連拠点が神戸に開設された(6日、神戸市)

国連機関が旗を振るアジア初のスタートアップ育成拠点「グローバルイノベーションセンター(GIC)」が6日、神戸市に開設された。まず気候変動の課題解決に挑む企業が入居し、社内ベンチャーの育成に取り組むソニーなどが入居企業を支援する。「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成のため、有望な先進技術は国連事業に採用される可能性がある。

世界のインフラ整備を援助する国連プロジェクトサービス機関(UNOPS、ユノップス)が設けるGICは世界で3カ所目。場所は三井住友銀行の神戸本部ビル2階で、広さは433平方メートル。併設する兵庫県の起業家支援拠点「起業プラザひょうご」の会議室を無料で使える。光熱費や通信費はUNOPSが負担する。

新型コロナウイルスの影響もあり、海外の企業はオンライン経由で支援を受ける場合もある。グレテ・ファレモ国連事務次長は「神戸への立地により、(スタートアップ支援に注力する)兵庫県や神戸市の経験や知識を活用できる。持続可能な開発目標の達成に向けた新たなビジネス機会と解決策の創出につながる」とビデオメッセージで語った。

井戸敏三・兵庫県知事は「ここが世界の課題に対して挑戦し、新しい社会をつくりあげる先頭を走り続ける場所であってほしい」と話し、神戸市の久元喜造市長は「神戸がグローバル都市として発展する新たなステージに入ったことを意味する」とした

果物すぐカチンコチンに、急速冷凍技術で食品ロス回避

編集委員 吉田忠則

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まだ食べられるのに様々な事情で廃棄されてしまう「食品ロス」に注目が集まり、回避するための取り組みが進められている。そうした中、冷凍技術を使って食品ロスを防ぎつつ、新たな流通の仕組みを作ろうとする試みが始まっている。

特殊冷凍事業を手がけるデイブレイク(東京・品川)の食品加工ルーム。スタッフが産地から届いたキウイを包丁で細かく切ってトレーに並べ、冷凍設備の中に静かに入れた。

待つことおよそ20分。トレーを取り出し、カットしたキウイを両手に1つずつ持ってたたいてみせると「カチッカチッ」と小気味良い音が響いた。わずかな時間で中心までしっかり凍ったのだ。

デイブレイクが使用する冷凍前のキウイ

デイブレイクが使用する冷凍前のキウイ

デイブレイクは2013年の設立。食品を短時間で凍らせることのできる設備の販売が事業の柱だ。普通の冷凍庫と違い、一気に食品の中まで凍らせることができるため、氷の結晶が大きくならない。冷凍しても肉や魚などの細胞が壊れないので、食材のおいしさを損なわずに済む。

さらに同社は、鮮度を長期間保つためには何度でどれだけの時間をかけて冷やし、どう包装すればよいのかも食材ごとに調べている。その結果を踏まえ、冷凍設備の使い方をきめ細かく指導しながら販売することで、事業を伸ばしてきた。

コロナ禍のもとで、この技術のニーズが高まっている。客足が減った飲食店で廃棄になりそうな食材を、品質を落とさずに保存したいという需要が増えたからだ。これまでは問い合わせ件数が1カ月に70件程度だったのに対し、最近では200件に増加。販売数も月3台から10台程度に増えた。

特筆すべきは、設備を導入した飲食店が食品を冷凍保存して客が来るのを待つだけではなく、通信販売にも乗り出し始めている点だ。飲食店の中にはコロナ禍による売り上げの落ち込みを回復できていないところが少なくない。冷凍技術を取り入れることで、通販という新たな流通チャネルを開拓する手がかりをつかむことができたのだ。

デイブレイクのフローズンフルーツ商品「HenoHeno(ヘノヘノ)」

デイブレイクのフローズンフルーツ商品「HenoHeno(ヘノヘノ)」

デイブレイクは冷凍設備の販売と並行して、凍らせたカットフルーツの自社販売も手掛けている。19年春のサービス開始に先立ち、木下昌之社長は全国の生産者を訪問した。豊作による値崩れで大量の果物が廃棄されているのを知った木下氏は「まだ食べられるのに廃棄されている果物に新しい価値を与えたい」と考え、特殊冷凍技術を活用することにした。

生産者の悩みは、相場が下がっているのに選果などに人手をかけて出荷すると、利益が出なくなってしまう点にある。廃棄するのはそのためだ。これに対し、デイブレイクはカットして使うので多少の傷や規格を気にせずに仕入れる。生産者にとっては選果が不要となり、経費を減らせる利点がある。デイブレイクは仕入れるとすぐに冷凍するので、一度にまとめて仕入れても販売を平準化できる。

そうして開発したフローズンフルーツの商品名は「HenoHeno(ヘノヘノ)」。アイスのようにシャリシャリの食感を楽しみながら食べる。企業の福利厚生の一環として、社員が食べられるようにオフィスの冷凍庫に入れておくというサービスで販売をスタートした。現在は一般の消費者を対象に、同社のサイトを介した通信販売で売り上げを増やしている。

デイブレイクの木下昌之社長

デイブレイクの木下昌之社長

この事業の次の展開として着手しようとしているのが、冷凍設備を導入した加工工場などと組んで「ヘノヘノ」を作ってもらい、地方での販売量を増やすことだ。すでにパートナーの工場は長野県や福島県など各地にある。周りに生産者が多いため関係を築きやすく、物流などのコストも抑えられるという利点を生かし、東京だけでなく各地でブランドを広めることを目指す。

「果物の冷凍と保存はもともと地方でやるべきビジネスモデルであり、地方創生に役立てることもできる」。木下氏はそう語る。コロナのもとで、農業を含む食品業界は新たな流通の仕組みを模索している。特殊冷凍はそれを可能にする技術として、地方活性化のきっかけにもなるかもしれない。

「変なカフェ」を作った職人 稼ぐロボが飛躍する未来

若者の街・渋谷のど真ん中。競合がひしめくカフェ激戦区で、2018年2月に華々しくオープンし、現在も営業を続けている店がある。運営主体は大手旅行会社のエイチ・アイ・エス(HIS)。注文に応じてコーヒーなどのドリンクをカウンター内のアーム型ロボットが作って提供する「変なカフェ」だ。店員は、ロボットをメンテナンスする要員が1人だけ。この変なカフェのすごみは、単なる実験で終わらず、2年半を経た今でも営業を続けており、しかも、カフェとして黒字を達成している点だ。

「ロボットだけでこれほどの長期間運営し、ビジネスとしても成り立っているのは、おそらく変なカフェが世界初」。そう話すのは、この店を企画し、ほぼ独力で立ち上げた功労者であり、今はロボットサービスを提供するスタートアップQBITロボティクス(東京・中野)社長の中野浩也氏だ。

立ち上げ当初、変なカフェはマスコミがこぞって報道し、話題となった。広告宣伝効果があれば、カフェとしての収支には目をつぶるという考え方もあっただろう。それを許さなかったのが、変なホテル、変なレストランなど「変なシリーズ」の発案者であるHIS会長兼社長の沢田秀雄氏だ。沢田氏は中野氏に、こうくぎを刺した。「実際に営業する店を作るわけだから、カフェとして収支が成り立たなければやる意味はない」

中野氏は、この厳命を受けた瞬間から、頭の中でそろばんをはじき始めた。人間同様の動きができる高価なロボットを一から作ったのでは、とても収支が合わない。思い付いたのが、世界の様々な工場に導入されている汎用の工業用アーム型ロボットを導入してコストダウンを図る作戦だ。

ドリッパーやコーヒーカップなど、直径が異なるものをつかめるようにそれぞれ専用の手先部を開発すれば、これもコスト増の要因となる。そこで、中野氏は、ドリッパーの下部に、カップと同じ直径のアクリルの外枠を取り付けた。ドリッパーとカップのサイズを合わせ、同じ手先部の同じ動作でつかめるように工夫したのだ。

「今までは既存の物に合わせて高機能のロボットを開発していたから莫大な費用がかかり、無理が生じていた。そうではなく、ロボットに合わせて既存の物を変えれば、わずか数千円のアクリル板で事足りる」(中野氏)。この逆転の発想が、従来、ロボットの導入を困難にしていた扉をこじ開け、変なカフェを通常の店として成立させたのだ。

■HIS沢田会長が問いかける「君は幸せか」

変なカフェの発案者である沢田氏と、その構想を現実のものとした中野氏。2人の出会いは5年前の15年に遡る。中野氏は、新卒で入社した三菱重工業でターボチャージャーの組み立てロボット開発などに携わる。その後、大手システム会社を経て、クラウドサービス会社を設立。社長を務め、当初数人だった会社を1000人規模に躍進させた。

QBITロボティクス社長の中野浩也氏と、社内に展示したカフェロボット

QBITロボティクス社長の中野浩也氏と、社内に展示したカフェロボット

中野氏は50歳で会社を辞めて、全く新しい仕事にチャレンジしようと決めていた。社長退任後、数カ月間、国内外を旅行するなど骨休めをしていた中野氏に声を掛けたのが、前職で取引先として関わり、当時、ハウステンボス(長崎県佐世保市)で技術系顧問をしており、現在はロボット技術開発のハピロボ(東京・世田谷)社長を務める富田直美氏だった。当時、ハウステンボスはロボットが接客する「変なホテル」を運営し始めており、情報システムを担える人物として、白羽の矢が立った。

面接が行われることになり、中野氏はハウステンボスの会議室に呼ばれた。同席していたのが沢田氏だ。その時に受けた質問を中野氏は鮮明に覚えている。「単刀直入に『君は幸せか』と聞かれた。面を食らったが、『今までの仕事人生は人に恵まれ、現に今、人の縁で沢田会長とこうして話すことができ、ハウステンボスに入るチャンスをもらえている。これは幸せであり、感謝している』と伝えた」。その答えがどの程度影響したかは分からないが、中野氏は面接に合格し、晴れてハウステンボスの一員となった。

取り組んだのが、遅れていた情報技術(IT)ネットワークの強化だ。変なホテルも含め、テーマパークの運営にはインフラ整備が不可欠と確信していた。だが、多額の費用がかかるこの案件は、決裁者である沢田氏が首を縦に振らなければ進まない。中野氏はプレゼンをしてネットワークの重要性を説明し、判断を仰いだ。

驚いたのが、沢田氏の判断のスピードだ。しかも、思い込みや臆測ではなく、言うことに耳を傾け、情報を偏見なしに自然体で吸収し、即断する。また、説明や訴えに対しても、実に素直な質問が返ってくる。「当然そこに疑問が生じるであろう当を得た質問ばかり。その答えを聞いて質問、答えを聞いてまた質問と繰り返し、良い話も悪い話も全部吸い上げていく」

中野氏はハウステンボスに1年半在籍したが、こうした沢田氏へのプレゼンを何度も乗り切り、サーバーを全て入れ替え、ソフトウエアを一新し、園内のWi-Fi(無線LAN)の完備までやり切った。

■一人、また一人と消えていく会議

変なホテルのロボットにも中野氏は携わる。ロボット関連会社の話を相次いで聞き、ホテルで使えそうなロボットを常に探し歩く日々だった。前例がない中、良しあしを判断するには、実際に入れてみるしかない。窓ふきロボット、芝刈りロボット、ポーターロボットなど、試しては有効性を見るトライアンドエラーを繰り返した。

そんな時、沢田氏から出た第2のアイデアが、ロボットによる「変なレストラン」だ。当初、中野氏も含めて社内外のエキスパート約30人が会議室に招集された。決まっているのは変なレストランをつくること。ただ、具体的に「何をどうするか」は全くの白紙だった。

沢田氏出席のもと、会議は何度も開かれた。しかし、中野氏は背筋が寒くなる思いをすることになる。「回を重ねるごとに、発言の無い参加者が一人、また一人といなくなっていった。リスクを取ってやろうとする人は残すが、それ以外は会議に呼ばなくなったのだと思う」(中野氏)。最終的に残ったのは、企画責任者と中野氏のチームのみだった。

そこからは、情報システム部のスタッフとともにアイデアを練り、中野氏が沢田氏にプレゼンし、判断を求める日々が続く。沢田氏からダメ出しを突き付けられることも多かったが、それは決して全否定しているのではなかった。「よく言われたのは、『ダメなことには必ず原因がある。その原因を解決すれば物事は良くなっていく』ということ。指摘された点を改善し、また何か言われたらそこも直す。そうして積み上げていくことによって、研ぎ澄まされた良いものができ上がっていった」(中野氏)

変なレストランが開業したのは16年7月。入り口では当時、まだサービスインしたばかりのIBMの人工知能(AI)「ワトソン」と連携したコンシェルジュロボットが出迎え、店内ではお好み焼きを作る調理ロボットや、アルコールを提供するバーテンロボット、各テーブルにはコミュニケーションロボットが待ち構える。食事後の食器も皿回収ロボットがせっせと片づける。そこは世界に二つとない、未来感があふれるレストランとなり、世間の耳目を一気に集めることに成功したのだ。

■ロボットを「本気」で使う

変なカフェを開業に導いた中野氏は、これまでの経験を生かし、実際に社会の中で使われるサービスを形にしていくことを目指してQBITを立ち上げ、様々な飲食店や施設にロボットを納入した。

「飲食店でも施設でも、ロボットを本気で使っている事例を繰り返し見せていかないと、事業者は真剣に導入を考えないし、生活者からも現実のものとして捉えてもらえない。大切なのは、プロダクトづくりではなく、サービスづくり。いかに世の中に既にあるロボットを取り入れて、実装可能なサービスに落とし込んでいくかが、ロボットの普及に最も重要なポイント」と、中野氏は話す。

QBITでは、中野氏のその思想を実現するためのキーテクノロジーを持つ。それがロボット制御と画像認識発話エンジンの2つの要素を組み合わせたロボット運用のプラットフォーム「おもてなしコントローラ」だ。QBITでは、いずれの事例でもこのおもてなしコントローラーを採用して、飲食店のロボット化を成功させてきた。

このプラットフォームが優れているのは、メーカーやタイプに依存せず、様々なロボットに実装してまとめて動かすことができる高い汎用性を持っていることだ。「国内、中国、欧米のメーカーでも、アームロボットだろうがコミュニケーションロボットだろうが、その時出ている最も安いロボット、最も便利なロボットを組み合わせてサービスを構築できる」(中野氏)

一方、飲食店以外の別の話も動き始めている。QBITは、コロナ下で遠隔・非対面・非接触の配送ニーズが増加する中、21年4月以降、森トラストのビル内で自動走行ロボットを使った館内配送の実証実験を行う。実証実験で得た知見やノウハウを用い、21年後半には、異なるタイプのロボットの連携による館内配送サービスの事業化を検討中。大規模オフィスビルや大規模商業施設をターゲットに販売する予定だ。

「ロボットの社会実装を一気に進める、またとない局面が今訪れている」と話す中野氏。変なシリーズを手掛け、異端視されていたが、コロナを契機に時代が一気に追いついた。21年はロボットサービスのトップランナーとして真価を発揮する場面が増え、飛躍の年となることだろう。

(ライター 高橋学)

電動キックボード、丸の内を快走 規制緩和が普及のカギ

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欧米で流行する電動キックボード(キックスケーター)が東京都心に初お目見えした。「原付きバイク」扱いに伴う規制を、国が2021年3月末まで一部の場所で実験的に緩めたことによるものだ。近距離を手軽に1人で動けて、感染リスクを避けるウィズコロナの移動ニーズにもかなう乗り物。果たして本格的な規制緩和への道筋は付くか。

10月27日。秋晴れの空の下、東京・丸の内の大通りを電動キックボードがさっそうと走った。小型電動モビリティーのシェアリングサービスを手掛けるLuup(ループ、東京・渋谷)が三菱地所などと組み同日から始めた実証実験の様子だ。

欧米で「Eスクーター」と呼ばれシェアサービスを世界100都市以上で展開する大手もある電動キックボード。2輪が付いた細長い板状の台に利き足を置き、もう一方の足は地面を蹴り勢いを付けてから乗せる。ハンドルに付いたアクセルをひねり加速するが、最高時速は電動アシスト自転車を下回る20キロメートル未満。ブレーキは自転車と同様、アクセルのさじ加減に慣れれば難しくない。

東京・丸の内などで2021年3月まで期間限定で電動キックボードの実証実験が行われる(東京都千代田区の東京駅前)

東京・丸の内などで2021年3月まで期間限定で電動キックボードの実証実験が行われる(東京都千代田区の東京駅前)

記者も体験してみた。走ったのは車道のうち、路面が青く塗られた自転車向けのレーン。そばを走る車に追い抜かれても、思っていたほど恐怖感はなかった。ただ慣れない中では機敏に動けないため、自転車などが突然近づいてきたり追い抜こうとしてきたりした場合は注意が要る。

他の実験参加者の走行では、ぶつからないようにと自動車の運転手のほうが気をつけている様子が見て取れた。どの場所を電動キックボードが走るのが良いのか、自動車や自転車などといかにすみ分けるのか、実用化に向けての課題を感じた。

記者も自転車レーンで電動キックボードを試乗した(東京都千代田区)

記者も自転車レーンで電動キックボードを試乗した(東京都千代田区)

ループの岡井大輝社長は、実験開始にあたり「多くの人に便利さや危険性を知ってもらい、日本に必要かどうかを判断して欲しい」と述べた。同社は丸の内など千代田区の一部のほか新宿区の西新宿、渋谷区と世田谷区の全域(11月開始予定)の全4エリアに計100台を設置。公募で選んだ運転免許証を持つ100人それぞれにレンタルする。

電動キックボードが注目を集めるのは、その便利さや手軽さからくる可能性の大きさと、半面日本の道路交通規制に合わせる際の厳しさゆえだ。

自転車のようにまたぐ必要がなく、女性でも乗りやすい。近いが徒歩だと10~15分かかる距離を動くのに適する。自動車や鉄道・バスなど公共交通機関が埋め切れない目的地までの「ラストワンマイル(約1.6キロメートル)」をつなぎ、次世代移動サービス「MaaS(マース)」を構成する乗り物としても見込まれる。

ループと連携する三菱地所も、地盤の丸の内で来街者の回遊性を高める役割を期待している。同社が主導する大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会の重松真理子氏は「電動キックボードを生かし、MaaSの発展や都市の魅力アップにつなげたい」と話す。

一方で、規制の壁が立ちはだかる。公道では、2002年の警察庁通知を根拠に道路交通法上の原動機付き自転車として扱われる。よって乗る際にはヘルメットの着用や運転免許証の携帯が必要で、ナンバープレートやサイドミラーなどの装備も求められる。走行できるのは車道のみで、歩道や自転車レーンには原則として入れない。

海外ではヘルメットは義務でない場合が多く装着なしで乗られるケースが大半だ。日本国内でみても「ヘルメットや免許なしでも乗られている電動アシスト自転車と比べ、最高速度が遅い電動キックボードにここまで必要なのか」(シェアサービス関係者)との疑問が示される。また、車道で倍以上の速度で走る自動車と並走して、果たして電動キックボードの安全が確保できるかという課題もある。

そこで「マイクロモビリティ推進協議会」を構成するループなど関連企業は、ヘルメットや運転免許にかんする規制緩和を国に要望。その実現に向けた安全走行の実績作りも兼ね、産業競争力強化法の「新事業特例」を活用した実証実験を国に申請し認可を得た。2021年3月末まで、通常は原付きが入れない自転車レーンも走れる。

ループのほかEXx(エックス、東京・港)、mobby ride(モビーライド、福岡市)の計3社が対象で、モビーライドは10月20日から福岡市で始めた。11月下旬ごろには神戸市や広島県尾道市などでも始める。エックスは東京都渋谷区や神奈川県藤沢市など首都圏で11月下旬から順次始めるとしている。

実験結果を踏まえ21年前半にも国家戦略特区での規制緩和を国が検討する。いかに必要性を訴求できるかが問われる。

(企業報道部 原欣宏、平塚達) 電動キックボードについてはかつて、先行した欧米のように自由に走れる規制緩和を期待する向きもあったが、今では欧米でも走行に関するルール整備が進んでいる。
 米カリフォルニア州やドイツなど欧州各国で歩道の走行は禁止された。自転車専用道を走るように求め、専用道がない場合に車道を走らせるのが共通した方向性。子供を除きヘルメットや免許は求めないが、社会問題化した歩道の走行や駐車には規制をかけている。
 新型コロナウイルスの感染拡大で一時はロックダウン(都市封鎖)によりシェアサービスの提供ができなくなったものの、その後再開している。
 ウィズコロナが長引くなか、「密」な公共交通機関の利用を避け1人で移動できるモビリティーとして交通体系に組み込もうとしているのが欧米だ。2020年7月からトライアルとして合法化した英国もその一つ。走行空間となる自転車道も欧米各都市で整備拡充が打ち出され、追い風が吹く。

コロナ後も見据え適切な位置づけが必要に(米カリフォルニア州サンフランシスコ)

コロナ後も見据え適切な位置づけが必要に(米カリフォルニア州サンフランシスコ)
 日本ではどうか。走行に適した自転車道の整備には中長期的に時間がかかるが、事業者による安全・安心なサービス提供の実績次第では認められるエリアを広げる余地があるのではないか。
 この点モビーライドは19年10月から断続的に約1年間、九州大学構内の公道に近い環境でシェア電動キックボードの実証実験を行った。対話アプリ「LINE」での登録で、スマートフォンを使い借りることができる。ループも横浜国立大学の構内などでやはり公道走行に近い形での実証実験を重ね、運行経験を積んだ。
 工場内など私有地では既に活用は広がっている。福岡県にあるトヨタ自動車子会社の工場では、19年10月にモビーライドが提供する電動キックボードのシェアリングを採用。これまで100台以上を導入した。エックスの電動キックボードは、大阪府の大手メーカーの工場で採用された。
 今回の実験では、ループが安全を確保しつつ利便性を損なわない工夫として、機体に方向指示器(ウインカー)を付けた。原付き扱いでウインカーがないと、交差点などで「手信号」での合図が必要になるためだ。
 規制を所管する警察庁は一貫して慎重な態度を取っているもよう。ただ高齢化や過疎化が各地で進み、交通事情はかつてと大きく変化した。コロナ禍の影響や、海外との往来が再開するコロナ後も見据えて、様々なニーズに応えられるよう移動の足を確保していく必要がある。
 海外製の電動キックボードがネット通販などで簡単に手に入り「法律上の区分を知らない人が基準を満たさない機体に公道で乗ってしまっている」(関係者)問題も起きている。その解決策の一つとしても、比較的管理がしやすい電動キックボードのシェアサービスを国内の交通体系において適切に位置づけるべき時期がきているといえそうだ。
(企業報道部次長 武田敏英)

香港の若手起業家、理数系の教育改革で創造力育む

「ファースト・コード・アカデミー」を設立したミシェル・サン氏(楊徳銘撮影)

香港でプログラミングを軸とする「STEM」教育が広がってきた。詰め込みを脱して、イノベーションにつながる豊かな発想力を育む狙いがある。普及を担うのが試行錯誤を繰り返して教育ビジネスに挑む若い起業家たちだ。

「STEM」は科学、技術、工学、数学を組み合わせた造語だ。香港政府が2015年に本格導入を宣言し、中国やシンガポールも人工知能(AI)などの専門人材を育てるためSTEMに力を入れる。

香港のミシェル・サン(33)は米国の大学を卒業した後「ブートキャンプ」と呼ばれる短期集中講座でコンピューターのプログラミングを学んだ。大学の専門は経済学で、エンジニアやソフトウエア開発者をめざしていたわけではなかったが「アジアの若者が学ぶべきもっとも重要な共通言語の1つ」と確信した。

シリコンバレーのスタートアップを経て香港に戻り、13年にプログラミング教室を運営する「ファースト・コード・アカデミー」を設立した。3歳から18歳までを対象にウェブページやアプリの作り方を教える。オンラインや少人数の対話形式で授業を進め、1回ごとにアプリ制作など1つのプロジェクトを達成するのが特徴だ。

ミシェルは「単なるスキルではなく、失敗を恐れない気持ちを育んでほしい」と話す。台湾やシンガポールにも進出し、教え子は累計1万5千人になった。進出した中国本土では競合が激しく、拠点を閉鎖する苦い経験もあった。4月から小学校でプログラミングが必修化された日本にも関心を寄せる。

オンライン学習ツールを開発した楊卓裕氏

オンライン学習ツールを開発した楊卓裕氏

香港大学でコンピューターサイエンスを学んだ楊卓裕(29)は「未知の問題でも柔軟に対処できる創造的な考え方を学ぶ重要性が高まっている」と話す。

楊は17年にプログラミングのオンライン教材を手掛ける「マジキューブ」を設立した。パソコンでブロックを並び替えてプログラミングを完成させ、小型のコンピューターを実際に動かす仕組みだ。

50を超える学校や塾がマジキューブが開発したクラウドベースの教育ツール「ウナ・プラットフォーム」の採用を決めた。教師が生徒一人ひとりの進捗を確認しながら双方向に授業を進められるのが特徴だ。楊は「新型コロナウイルスの流行で対面とオンラインの両方に使える教材の人気が高まっている」と話す。

アジア共通の課題は脱「詰め込み」だ。経済協力開発機構(OECD)の国際学習到達度調査(PISA)によると、香港やシンガポールは科学と数学の分野で世界トップレベルの能力を持つものの、イノベーションを生み出す創造力が弱いと言われ続けてきた。

ミシェルは「ネットにつながれば世界のどこからでも次のフェイスブックやインスタグラムを生み出せる」と話す。楊も「楽しみながら学べ、教育の効率と学習効果を最大限に高める教材を提供したい」と強調する。ミシェルや楊のような新しいSTEM教育の起業家たちが従来の詰め込み教育を変える可能性を秘める。=敬称略

(香港=木原雄士)

日本列島、Go To特需に笑顔 混乱に悲鳴も

「GoToトラベル」事業で主要な観光地は旅行客が戻った(東京・浅草の仲見世通り・10月31日)

「GoToトラベル」事業で主要な観光地は旅行客が戻った(東京・浅草の仲見世通り・10月31日)

10月下旬。星野リゾート(長野県軽井沢町)が運営する「星のや軽井沢」は多くの宿泊客でにぎわっていた。客室は連日満室。「こちらで検温をお願いします」。「3密」回避へ、客室でのチェックイン対応など従業員が慌ただしく動き回る。

星のや軽井沢は客室の平均単価が9万円を超える高級ホテル。だが政府の観光支援策「Go To トラベル事業」の効果はすぐに表れた。「既に入れた予約は割引対象か」。支援開始が決まった7月上旬以降、問い合わせが相次いだ。

「東京発着の旅行が加わった10月にさらに予約が増えた」。総支配人の金子尚矢は驚く。来年1月までの予約は前年の2~3割増で推移する。

軽井沢だけではない。クラーク博士の銅像で知られるさっぽろ羊ケ丘展望台(札幌市)は10月11日、銅像前で写真撮影を待つ長い列ができた。1日の来場者が40人以下の日もあった6月とは様変わりだ。支配人の田中義信は「1千人を超えた日が10月だけで9日もある。予想以上だ」と喜ぶ。

旅先で使えるクーポン券を合わせ、1泊1人2万円を上限に旅行代金の半額を補助する「Go To トラベル」。活況は旅行会社も同じだ。日本旅行は9月下旬から来店予約が急増。4店舗で始めたオンライン旅行相談を14店舗に拡大した。

10月から東京発着の旅行も対象に加わると、地方から東京に向かう旅客の波も大きくなっている。1日の東京・浅草。浅草寺を訪れた佐賀市の会社員の男性は「GoTo」を利用し、家族5人で2泊3日で旅行に来た。「約30万円の旅費が半額近くで済む。いい気分転換」と笑顔を見せた。

浅草寺近くで人形焼きを販売する店の女性店主は「この1カ月で店も客数が1、2割ほど増えた」と振り返る。ドコモ・インサイトマーケティングの位置情報データでも、10月下旬の日光東照宮付近の人出が感染拡大前の3倍、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(大阪市)も3割増えた。コロナで冷え込んだ各地域と観光産業を支える効果が着実に出始めている。

だが、急きょ導入が決まった「GoTo」を巡っては一部で混乱やひずみも浮き彫りになった。

「このままでは予約を止めないと」。10月10日、航空便予約サイトを運営するアドベンチャー(東京・渋谷)の広報担当、春木和也は焦っていた。同日深夜「ヤフートラベル」など大手旅行予約サイトが突然、「GoTo」の割引上限を3500円に下げたからだ。

「GoTo」の予算は事業者の前年の販売実績や販売計画に基づき配分する。10月以降、一部の業者に申し込みが集中。国から割り当て済みの予算枠が逼迫し、割引額の維持が難しくなった。政府は10月13日、全ての業者が1泊最大1万4千円の割引を提供できるよう追加で予算配分するとの発表に追い込まれた。

五月雨式に発表する政府の方針変更も、現場から困惑の声が出ている。「各地から事業の延長を求められている」。国土交通相の赤羽一嘉は10月30日、来年1月末までとする旅行商品の販売の延長を検討すると表明した。一方で観光庁は同日、ビジネスでの出張や高額なサービスがついた宿泊プランを対象外にする考えを示した。

運転免許取得の合宿ツアー、コンパニオンの接待付き旅行――。観光庁は10月末にかけ、観光を主な目的としない商品を軒並み対象から外した。さらに今後の支援対象は7泊8日までが上限となる。ビジネス利用を防ぎ観光目的に絞るためだが、都内のホテルの担当者は「出張の合間に観光する人もいる。どこからがビジネス目的か線引きが難しい」と打ち明ける。

観光客の急増で、新型コロナの感染拡大への懸念も根強い。北海道は10月28日、5段階の警戒ステージを最も低い「1」から「2」へと引き上げた。知事の鈴木直道は「感染拡大を早期に抑え込み、社会経済活動との両立を進める重要なステージ」と訴える。

GoToトラベルの予算は現状1.3兆円規模だが、星野リゾート代表の星野佳路は話す。「事業が終われば需要が落ち込む。今から終了後を考えなければいけない」

観光など需要が冷え込む業界の支援策として打ち出された政府の「GoTo」事業。現場の最前線を追う。(敬称略)