体力勝負のスマホ決済、勝者はどこか?

複数のスマホ決済サービスを使える店舗も増えてきた
 
スマートフォンを専用機器にかざして支払いを済ませるスマホ決済が拡大している。2020年4〜6月期決算では、各社とも登録者数や取扱高を大きく伸ばした。だが、先行投資もあり、各社とも赤字が続く。利益なき競争を抜け出すのはどこか。
 
■大規模還元が奏功 取扱高が急増
 
「まずは規模を大きくしたい」。傘下のヤフーを通じて「PayPay」の運営会社PayPay(東京・千代田)に25%出資する、Zホールディングスの川辺健太郎社長は強調する。PayPayの6月末時点の登録者数は3004万人と1年前に比べ3.5倍に、4〜6月の決済回数は4億2850万回と前年同期の9倍に拡大。「まずは」の言葉通り、急成長を遂げた。「100億円還元」などとうたった独自の巨額還元キャンペーンが効いた。
 
 
 
これに加え、川辺社長が「登録者急増の追い風になった」と指摘するのは、政府が昨年10月から今年6月に実施したキャッシュレス決済のポイント還元事業だ。対象の中小店舗(200万店)の6割にあたる115万店が登録し、対象の決済額は8兆円を上回った。
各社の2020年4〜6月期決算を見ても、スマホ決済の消費者への浸透は明らかだ。NTTドコモの「d払い」の取扱高は1530億円と前年同期比2.8倍に増加。LINEの「LINE Pay」もグローバル取扱高が28%増の3640億円に伸びた。楽天の「楽天ペイ」は詳細な開示はないものの、電子マネーの「楽天Edy」などと合わせた利用者数は19年12月に4600万人にのぼった。
9月には、マイナンバーカード普及とキャッシュレスの推進を狙ったマイナポイント事業が始まる。消費者がマイナンバーカードと1種類のキャッシュレス決済をひもづけると、最大5000円分のポイントが付与される仕組みで、足元では独自の優遇策を組み合わせたユーザー囲い込みが活発だ。メルカリの「メルペイ」が最大で1000万円が当たるキャンペーンを張るなど、大規模な還元が再燃している。
 
■先行投資で各社赤字
 
各社とも利用拡大に向けた先行投資を優先しており、ほとんどの事業者が部門赤字とみられる。PayPayの20年3月期の営業損益は822億円の赤字で、赤字は前の期の2倍超に拡大。LINE Payを運営するLINE Pay(東京・品川)の19年12月期も191億円の営業赤字だった。
もっとも、スマホ決済ビジネスが赤字なのは、大盤振る舞いのせいだけではない。加盟店にとって、手数料を負担してまでスマホ決済を導入する動機が乏しいことが背景だ。高額決済が可能なクレジットカードには「客単価の上昇」という魅力があるが、スマホ決済にはそれがない。価格競争に陥りやすく、5%前後とされるクレジットカードに比べ加盟店からの手数料を低く抑えざるを得ない。楽天ペイの基本の手数料は3.24%。KDDIの「auPAY」は通常、3.25%だ。
楽天の広瀬研二最高財務責任者(CFO)は「手数料で大きく稼ぐという発想はない」という。では、各社がスマホ決済の拡大を目指すのはなぜか。カギになるのは、他のサービスと連携することで、いかに自社サービスの「経済圏」を拡大できるかだ。
 
 
 
PayPayが目指すのは、金融やネット通販など多様なサービスを集めた「スーパーアプリ」だ。タクシー配車や請求書の支払い、個人向けローンなどに加え、6月には注文と決済をアプリ上で受け付ける、飲食店向けの「PayPayピックアップ」をスタートした。楽天ペイも電子商取引(EC)を軸に多様なサービスを展開する「楽天経済圏」全体から稼ぎ出す収益の拡大を狙う。楽天の三木谷浩史社長は「クレジットカードやデビットカード、電子マネー、キャッシュレス決済とあらゆるキャッシュレス決済が共通のIDで使えるのが強みだ」という。
 
■合従連衡の動きも
 
とはいえ、利益なき消耗戦をいつまでも続けられるわけではない。ここにきて合従連衡の動きも目立ってきた。
楽天ペイは5月、JR東日本の電子マネーSuica(スイカ)との連携を開始。アプリ上でスイカを発行できるほか、スイカへのチャージで楽天ポイントがたまるといった機能を備える。auPAYは19年12月に共通ポイント「Ponta(ポンタ)」を運営するロイヤリティマーケティング(東京・渋谷)に出資し、20年5月に自社ポイントをポンタと統合。会員数9400万人を超すポンタの顧客基盤を活用して、auPAYの利用増を狙う。メルカリは6月からNTTドコモのdポイントとメルペイの連携を開始、9月にはQRコードも共通化する。
 
■PayPay、市場関係者の評価高く
 
覇権争いが繰り広げられるスマホ決済市場で生き残るのはどこか──。日経ヴェリタスがスマホ決済の専門家や市場関係者6人に聞いたところ、6陣営の中で最も高い評価を得たのはPayPayだった。多様なサービスが利用できる「スーパーアプリ」化に向けた種まきが評価されている。楽天ペイがこれに続き、電子商取引(EC)との親和性が高さも評価のポイントになっている。
 
 
 
事業の「成長性」、収益化するまでのキャッシュ余力を示す「耐久力」、「本業とのシナジー」の3項目について、それぞれ5点満点で評価してもらい、6人の点数を単純合計した。
PayPayは90点満点中66点を稼ぎ、総合トップの評価を得た。全ての項目で上位につけたが、特に評価が高かったのは「成長性」だ。
PayPayは飲食店の集客ツールやタクシー配車など決済が関わるあらゆるサービスに展開しているのが強み。「加盟店開拓が進んでおり、他の決済事業者と競合しない加盟店が多い」と声が多かった。さらに新サービスの開発に積極的なのも評価されている。PayPayは決済を軸に多様なサービスを集めたスーパーアプリを目指しており、「(ソフトバンク)グループ内に各種オンラインサービスを抱えており、相乗効果が期待できる」(松井証券の窪田朋一郎氏)という。
本業とのシナジーの面でPayPayをしのぐ評価を得て、首位だったのは楽天ペイだ。情報通信総合研究所の出口健氏は「会員数の多さをベースに、ポイント還元を軸とした『楽天経済圏』への取り込みが進んでいる」と評価する。
楽天ペイ以外も、シナジーの項目上位にはPayPay、メルペイとECが本業の陣営が並ぶ。「スマホ決済はECサイトの販促ツールとして有効」との声が多かった。半面、通信を本業とするd払いやauPAYの点数は低かった。携帯電話の保有台数は1人1台を超え、各社とも数千万の顧客基盤を抱えるが、ECのような収益を生むオンラインサービスが育っていないことが評価に影響しているようだ。
 
■携帯会社系、耐久力にアドバンテージ
 
 
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黒字化するまでの耐久力では、携帯電話会社のサービスが高評価を得た
逆に、耐久力では、d払い、auPAYにPayPayを加えた携帯会社系の陣営が上位を独占した。契約者から毎月、通信料金が入ってくるストックビジネスである携帯会社は財務体質が良好。「信頼性と安定感の高さは、決済サービスを展開する上で大きなブランド価値になる」(出口氏)という。豊富なキャッシュを原資に積極的なポイント還元で顧客基盤を強化し、携帯電話の解約防止や電気や保険といった通信以外のサービスの利用拡大を目指している。
総合ランキングをみると、LINE Payやメルペイの2陣営は競合にやや水をあけられる結果になった。加盟店の開拓やポイント還元キャンペーンなどによる顧客の囲い込みで、スマホ決済は体力勝負の様相を呈している。LINEはSNS(交流サイト)で、メルカリはフリマアプリで確固たる地位を築いているが、本業の収益力では他陣営に見劣りする。これが評価の分かれ目になったようだ。
(秦野貫氏、野口知宏氏、上原翔大氏)

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