感染情報、遅い共有・発信 日本の研究機関、米・独に大差 リスク管理の発想欠如

米CDCや独ロベルト・コッホ研究所はビジュアルな情報を日々更新している
「まだ調べられていない」「そこは自信がない」。先週、都内で開いた日本感染症学会の学術講演会で、国立感染症研究所の脇田隆字所長は会場からの質問にたびたび言葉を詰まらせた。
新型コロナウイルスの国内感染が広がりだしてから半年以上たつ。しかし、日本を代表する専門研究機関の感染研や、多くの患者を治療してきた国立国際医療研究センターの情報発信は不十分なままだ。
感染拡大を防ぎ治療法を探すにはウイルスはもとより、患者の遺伝子データや症例の詳しい報告が欠かせない。付属病院に来る感染者らのデータを収集、分析する基礎医学系の大学教授は「感染研と協力したくても情報共有がなければ話にならない」と突き放す。
意図的な情報隠しはなくても「縦割り組織で限られた専門家がすべてを引き受けようとするため、作業が追いつかないのだろう」とみる。結果的にデータや成果の囲い込みを招きかねない。
 
 
感染研がホームページで公表する国内の感染状況は、発生からかなりの遅れがある。最新の「直近の感染状況等」は8月5日現在のものだ。14日公表の「積極的疫学調査の結果」は6月3日時点。傾向の把握に役立つ図表の多くは2週に1度程度しか更新されない。
日本の新型コロナ情報の収集・発信力の貧弱さは米国やドイツと比べれば歴然としている。米疾病対策センター(CDC)は当初、PCR検査キットに問題がみつかるなどして批判を浴びたが立ち直りも早かった。
幹部が頻繁に記者会見して感染状況や検査の課題を説明し、事態収拾を急いだ。今は日々のデータや週ごとの概要をわかりやすく公表している。「数週間先の見通しを示し公衆衛生上の対策を支援する」目的で新規感染者数、死者数や入院者数の「予測」も掲載する。
30以上の大学などの数理統計や予測モデルの研究グループから計算結果を集める。モデルにより結果はばらつくが統計的に可能性の高い変化傾向は示せる。外部との開かれたデータのやりとりが情報整理を可能にした。
独ロベルト・コッホ研究所はホームページ上で独語と英語で感染情報を毎日更新する。感染者数の地域分布、年齢別グラフなどを示し何が読み取れるかの解釈も載せる。1人の感染者から何人にうつるかを示す実効再生産数の推定値も日々公表し、傾向をつかみやすい。
患者に投与した薬と症状の推移に関する臨床情報も治療戦略に欠かせないが、日本は人手不足もありなかなか整理しきれない。国際医療センターが症例報告のデータベース構築に乗り出したが、内容の一端を公表したのは8月に入ってからだ。
米国立衛生研究所(NIH)は世界の症例や診断、治療などの研究報告を整理したウェブサイト「Lit Covid」を開設した。4万件以上の報告を地域や種類ごとに検索できる。
 
平時、備え進まず
 
情報収集や分析、発信で海外と大きな差がつくのはなぜか。日本大学危機管理学部の福田充教授は「来るべき危機に平時から備えるリスク管理の発想が欠けていたことが背景にある」とみる。情報の扱いは危機管理の要諦だ。「事が起きてから慌てて態勢を整えようとしてもうまくいかない」
政府は感染症対策をバイオテロなどと並ぶ国の危機管理の重点分野とみなしてこなかった。「こんなことが起きたら大変だ」と騒ぐと「あおるな」と批判されがちな日本独特の難しさもある。
研究分野のたこつぼ化も事態を悪化させた。CDCには感染症以外の専門家もおり、外部とつながっている。感染研なども何でも自前でやるのは無理がある。国内の症例報告などの収集で先行する感染症学会や国際医療センターとの連携を深めれば、情報収集・発信も速まり充実するだろう。
仏英の製薬大手の日本法人トップを務めたコンサルタントのフィリップ・フォシェ氏は「多くの日本人は情報に対して受け身で、あまり疑問も持たない」と指摘する。政府や専門機関のお膳立てを待つばかりではなく、一人ひとりが危機意識を持ち情報を取りに行く姿勢も大切だ。
(編集委員 安藤淳氏)
 

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