仲良し職場は勝てない 「成果と報酬」で育つプロ意識 カルビー元会長 松本晃氏

社外から招かれて会社に入り、トップとして率いる――。プロ経営者をこう定義するなら、松本晃氏がそのスタートを切ったのは45歳のときです。出向先の医療機器販売会社で業績を劇的に改善した後、伊藤忠商事を辞めた松本氏を招いたのは、米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)でした。日本で医療機器を販売するJ&Jメディカルのプレジデントとなった松本氏は、6年間の在任中に売上高を5倍にし、黒字転換させて「プロ」としての実力を証明したのです。(前回の記事は「いつも財布に『経営哲学』 迷ったら立ち返るJ&J流」)
初出勤、「皆いい人」に危機感
1993年1月4日、東京都江東区にあったJ&Jメディカルの本社にプレジデントとして初出勤しました。そのときのことは、今でも鮮明に覚えています。簡単に言うと「皆いい人だけど、プロ意識が低いな」という印象でした。
社員は全部で150人ほどでした。外資系といっても、ほぼ全員が日本人です。新卒で入った若い人も多かった。そのせいかもしれませんが、たとえて言うなら大学の同好会、仲良しクラブといった雰囲気でした。
前職のセンチュリーメディカルで僕がつくり上げた組織は、大学でいえば体育会でした。2つは全く違います。体育会は、目標を決めて突っ走る組織です。一方の同好会は、みんなが楽しければいい。同好会では、センチュリー社との競争には絶対勝てません。初日から「このままじゃ、しんどいな」と軽い危機感に見舞われました。会社を大きくするには「体質改善」しかないと思いました。
僕は「会社というのは厳しく、温かくなければだめだ」と思っています。会社は稼ぐための組織ですから、社員への要求も当然厳しくなります。応えられない場合、出て行ってもらうこともある。それが「厳しく」です。
その代わり頑張った社員には、活躍に見合う給料を払い、待遇もよくする。それが「温かく」です。この両方がないと会社は絶対うまくいきません。頑張っても見返りがなければ、優秀な社員は辞めてしまいます。人の大切さがわからない、だめな会社ということです。
改革路線、自信揺るがず
僕が入ったころ、どこの国のJ&Jも厳しく温かい組織でした。でも、なぜか日本法人だけは厳しさに欠け、温かくて甘い組織でした。後に経営を任されることになるカルビーも、当時は温かくて甘い体質でした。だからうまくいっていなかった。要するに会社が伸びないのは、体質が原因なんです。だったら変えてやればいい。カルビーで僕がしたのは、体質を変えたこと、それだけなんです。
J&Jメディカルで真っ先に手をつけたことの一つが、センチュリー社でも成功した成果主義の導入でした。成果に応じて給料も上がるインセンティブ制を導入し、就任2年目の途中からは契約社員も採用し始めました。
予想した通り、インセンティブ制の契約社員とそうでない社員では売り上げに大きな差がつきました。当初は制度をよく思わない社員もいたようです。ただ、僕は「自分は間違ったことはしていない」という自信があったので、気にしませんでした。
前にもお話ししましたが、僕の経営者としてのモットーは「正しいことを正しく」です。正しいことなら、多少の不平不満はあっても正面切って反対できる人はいません。これはどんな組織でも一緒です。正しいと思ったことを正々堂々とやればいい。もし間違っていたのなら、素直に聞き入れてすぐ改める。僕は、朝令暮改どころか「『朝令朝改』のスピードで改める」といつも言っています。
成果主義がバツで、好き嫌いはOK?
成果主義について、僕の考えはすごくはっきりしています。僕は成果主義が100%正しいとは思っていません。でも成果主義を否定する経営者は、どうやって人を評価し、選別しようというのでしょうか。結局、個人的な好き嫌いになってしまうんです。そんなことを続けていたら、会社は必ず悪くなります。会社がもうかるようにするには、一定の問題があると分かっていても成果主義にせざるを得ないんです。
J&Jメディカルの体質を改善するため、センチュリー社で成功した研修制度も取り入れました。やり方はほぼ一緒で、新入社員をいきなり米国の研修施設に送り込み、6週間、徹底的に解剖や医療機器について学ばせます。帰国した瞬間から一人前の営業として活躍できるようにするためです。もっともセンチュリー社のように「研修中の試験に落ちたら即座に『クビ』」とまでは、しませんでした。その辺りは甘かったわけですが、制度としては大きな成果を上げました。
J&Jメディカルの売上高は、僕が率いた6年間、年率33%で伸び続けました。大赤字だった収支もすぐに黒字に転換しました。会社にとって一番大事な利益をあげることができたわけです。医療機器の事業は、もともと粗利益率が非常に高いんです。だから売り上げが伸びれば、利益は必ず大幅に増える。それは初めから分かっていました。
売り上げを伸ばすカギは結局、人だということも改めて確認しました。たとえば、他社が素晴らしい商品を開発したとします。J&Jには資金力があるので、同じような商品を出すことまでは、すぐできます。しかし、それを売る人は一朝一夕には育ちません。だからこそ優秀な人を育てようと成果主義を取り入れたし、モチベーションの高い契約社員も採用しました。人の大切さ、これだけはどんな組織でも変わらないんです。
松本晃
1947年京都府生まれ。京都大学大学院修了後、伊藤忠商事入社。93年にジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)日本法人に転じて社長などを歴任した。2009年にカルビーの会長兼最高経営責任者(CEO)に就任。停滞感のあった同社を成長企業に変え、経営手腕が注目されるようになった。11年には東証1部上場を果たし、同社を名実ともに同族経営会社から脱皮させた。18年に新興企業のRIZAPグループに転じ、1年間構造改革を進めたのも話題に。
(ライター 猪瀬聖氏)

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