「中高年社員はお荷物」に疑義 賃金カーブ傾き急に

2019年の株式相場は米中摩擦に振り回されたが、日本企業の将来の競争力に関して、経済界首脳が重要な問題提起をしたことも忘れられない。経団連の中西宏明会長やトヨタ自動車の豊田章男社長が終身雇用制の限界に言及したことだ。企業の中高年社員は肩身が狭かったことだろう。しかし、経済統計をみると、企業は中高年への報酬を増やし、40歳前後の中堅社員の報酬はむしろ減っている。「中高年はお荷物」という定説は実態とは異なるのではないか。
60歳の定年が近づいた中高年社員や雇用延長で働き続ける60歳代の社員は一般に「経済的な価値は失ったのに、既得権にしがみつき、業務運営の妨げにはなっても、およそ組織に貢献していない」といった目で見られがちだ。55歳前後で役職定年を迎える人も多い。給与水準もピークをすぎ、さらに60歳になれば、同じ仕事でも大幅な給与ダウンが普通だろう。
「中高年お荷物説」に拍車を掛けたのが、経済界重鎮の発言だ。経団連の中西会長は5月7日の定例記者会見で「働き手の就労期間の延長が見込まれるなかで、終身雇用を前提に企業運営、事業活動を考えることには限界がきている」と述べた。トヨタの豊田社長は5月13日の日本自動車工業会の会長会見で「雇用を続ける企業などへのインセンティブがもう少し出てこないと、なかなか終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と述べた。
余裕のある大企業ですら、こんな具合だから、一般には終身雇用制と表裏一体の年功序列型の賃金カーブはどんどん平たん化し、長く勤めても給与は増えなくなったと考えられている。実際、国税庁の「民間給与実態統計調査」によると、1年以上勤務した55〜59歳の男性社員の平均年間給与は1995年には35〜39歳の男性社員の21%増しだったが、07年には14%増しまで、「上乗せ幅」が縮小した。
ところが、この傾向は07年を境に反転し、今や50歳代後半は30歳代後半に比べて格段に報われるようになっている(以下の記述は男性のみ)。18年には50歳代後半の平均給与は685万7000円と、30歳代後半の527万6000円の30%増しになった。延長戦に入った60歳代前半の平均給与は、減ったとしても537万円に達し、おそらく初めて30歳代後半を上回った。
企業は役所と異なり、実績が上がらない社員に多額の給与を支払っていたら、倒産してしまう。短期的なミスマッチはあろうが、中長期的には制度を変えたり、配置転換をしたりして賃金を市場価値に近づけるはずだ。定説に反して07年以降、中高年社員がより報われるようになったのは、一人ひとりの格差はあるとしても、全体として業績への貢献度が高いためだろう。
というと「年齢を重ねるに従い、不要な社員は整理されるから、残った優秀な中高年にだけ、報いているのではないか」との反論が出るかもしれない。確かに当該年齢層の人口(各年10月1日現在)に占める1年以上勤務者の割合は18年の場合、30歳代後半の84.3%から50歳代後半には78.8%に、60歳代前半には63.2%になっている。
しかし、07年には50歳代後半の1年以上勤務者の割合は70.9%だった。60歳代前半は44.2%だった。企業の戦力として雇われ続ける中高年は確実に増えている。18年の平均給与の絶対水準も30歳代後半が07年比5.8%減、40歳代前半が8.5%減、40歳代後半が4.0%減と低下するなかで、50歳代後半は7.5%増、60歳代前半は6.3%増と伸びている。中高年は多く雇われ、多く報われており、「お荷物」というのは無理がある。
多少分析を加えれば、40歳前後は就職氷河期に当たり、非正規社員の割合が高いので給与水準が下がっているのではないかとの推計もできる。総務省の労働力調査によると、35〜44歳の男性の職員・従業員に占める非正規の割合は07年の7.6%から18年の9.3%に1.7ポイント上昇した。45〜54歳は8.0%から8.6%へ0.6ポイントの上昇にすぎない。40歳前後の平均給与の減少は、不遇の世代だった一面を映している可能性がある。
中高年社員が企業業績の足を引っ張っている証拠もない。東証1部上場の2121社を社員の平均年齢が若い順に212社ずつ10グループに分けると、最も若いグループ(平均年齢32.5歳)の株価は平均で年初来25.7%高、過去5年間で129.9%高と最も好成績だった。2番目に若いグループ(同36.4歳)も年初来で23.5%高、過去5年間で97.7%高と好調ぶりを示した。社員が若い分、社歴も若く、ダイナミックな経営をしているのだろう。
しかし、若い方から3番目のグループ(同38.3歳)以降は株価で判断する限り、特筆すべきものはない。若い方から6番目のグループ(同41.3歳)は年初来で14.2%高にとどまった。その後、8番目のグループ(同43歳)は年初来で22.2%高、過去5年間で52.9%高とまずまずの成果を収めた。9〜10番目のグループも株価の年初来上昇率は3〜7番目のグループを上回る。中高年社員がはつらつと仕事をしている様子がほの見える。
経済界重鎮の発言は中高年社員よりも中堅社員に向けたものかもしれない。1つの例が、最近目立つ希望退職者の募集で、対象を「40歳から」にする企業が少なくないことだ。手元の集計では19年に入って希望退職者を募集した48社のうち、年齢で対象者を区切った34社をみると、うち8社が下限を40歳にしていた。ジャパンディスプレイ、サンデンホールディングス、オンキヨー、ファミリーマート、オンワードホールディングス、レナウン(10月に募集中止)、アサヒ衛陶、アマガサである。「35歳から」もルネサスエレクトロニクスとメガチップスの2社を数えた。
東京大学大学院の柳川範之教授が40歳定年制の導入を提唱してから10年ほどがたつが、辞めるにしても辞めないにしても、40歳前後は将来を見据えて人生をリセットするタイミングなのかもしれない。国税庁の統計が間違っているのではないかとの指摘もあろうが、厚生労働省の賃金構造基本統計調査の年齢階級別所定内給与の推移とも整合的だ。
中高年社員は自信を持っていい。クリスマスをともに祝う子どもは育ってしまったかもしれないが、自分へのご褒美でエネルギーをチャージするときだ。

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