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省庁に「デジタル大号令」 予算編成の常識変わるか

始動 菅予算(1)

菅首相の指示を受け、平井デジタル相(写真左)はシステム予算の一元化に乗り出す

菅首相の指示を受け、平井デジタル相(写真左)はシステム予算の一元化に乗り出す

「経済社会の大転換がこの場からスタートする」。首相の菅義偉は9月30日、内閣官房IT総合戦略室の職員に向き合って直接、檄(げき)を飛ばした。目玉施策であるデジタル庁の設置準備にあたるメンバーたちだ。「庁」になれば会計や予算執行の機能を自前で持つ。責任は重い。

新型コロナウイルス禍の影響で、例年より1カ月遅い9月末に締め切られた2021年度予算の概算要求。一般会計の総額は105兆円超と過去最高になった。デジタル関連は1%の1兆円程度にとどまるが、コロナ禍の今年は現時点で金額を示さない項目も多い。

デジタル庁の予算もその一つだ。コロナ禍で浮き彫りになった日本の病巣を改革するための異例の予算編成は、年末に向けて攻防が本番に入る。

デジタル改革相に就いた平井卓也は同庁設置への準備室の職員に「システムの効率化で終わらせてはいけない。国民が幸せになる社会をつくるのが使命だ」と発破をかける。今の国のシステムは効率が低く、うまく機能していないからだ。

新型コロナの感染が広がった3月、平井が自民党のデジタル政策の会議をオンラインで開くとIT室の職員は職場から参加できなかった。民間では普通のテレビ会議にIT担当の役所が対応できない。平井はお粗末な実態を目の当たりにした。

省庁ごとにバラバラに構築するシステムをまとめて改良するには、まず大本である予算から一元化しないと始まらない。デジタル化を政策の「一丁目一番地」とする菅政権が誕生した今は、またとない好機だ。しかし長年にわたって続く霞が関の常識が簡単に変わるかは不透明感が漂う。

システム予算を失いたくない各省庁は一元化に必ずしも乗り気ではない。IT室が概算要求で一括計上した霞が関のシステム経費の829億円は、まだ全体のシステム経費の1割程度にとどまる。デジタル庁が幅広く各省庁の予算を握れるか、綱引きはこれからだ。

「デジタル」が焦点に浮上する場面はデジタル庁以外にもある。

「もう一声、お願いします」。消費者庁の会計担当課長の広瀬健司は9月中旬、庁内の課長たちに迫った。依頼して回ったのはデジタルに関連づけた予算の上積みだ。

同庁長官の伊藤明子も菅政権をチャンスとみる。消費生活センターなどには消費者から年90万件の電話と窓口での相談が寄せられるものの、今のシステムはSNS(交流サイト)などに対応しない「周回遅れのシステム」(伊藤)。相談事務をデジタル化し消費者から寄せられる情報を生かす体制づくりを始めた。

高まるデジタル化の機運は変化の起点になりえる。消費者庁の概算要求の資料に1年前は1度しか出てこなかった「デジタル」の文言が29回まで増え、金額も増えた。

予算の確保は省庁の仕事にとってすべての根幹だ。波に乗り遅れれば埋没してしまうとばかりに、各省庁が雪崩を打ってデジタル化を掲げる。しかし「デジタル化に取り組んでいる」という姿勢が先行して内実を伴わなければ意味がない。

総務省が概算要求の説明資料の目玉に載せたのは、自治体のデジタルトランスフォーメーション(DX)のための経費だ。計上した38.8億円は20年度当初予算と比べ5倍の大幅増になる。

ただその8割を占めるのはクラウド上に置く自治体共通のセキュリティー対策システムの経費。たまたま5年ごとの更新の時期に当たっただけで、実態はほぼ横ばいだ。

ある官庁の幹部は「DXでまとめた方が与党に説明しやすい」と明かす。予算取りのためにデジタル施策の器ばかりが増え、効率化よりムダが膨張するなら本末転倒だ。

改革を迫られるのは民間も同じだ。省庁や自治体ごとにシステムを構築し、個別のシステムを維持・管理して稼ぐビジネスには行政とのもたれ合いの構図があった。

NTTデータ富士通NECなど多くの民間システム会社は身構える。ある大手幹部は「既存のビジネスは守られるのか」と不安を抱きながら、「デジタルガバメントの推進に貢献する方策を提案しなければ」と表情を引き締める。(敬称略)

ポストZoomを競うビデオ会議システム、勝者は誰か

ンーフーは肩越しにスライド資料を指さしてプレゼンテーションの演出効果を高められる(写真はリービン氏)

ンーフーは肩越しにスライド資料を指さしてプレゼンテーションの演出効果を高められる(写真はリービン氏)

新型コロナウイルスに伴う在宅勤務でオンラインのビデオ会議サービス「Zoom(ズーム)」は存在感を急速に高めた。運営会社の時価総額は米IBMを超え、この分野では誰もが認める巨人だ。だが実は、すでに「ズームの次」を巡る競争は始まっている。ニーズの多様化に応え、急成長を遂げるのは誰か。

背後の発表スライドで重要なポイントを肩越しに指さし、同僚と代わる代わる画面に登場して「かけあい」を演じてみる。単調になりがちなビデオ会議のプレゼンテーションに彩りを添え、聞き手を引き込む演出を可能にするのが「mmhmm(ンーフー)」だ。ズームなどと一緒に使う。

■話し手がスライド画面に入れる

最大の特徴は話し手がスライド画面に入れること。自分の表示サイズを変えたり、好みの位置に据えたりも自由自在だ。ズームは資料表示画面と自分の画面が別々だが、ンーフーは発表の要点を直感的に伝えやすい。

「在宅勤務を始めてから数カ月がたち、退屈なプレゼンしかできない既存サービスでは満足できなくなった」。ンーフーの責任者で、クラウド情報管理サービス「エバーノート」創始者としても有名なフィル・リービン氏は開発の経緯を語る。

「プレゼン」と聞くとビジネスパーソンの姿を思い浮かべるかもしれない。実際、すでにPwCジャパングループが全社規模でのモニター利用を決めるなど、ビジネスシーンでの期待度は高い。

ただし「プレゼンはあらゆる仕事で必要とされている」というのがリービン氏の持論だ。医師や教師、弁護士などでもプレゼンは必要。「新型コロナで対面が難しくなり、意図を相手に伝えるのに苦労している全ての人に届けたい」という。

ンーフー自体はビデオ会議サービスでなく、ズームやユーチューブの動画収録に使えるリアルタイムの映像加工アプリに位置づけられる。7月上旬に試用版を公開すると、すぐに10万人を超える申し込みがあった。現在は米アップルのマックOS版しか公開しておらず、幅広い利用者へ届ける手段が課題となる。今秋をめどに、正式版の立ち上げを目指す。

リービン氏の語る「退屈な既存サービス」とは何か。直接の言及は避けたが、ズームが含まれているのは間違いないだろう。それは、ズームがこの1年で急成長を遂げた証しでもある。

運営会社ズーム・ビデオ・コミュニケーションズの決算資料によれば、ズームを使う法人ユーザー(従業員10人超)は7月末で37万社。前年の同じ時期と比べて5.6倍に増えている。

日本でもズームはビデオ会議サービスの普及のけん引役だ。調査会社J・D・パワージャパン(東京・港)が4月に実施した調査によれば直近でビデオ会議を利用した人のうちズームを使ったのは約3割と、関連サービスで最も多かった。よく使うようになった時期は「今年2月以降」が61%。ズームが急ピッチで浸透したことがわかる。

■「こんなふうに使えればいいのに」

「ビデオ会議って便利だな」。なじみの薄かった消費者にもそう気づかせたズームの功績は大きい。しかし新型コロナの感染拡大は長引き、在宅期間が続くにつれて人々は利便性に慣れてきた。「もっとこんなふうに使えればいいのに」との声も聞こえ始めている。

日本経済新聞は調査会社インサイトテック(東京・新宿)の協力を得て、消費者がズームに感じている不満を調べた。インサイトテックは日本国内の消費者から様々な不満の投稿を有償で募り、商品開発やマーケティングに生かしたい企業に提供する「不満買取センター」を運営している。

ズームをめぐる投稿件数をみると、2019年は通年でも3件しかなかった。急増したのは今春だ。4月に53件を記録すると、緊急事態宣言の出ていた5月には初めて100件を超えた。感染者拡大がやや落ち着いた7月には66件まで減ったが、再び感染が増えた8月には171件、9月には198件まで伸びた。

内容で目立つのが画面表示をめぐる不満だ。三重県の20代女性は「画面共有中の参加者の画像サイズを調整したい」と投稿した。東京都の30代女性も「画面共有ではなく資料共有の機能が欲しい。映したくないものが写るのが怖い」という。

大人数での飲み会についても要望が多い。「少人数ならいいが、10人を超えると間延びしたり、会話がかぶったりする」(栃木県の30代男性)。千葉県の30代女性は「1人ずつ順番に話すのを聞くだけではなく、まわりの会話を耳に入れつつ、話したい人と話せるようにしたい」と訴えた。

中には「本人だけではなく、まわりの人もミュート中かどうかを知らせる機能がほしい。娘の会話中に自分が入り込んでしまわないか不安」(神奈川県の40代男性)という指摘もあった。奈良県の20代女性は「トイレに行きたくなったり、何かを取りに行ったりするときに『一時離脱中』などと表示できる機能が欲しい。離脱中に話しかけられたのに返せないと、無視したと思われてしまう」との不満を寄せた。

サービスに対する消費者の期待は、まずは不満として現れる。急成長を遂げたズームに対する不満を調べれば「ズームの次」に求められるヒントも見えてくる。

Remoは大人数のパーティーをオンラインで再現できる

Remoは大人数のパーティーをオンラインで再現できる

営業活動などで優れた成果を出すには社内外の人脈づくりが重要となる。ときには偶然の出会いが思わぬ成果を生み、商機につながることもある。そんな出会いの場としてこれまで重宝されてきたのが、大人数が集まるパーティーだ。しかし不特定多数と接触する大規模なパーティーは新型コロナウイルスの流行後、開きにくくなった。

■パソコン画面がパーティー会場に

代替策でビデオ会議での「オンライン飲み会」も定着しつつあるが、難点は多い。参加者が3~4人なら円滑に進む場合も多いが、数十人になると発言できない「待ち時間」が長くなり、濃密なコミュニケーションを取りづらい。そこで期待されているのが米国発の「Remo(リモ)」だ。

サービスを立ち上げると画面には会議場の見取り図のようなイラストが現れる。フロアにはテーブルが配置され、写真つきのアイコンが「着座」している。これが参加者だ。会話に加わりたいテーブルを選ぶとビデオ会議の画面が立ち上がり、会話の輪に入れる。あとは話をしたり資料を共有したりと、何人かで「輪」を作って自由にコミュニケーションできる。

一つの「輪」への参加はもう十分だと思えば、好きなタイミングで離れられる。見取り図の画面に戻れば次の会話の輪に移れる。まさに立食パーティーの会場を自由に歩き回るような感覚だ。

リモ創業者のホーイン・チャン最高経営責任者(CEO)は「もともとはオンラインの仮想オフィスとして開発したサービスだった」と話す。香港で企業のSNS活用を支援する別会社を経営していた同氏がサービスを立ち上げたのは2019年1月。その会社自体がオフィスを持たず全社員がリモート体制で働いており、社員同士のコミュニケーションを円滑にするサービスを作れないかと考えたのだという。

しかしサービスを始めた当初の利用は低調だった。そこでチャン氏は同年8月、大規模なカンファレンスをオンラインで開くサービスに形態を改めた。そして公式サイトでのアピール形式も「仮想オフィス」から「仮想集会」に変えたところ、徐々にユーザー数が増え始めた。

そんなときに吹いたのが今年初めから世界各国で求められた外出自粛という「追い風」だ。カンファレンスの主催に必要な月額100ドル(約1万600円)からの有料アカウントは登録が増え続け、月間利用者は世界で数十万人に達する。採算も黒字化したという。

米大統領選に向けて民主党の支持者らが集会に使った例や、日本で若いカップルが結婚式に活用した実績がある。「まず会話の輪に加わり、そこから話に耳を傾けるというオフラインの体験を再現している」(チャン氏)。営業や人脈構築で重宝されてきたパーティーや商談会も、リモならば実現に近づける。

ハーバード・ビジネス・スクールは「白熱教室」の臨場感を再現する

ハーバード・ビジネス・スクールは「白熱教室」の臨場感を再現する

教育現場でも独自のシステム開発が始まっている。その中でフロントランナーと呼べそうなのが米ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)だ。6月に本格運用を始めた「HBSライブ・オンライン・クラスルーム」は、従来なら本拠地ボストンの教室内で繰り広げられていた熱のこもったディベート型授業をオンラインで可能にした。

■約100人の参加者が並ぶ

その最大の特徴は臨場感だ。学内の収録スタジオの内部は、100人弱いる参加者の表情が映った画面が半円状にずらりと並ぶ。講師はその中心から、テンポよく参加者に質問を投げかける。

画面には個別のカメラとスピーカーが据え付けられ、参加者が発言するとスピーカーから声が流れる。声を聞いた講師が体を向けると動きをカメラがとらえ、参加者は「自分のほうを向いた講師」の視線を浴びた感覚を持てるという。全員が正面を向く既存のビデオ会議にはない緊張感だ。

参加者の考えをリアルタイム集計するアンケート機能や、電子黒板に書かれた内容を記録して表示できる機能も備える。実空間での「白熱教室」を上回るような工夫だ。

このクラスを6月から7月にかけて受講した東京海上日動火災保険の兵頭由剛氏は「高等教育の未来を目撃した気がした」と振り返る。

当初はボストンに足を運んで講義を受ける予定だったが、日本にいながらにして最先端の現場を体験することができた。すでに世界で数百人が受講したという。

文部科学省によれば、日本では今夏の時点で8割を超える大学が遠隔授業をしていた。しかし学生の間では「集中力が続かない」など悩みも聞かれる。HBSは専用スタジオを新設するなど一定の投資も伴う事例だが、臨場感のある講義を実現するという意味で日本の大学にも参考になる。

ビデオ会議自体は必ずしも新しい仕組みではない。しかし新型コロナはビデオ会議の仕組みに「進化」を迫った。今後も「ポストZoom」の座を狙うサービスは増え続け、競争激化に伴って利用者の利便性も高まっていくだろう。

(企業報道部 藤村広平氏)

新たな宇宙論への道?巨大銀河団に高密度ダークマター

米航空宇宙局(NASA)/欧州宇宙機関(ESA)のハッブル宇宙望遠鏡が撮影した銀河団MACS J1206の画像。こうした銀河団の質量は非常に大きく、その巨大な重力は虫眼鏡のように光の進路を曲げてしまう。これを重力レンズ効果という(NASA, ESA, M. POSTMAN (STSCI) AND THE CLASH TEAM)

人間が一人では生きられないのと同じように、銀河も単独では存在できない。銀河には重力により互いに引き合う傾向があり、ときに巨大都市のような集団を形成することもある。1000個もの銀河からなる、太陽の1000兆個分もの質量をもつ巨大銀河団だ。

しかし、私たちが目にできる星々の質量は、銀河団全体のごく一部にすぎない。銀河団の質量の多くは、目には見えない謎だらけの「ダークマター(暗黒物質)」にあると科学者たちは考えている。ダークマターは、銀河団やその中に含まれる銀河などを球状に取り囲んでいると考えられている。こうした球状の領域は、銀河団ハロー、銀河団の中にあるものはサブハローとそれぞれ呼ばれる。

天文学者たちは何十年も前から、ダークマターが宇宙誕生の際にどのように機能し、宇宙の構造を形作ってきたかを解明しようとしてきた。だがしかし、2020年9月10日付で学術誌「サイエンス」に発表された論文により、現在標準とされる理論と大きく矛盾する観測結果が示された。あわせて読みたい重力波を検出 太古のブラックホール衝突天の川銀河、S字型にねじれていた

今回の研究では、銀河団の中を通って地球に届いた光がどのように曲げられているかを、11の巨大銀河団について調べている。その結果、これらの銀河団に含まれる密度の高いダークマターの領域が、標準モデルにもとづいたスーパーコンピューターの予測より10倍以上も多かったと示唆されたのだ。

「これほどの食い違いが見つかると、多くの場合、従来のモデルを修正する必要が出てきます」と、論文の共著者である米エール大学の理論天体物理学者プリヤムバダ・ナタラジャン氏は言う。「けれどもまれに、そうした食い違いが新しい理論への道を示してくれることがあります。科学史の中でも非常にまれなことですが」

宇宙に存在する巨大なレンズ

この研究は、現在の宇宙論の標準モデルとされる「ラムダCDM(コールド・ダークマター)」モデルを検証した最新のものだ。

ラムダCDMモデルによると、宇宙に占める物質とエネルギーの総和のうち、惑星、恒星、銀河、生物など、私たちが目にするすべてのものを構成する「バリオン物質」は、5%にも満たないという。宇宙の大部分にあたる約68%を占めているのは、宇宙膨張を加速させる謎の反発力「ダークエネルギー」であると考えられ、ギリシャ文字の「Λ(ラムダ)」という記号で表される。

宇宙の残りの27%を占めているのがダークマターだ。このモデルによれば、ダークマターは質量を持ち、重力場を作れるが、自身で反応したり光を放出したりすることはなく、通常の物質とは重力でのみ相互作用する。

ラムダCDMモデルを検証するため、イタリアのボローニャ天文台の天文学者であるマッシモ・メネゲッティ氏が率いる研究チームは、これまでに知られている最大級の銀河団について、物質が周囲の時空を歪(ゆが)ませる「重力レンズ」という現象を観測した。

トランポリンの上に置いたボウリングのボールが周囲の布を湾曲させるように、物質は周囲の時空を歪ませる。歪んだ時空はまるで巨大なレンズのように通過する光を曲げるため、銀河や銀河団のような天体は、その後ろにある遠方の星の明るさや見え方を変えてしまう。

メネゲッティ氏の研究チームは、なかでも銀河団の中にある小さくて強い重力レンズの効果に着目した。11個の銀河団の地図を作製し、小さくて強い重力レンズを数え上げたところ、予想の10倍以上の数が見つかった。この観測結果は、ダークマターのサブハローがコンピューター・シミュレーションの予測よりはるかに高い密度で銀河団の中に存在することを示唆しており、現在の標準とされるラムダCDMモデルと矛盾していた。

新しい宇宙理論への道が開けるのか

宇宙の観測結果とラムダCDMモデルの間に矛盾が生じるのは、今回が初めてではない。しかし、米テキサス大学オースティン校の天体物理学者マイク・ボイラン・コルチン氏は、今回の食い違いは過去の検証で明らかになったものとはまるで違い、非常に意外な発見だとコメントしている。

過去の検証では、はるかに小規模な天体を観測対象とし、ダークマターの密度は理論から予測される値より低いとされた。対して今回の発見では、銀河団全体のダークマターの密度がラムダCDMモデルの予想より高いとされたのだ。

「これまでとは正反対の発見です」とメネゲッティ氏は言う。

理論と観測の間に、新たな対立を生じさせたものは何なのだろう? 銀河が形成される過程を、コンピューターモデルが完全に把握できていないのだろうか? あるいは、これほど巨大な構造をモデル化するための精度が不足しているのだろうか? 論文著者たちは、これらの要素が誤差の原因となりうることは当然考慮していたものの、今回の結果は誤差にしては大きすぎて説明できないのだと言う。

厄介なのは、理論をあらためるのなら、ラムダCDMモデルと同じくらい宇宙のほかの性質をきちんと説明できる必要があるということだ。

ラムダCDMモデルでは、ダークマターは「冷たい」とされている。ダークマターが冷たいとは、宇宙が誕生した当初、ダークマターの粒子の速度が非常にゆっくりだったことを意味する。

この遅さは、ダークマターの密度が平均よりわずかに高い領域があることを説明する上で欠かせないものだった。こうした領域は、その後、通常の物質が恒星や惑星や銀河を形成する足場のような役割を果たしたとされる。

ただし、ラムダCDMモデルは宇宙の大規模構造をうまく説明できる一方で、例えば大きな銀河や、銀河団より小さな銀河群など、約330万光年未満の構造についてはあまりよく予測できない。多くの場合、銀河の中で見つかる小さな天体はラムダCDMの予測より少なく、また、ダークマター領域の密度は低いとされてきたが、今回の観測では予測より密度の高いとされる領域が見つかった。

今後つくられるモデルは、小さなスケールでのダークマターの相反する振る舞いを説明できるものでなければならない。米カリフォルニア大学アーバイン校の天体物理学者ジェームズ・ブロック氏は、その難しさを「床にばらまいてある針を踏まないように歩こうとするようなものです」と表現する。

重力レンズの専門家である英ダラム大学の物理学者マチルデ・ジョーザック氏は、この問題のさらなる検証は一筋縄ではいかないと言う。まず、巨大銀河団はさほど一般的なものではない。今回の研究ではできるだけ多くの銀河団を調べようとしたが、それでもわずか11個だった。

「巨大銀河団は珍しいので、シミュレーションもあまりうまくいきません」とジョーザック氏は言う。より多くの銀河団を調べようと思ったら、もっと広大な宇宙空間のシミュレーションを行わなければならず、それには膨大な量の計算が必要になる。

天体物理学者がラムダCDMモデルの矛盾点を十分に突き止めることができれば、ビッグバンからいかにして宇宙が始まり、恒星や地球や私たち人類が生まれてきたのか、宇宙史の全貌をより正確に説明する新しい理論への道が開けるかもしれない。

(文 MICHAEL GRESHKO、訳 三枝小夜子氏、日経ナショナル ジオグラフィック社)

LINEのAI、飲食店の電話予約に対応 空席情報とも連携

顧客とAI電話予約サービス「さゆり」の会話のイメージ

顧客とAI電話予約サービス「さゆり」の会話のイメージ

日経クロストレンド

飲食店の予約管理システムを手掛けるエビソル(東京・渋谷)は、人工知能(AI)電話予約サービス「AIレセプション」の提供を10月1日から開始した。このAIはLINEの音声対応AIサービスをベースにしており、対人と変わらない自然な会話が可能だという。

■予約の半分以上を占める電話にAIが対応

「ぐるなび」「食べログ」など、いくつものグルメサイトがネット予約機能の利用を促進している昨今。飲食店における座席の予約は「ネットで調べて電話」というスタイルから、「ネットで調べてそのまま予約」というスタイルに変わりつつある。

とはいえ、エビソルのデータによれば、19年10月時点でもその割合は全体の46%程度。残りの54%はいまだに電話予約だという。しかも前日から当日にかけては電話予約のほうが圧倒的に多く、比率で言えばネット予約の2倍近くに上る。

ネット予約と電話予約が混在する現状において、電話予約への対応は店側にとって大きな負担になっている。単に予約状況を確認しつつ顧客とやり取りすれば済むわけではなく、自社のウェブサイトに加えて、提携している各グルメサイトにも同じ予約情報を手作業で入力する必要が生じるからだ。

また複数のグルメサイトと提携している場合、開店前および閉店後の時間帯や休日など、スタッフが対応できないタイミングでグルメサイト経由の予約が重複してしまう可能性もある。それを避けるためには、グルメサイトごとに一定の空席を確保しておくことも必要になる。

そうしたスタッフの手間や機会損失のリスクを解消するのが、ネット予約の情報をリアルタイムで自動登録するエビソルのシステム「エビカ」だ。自社サイト、各グルメサイトの空席情報を横断的に更新するエビカを導入すれば、同じ予約情報を各グルメサイトに入力する手間はなくなる。またネット予約が重複する心配もなくなるので、すべての空席をネット予約用に開放することも可能になる。さらにエビカは各種POS(販売時点情報管理)とシステムとも連携しており、予約なしでの来店情報を登録する機能も備えている。

そのエビカに電話予約の自動登録機能を追加するのが新サービス「AIレセプション」だ。「さゆり」と呼ばれるAIスタッフが合成音声で顧客と会話し、顧客の名前と来店人数・日時を確認した上で、その情報をネット予約の場合と同様にエビカに登録する。各グルメサイト経由の予約だけでなく、電話による予約もデジタルデータで一元管理できるようになるわけだ。

AIレセプションのイメージ。AIスタッフの「さゆり」がオンラインでエビカと連携し、空席情報の確認・提案から予約の登録までを行う

AIレセプションのイメージ。AIスタッフの「さゆり」がオンラインでエビカと連携し、空席情報の確認・提案から予約の登録までを行う

■実証実験に約1年、8割以上の業務に対応

AIスタッフ「さゆり」の「中の人」は、LINEの音声対応AIサービスだ。これは飲食店などの業務効率化を目的としたサービスである。

エビソルとLINEは「さゆり」の実用化に向けて19年11月から実証実験を実施しており、LINEの砂金信一郎氏によれば「営業時間外の電話予約、予約内容の確認など電話に関わる業務の8割に問題なく対応できている」とのこと。「さゆり」は単に予約を受け付けるだけではなく、予約したい時間が満席の場合は「空席のある前後の時間帯を提案する」「近くの系列店を案内する」といった機能も搭載している。AIが電話予約に対応することで、電話業務に関するスタッフの負担は半減するという。

予約の変更・キャンセルや忘れ物の確認など、「さゆり」では対応できない業務については店舗のスタッフに交代することになるが、その際は顧客と「さゆり」の会話履歴もテキストで転送される。顧客が状況を最初から説明し直す必要はないわけだ。転送したときにスタッフが不在の場合、顧客は店舗の留守番電話などにメッセージを残しておくことになるが、スタッフが折り返して連絡する際にも便利な機能だ。

「現状は日本語のみだが、技術的には多言語に対応することも可能。今後もチューニングを重ねて精度を上げ、対応できる電話業務を増やしていく」と砂金氏は言う。対話アプリ「LINE」と連携し、予約内容をプッシュ通知することで顧客の「うっかり」によるキャンセルを防止する機能を追加する予定もある。

AIレセプションの利用料は100件までが月額1万5000円(税別、以下同)、以降は1件につき150円。電話応対にかかる人件費との比較は難しいものの、スタッフが対応できないタイミングでも予約を受け付けられるメリットがある。エビカを導入している店舗は全国約1万5000店に上るが、エビソルの田中宏彰社長は「全店で導入してもらえる可能性がある」と自信をみせる。

(ライター 堀井塚高、画像提供 エビソル/LINE)