ポストZoomを競うビデオ会議システム、勝者は誰か

ンーフーは肩越しにスライド資料を指さしてプレゼンテーションの演出効果を高められる(写真はリービン氏)

ンーフーは肩越しにスライド資料を指さしてプレゼンテーションの演出効果を高められる(写真はリービン氏)

新型コロナウイルスに伴う在宅勤務でオンラインのビデオ会議サービス「Zoom(ズーム)」は存在感を急速に高めた。運営会社の時価総額は米IBMを超え、この分野では誰もが認める巨人だ。だが実は、すでに「ズームの次」を巡る競争は始まっている。ニーズの多様化に応え、急成長を遂げるのは誰か。

背後の発表スライドで重要なポイントを肩越しに指さし、同僚と代わる代わる画面に登場して「かけあい」を演じてみる。単調になりがちなビデオ会議のプレゼンテーションに彩りを添え、聞き手を引き込む演出を可能にするのが「mmhmm(ンーフー)」だ。ズームなどと一緒に使う。

■話し手がスライド画面に入れる

最大の特徴は話し手がスライド画面に入れること。自分の表示サイズを変えたり、好みの位置に据えたりも自由自在だ。ズームは資料表示画面と自分の画面が別々だが、ンーフーは発表の要点を直感的に伝えやすい。

「在宅勤務を始めてから数カ月がたち、退屈なプレゼンしかできない既存サービスでは満足できなくなった」。ンーフーの責任者で、クラウド情報管理サービス「エバーノート」創始者としても有名なフィル・リービン氏は開発の経緯を語る。

「プレゼン」と聞くとビジネスパーソンの姿を思い浮かべるかもしれない。実際、すでにPwCジャパングループが全社規模でのモニター利用を決めるなど、ビジネスシーンでの期待度は高い。

ただし「プレゼンはあらゆる仕事で必要とされている」というのがリービン氏の持論だ。医師や教師、弁護士などでもプレゼンは必要。「新型コロナで対面が難しくなり、意図を相手に伝えるのに苦労している全ての人に届けたい」という。

ンーフー自体はビデオ会議サービスでなく、ズームやユーチューブの動画収録に使えるリアルタイムの映像加工アプリに位置づけられる。7月上旬に試用版を公開すると、すぐに10万人を超える申し込みがあった。現在は米アップルのマックOS版しか公開しておらず、幅広い利用者へ届ける手段が課題となる。今秋をめどに、正式版の立ち上げを目指す。

リービン氏の語る「退屈な既存サービス」とは何か。直接の言及は避けたが、ズームが含まれているのは間違いないだろう。それは、ズームがこの1年で急成長を遂げた証しでもある。

運営会社ズーム・ビデオ・コミュニケーションズの決算資料によれば、ズームを使う法人ユーザー(従業員10人超)は7月末で37万社。前年の同じ時期と比べて5.6倍に増えている。

日本でもズームはビデオ会議サービスの普及のけん引役だ。調査会社J・D・パワージャパン(東京・港)が4月に実施した調査によれば直近でビデオ会議を利用した人のうちズームを使ったのは約3割と、関連サービスで最も多かった。よく使うようになった時期は「今年2月以降」が61%。ズームが急ピッチで浸透したことがわかる。

■「こんなふうに使えればいいのに」

「ビデオ会議って便利だな」。なじみの薄かった消費者にもそう気づかせたズームの功績は大きい。しかし新型コロナの感染拡大は長引き、在宅期間が続くにつれて人々は利便性に慣れてきた。「もっとこんなふうに使えればいいのに」との声も聞こえ始めている。

日本経済新聞は調査会社インサイトテック(東京・新宿)の協力を得て、消費者がズームに感じている不満を調べた。インサイトテックは日本国内の消費者から様々な不満の投稿を有償で募り、商品開発やマーケティングに生かしたい企業に提供する「不満買取センター」を運営している。

ズームをめぐる投稿件数をみると、2019年は通年でも3件しかなかった。急増したのは今春だ。4月に53件を記録すると、緊急事態宣言の出ていた5月には初めて100件を超えた。感染者拡大がやや落ち着いた7月には66件まで減ったが、再び感染が増えた8月には171件、9月には198件まで伸びた。

内容で目立つのが画面表示をめぐる不満だ。三重県の20代女性は「画面共有中の参加者の画像サイズを調整したい」と投稿した。東京都の30代女性も「画面共有ではなく資料共有の機能が欲しい。映したくないものが写るのが怖い」という。

大人数での飲み会についても要望が多い。「少人数ならいいが、10人を超えると間延びしたり、会話がかぶったりする」(栃木県の30代男性)。千葉県の30代女性は「1人ずつ順番に話すのを聞くだけではなく、まわりの会話を耳に入れつつ、話したい人と話せるようにしたい」と訴えた。

中には「本人だけではなく、まわりの人もミュート中かどうかを知らせる機能がほしい。娘の会話中に自分が入り込んでしまわないか不安」(神奈川県の40代男性)という指摘もあった。奈良県の20代女性は「トイレに行きたくなったり、何かを取りに行ったりするときに『一時離脱中』などと表示できる機能が欲しい。離脱中に話しかけられたのに返せないと、無視したと思われてしまう」との不満を寄せた。

サービスに対する消費者の期待は、まずは不満として現れる。急成長を遂げたズームに対する不満を調べれば「ズームの次」に求められるヒントも見えてくる。

Remoは大人数のパーティーをオンラインで再現できる

Remoは大人数のパーティーをオンラインで再現できる

営業活動などで優れた成果を出すには社内外の人脈づくりが重要となる。ときには偶然の出会いが思わぬ成果を生み、商機につながることもある。そんな出会いの場としてこれまで重宝されてきたのが、大人数が集まるパーティーだ。しかし不特定多数と接触する大規模なパーティーは新型コロナウイルスの流行後、開きにくくなった。

■パソコン画面がパーティー会場に

代替策でビデオ会議での「オンライン飲み会」も定着しつつあるが、難点は多い。参加者が3~4人なら円滑に進む場合も多いが、数十人になると発言できない「待ち時間」が長くなり、濃密なコミュニケーションを取りづらい。そこで期待されているのが米国発の「Remo(リモ)」だ。

サービスを立ち上げると画面には会議場の見取り図のようなイラストが現れる。フロアにはテーブルが配置され、写真つきのアイコンが「着座」している。これが参加者だ。会話に加わりたいテーブルを選ぶとビデオ会議の画面が立ち上がり、会話の輪に入れる。あとは話をしたり資料を共有したりと、何人かで「輪」を作って自由にコミュニケーションできる。

一つの「輪」への参加はもう十分だと思えば、好きなタイミングで離れられる。見取り図の画面に戻れば次の会話の輪に移れる。まさに立食パーティーの会場を自由に歩き回るような感覚だ。

リモ創業者のホーイン・チャン最高経営責任者(CEO)は「もともとはオンラインの仮想オフィスとして開発したサービスだった」と話す。香港で企業のSNS活用を支援する別会社を経営していた同氏がサービスを立ち上げたのは2019年1月。その会社自体がオフィスを持たず全社員がリモート体制で働いており、社員同士のコミュニケーションを円滑にするサービスを作れないかと考えたのだという。

しかしサービスを始めた当初の利用は低調だった。そこでチャン氏は同年8月、大規模なカンファレンスをオンラインで開くサービスに形態を改めた。そして公式サイトでのアピール形式も「仮想オフィス」から「仮想集会」に変えたところ、徐々にユーザー数が増え始めた。

そんなときに吹いたのが今年初めから世界各国で求められた外出自粛という「追い風」だ。カンファレンスの主催に必要な月額100ドル(約1万600円)からの有料アカウントは登録が増え続け、月間利用者は世界で数十万人に達する。採算も黒字化したという。

米大統領選に向けて民主党の支持者らが集会に使った例や、日本で若いカップルが結婚式に活用した実績がある。「まず会話の輪に加わり、そこから話に耳を傾けるというオフラインの体験を再現している」(チャン氏)。営業や人脈構築で重宝されてきたパーティーや商談会も、リモならば実現に近づける。

ハーバード・ビジネス・スクールは「白熱教室」の臨場感を再現する

ハーバード・ビジネス・スクールは「白熱教室」の臨場感を再現する

教育現場でも独自のシステム開発が始まっている。その中でフロントランナーと呼べそうなのが米ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)だ。6月に本格運用を始めた「HBSライブ・オンライン・クラスルーム」は、従来なら本拠地ボストンの教室内で繰り広げられていた熱のこもったディベート型授業をオンラインで可能にした。

■約100人の参加者が並ぶ

その最大の特徴は臨場感だ。学内の収録スタジオの内部は、100人弱いる参加者の表情が映った画面が半円状にずらりと並ぶ。講師はその中心から、テンポよく参加者に質問を投げかける。

画面には個別のカメラとスピーカーが据え付けられ、参加者が発言するとスピーカーから声が流れる。声を聞いた講師が体を向けると動きをカメラがとらえ、参加者は「自分のほうを向いた講師」の視線を浴びた感覚を持てるという。全員が正面を向く既存のビデオ会議にはない緊張感だ。

参加者の考えをリアルタイム集計するアンケート機能や、電子黒板に書かれた内容を記録して表示できる機能も備える。実空間での「白熱教室」を上回るような工夫だ。

このクラスを6月から7月にかけて受講した東京海上日動火災保険の兵頭由剛氏は「高等教育の未来を目撃した気がした」と振り返る。

当初はボストンに足を運んで講義を受ける予定だったが、日本にいながらにして最先端の現場を体験することができた。すでに世界で数百人が受講したという。

文部科学省によれば、日本では今夏の時点で8割を超える大学が遠隔授業をしていた。しかし学生の間では「集中力が続かない」など悩みも聞かれる。HBSは専用スタジオを新設するなど一定の投資も伴う事例だが、臨場感のある講義を実現するという意味で日本の大学にも参考になる。

ビデオ会議自体は必ずしも新しい仕組みではない。しかし新型コロナはビデオ会議の仕組みに「進化」を迫った。今後も「ポストZoom」の座を狙うサービスは増え続け、競争激化に伴って利用者の利便性も高まっていくだろう。

(企業報道部 藤村広平氏)

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