月別アーカイブ: 2019年8月

働き方の研究者 現場の声から病巣探る

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月60時間を超える残業をする人の45.2%が強いストレスを感じ、無駄な会議での企業の損失は年間15億円。残業は同調圧力によって感染し、帰りにくさを感じる20代は50代の2倍近い。
立教大経営学部教授の中原淳さん(43)が2018年末、全国の企業で働く約2万人への調査を基にした「残業学」と題した本で日本の長時間労働の病巣に斬り込んだ。ネットなどで「データが示されることで、残業の実態と生み出される構造が良く分かった」と反響を呼び、増刷が続く。
働き方改革の掛け声が響く中、部下の仕事内容を把握しにくい仕組みや不適切な仕事の量など「残業の根本的な原因を放置しては本当の改革にはならない」と訴える。
専門は人材開発や組織のマネジメントだ。個人の能力を企業などの目的に沿う形で育て、集団を組織として機能させる意思疎通の方法や人の配置などを考える。
研究の原点にあるのは自分が職場で感じる「モヤモヤした悩み」だ。
大学の研究室で、多いときには約20人の部下を束ねた。限られた陣容での仕事の割り振り、部下の育成に試行錯誤を繰り返した。
部下も自分も一生懸命働いているのに、仕事に追われ続ける。自らも共働きで子育てをしながら、早朝に研究時間をひねり出した。「与えられた時間と仕事の量は適切なのか」。自分たちの努力だけでは解決しきれない課題に頭を悩ませた。
自身の経験から、組織の抱える課題は現場から見えてくると信じる。研究でヒアリングをした働く人は2千人を超えた。
「人が足りない」「無駄な会議が多い」など100人中95人の仕事の悩みは組織と人にかかわる。「組織の変革につながる研究には意義がある」との思いは強い。
就職氷河期に学生時代を過ごし、世の中に安定した職場はないと思っていた。「学びが人生を左右する」と説く大学の恩師の影響で、研究の世界へ。企業での人材教育のあり方を巡り企業人と話すうち、「無駄な残業など皆が息詰まる土壌を生む組織の改革が先決だ」と気付いた。
研究室に掲げたのれんには「そして人生はつづく」。仕事や会社が時代と共に変わろうと、そこにいる人それぞれには人生がある。一人ひとりが職場で実りある暮らしを送ることのできる社会を目指し、研究も続く。
「残業学」 データが見せた実態
「残業学」に代表される著書や研究で中原さんが重視するのはデータに基づく分析だ。残業学では「職場でなぜ残業が発生するのか」というメカニズムについて、パーソル総合研究所(東京都)と共に2017〜18年、全国の20〜59歳の正社員1万2千人を対象に実態調査を行った。
残業は「集中」「感染」「まひ」「遺伝」し、組織的に学習され、世代を超えて伝わっていく――。調査データから導き出される残業の病巣とは。いくつかのデータと中原さんたちの分析を紹介する。
残業は「感染」する

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TICAD横浜宣言 「インド太平洋」構想を明記

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横浜市で開いた第7回アフリカ開発会議(TICAD)は30日午後、「横浜宣言」を採択して閉幕した。安倍晋三首相が提唱する「自由で開かれたインド太平洋」構想にTICADの成果文書として初めて触れ、重要性について認識を共有した。今後のアフリカ開発では民間ビジネスを重視していく姿勢も前面に出した。
インド太平洋構想はアジアとアフリカを結ぶインド洋や太平洋地域で、法の支配や航行の自由、経済連携を推し進めるものだ。首相が2016年8月にケニアで開いた前回TICADの基調演説で打ち出した。
横浜宣言では同構想に「好意的に留意する」と言及した。中国が主導する広域経済圏構想「一帯一路」を意識し、アフリカ諸国が中国に傾斜しすぎないよう促すものだ。
アフリカでのインフラ開発では中国の融資に頼り、巨額の債務を負った事例が指摘される。6月の20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)でまとめた首脳宣言や「質の高いインフラ投資原則」を共通認識として歓迎することも盛り込んだ。相手国に返済が難しいほど過剰な債務を負わせないよう、透明性と持続可能性を重視する内容だ。
優先事項の一つでも海洋安全保障を挙げ、中国の海洋進出を念頭に「国際法の諸原則に基づくルールを基礎とした海洋秩序の維持」を訴えた。
経済連携では「アフリカ開発における民間部門の役割を認識」と盛り込んだ。民間ビジネスを活性化してアフリカ経済の自律性を高める狙いで、政府間が主導する中国の対アフリカ支援との違いを訴えた。首相は閉会式で「民間企業のアフリカにおけるさらなる活動を後押しするため支援を惜しまない」と強調した。
アジアでの開発で日本が取り組んだ経験がアフリカでも役立つことを確認し、日本がアフリカ諸国での人材育成を支援する「ABEイニシアチブ3.0」を評価した。日本への留学やインターンを促進し、今後6年間で3000人の産業人材の育成を目指す仕組みだ。女性起業家への支援も歓迎する考えを明記した。
アフリカ開発を巡っては中国も00年から中国アフリカ協力フォーラムを計7回開き、18年の会合では3年間で約600億ドルの拠出を表明した。
首相も28日の基調演説で今後3年間で200億ドルを上回る民間投資の実現を後押しする考えを示した。ただ投資額だけで対抗するのではなく、中国独自の取り組みとの違いも際立たせたい考えだ。横浜宣言ではTICADの基本理念として日本とアフリカだけでなく国際機関や第三国にも開かれた枠組みだと強調した。
同宣言では日本が目指す国連安全保障理事会の常任理事国の拡大を念頭に「安保理を含む国連諸組織を早急に改革する決意を再確認」することも明記した。
次回の第8回TICADは2222年にアフリカで開く。TICADは前回初めてアフリカで開いており、3年ごとに日本とアフリカで交互に開催する方向性を明確にした。
日本が1993年に立ち上げたTICADでは参加する日本やアフリカ諸国で共通する問題意識を盛り込んだ宣言を出すのが通例だ。28日に開幕した今回はアフリカ54カ国のうち過去最高の42カ国の首脳級が参加した。

データ利用「違反」4分類 監視・抑止力強める 優越的地位の乱用、個人保護に適用

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公正取引委員会は29日、個人情報を巡る規制に向け、具体的に独占禁止法に違反する恐れがある4つの類型を示した。大量のデータを囲い込んで個人に不利益を与えるプラットフォーマーへの監視を強める。データの活用は今や企業の事業展開に欠かせない。企業にとってはデータを扱うルールを順守し利用者の信頼を得ることが成長の必須条件になってきた。
公取委が今回の指針案の作成で力を入れたのは、強い立場を利用して個人データを吸い上げると独占禁止法で定める優越的地位の乱用にあたると国内外のIT企業に警鐘を鳴らすことだ。
米フェイスブックや米グーグルなどが手がけるプラットフォームビジネスは一般的に、利用者が情報提供と引き換えに無料でサービスを受ける。日常生活の中に深く入り込んでいたり、データを他のサービスに移すと不便になったりするなど、事実上、利用をやめられないケースも多い。
公取委はプラットフォーマーは利用者に対して非常に強い立場にあると判断。従来は企業間に適用していた「優越的地位の乱用」を個人向けにも使えるようにする。
指針案では本人の意に反する個人情報の取得・利用を具体的にイメージしやすいよう、4つの類型を示した。個人情報を収集する際にその目的を知らせるのは当然だが、規約に明記していたとしても、文章が専門用語ばかりで難解な場合は、ルール違反にあたる可能性が高いとした。
一部の情報について利用することを伝えていても、追加の情報を要求したり、本来の利用目的でない目的で転用したりすることも規制の対象とした。通販サイトの運営会社が販売に必要な住所やクレジットカードの情報を得ることに加え、閲覧履歴の提供もサービス利用の条件にすれば違反の恐れがある。
プラットフォーマーへの規制は欧州が法整備で先行している。欧州連合(EU)はすでに2018年5月に一般データ保護規則(GDPR)の運用を始めている。これに対し日本はルール整備で出遅れた。対策としてまずは、すでにある独禁法を活用することで遅れを取り戻す考えだ。
独禁法でも公取委が違反と判断すれば改善を求める排除措置命令を出したり、課徴金の支払いを命じたりすることができる。米国は7月には司法省がグーグルなど「GAFA」を念頭に反トラスト法(日本の独禁法)で調査に乗り出した。ドイツも2月、フェイスブックの利用者からのデータ収集を「支配的地位の乱用にあたる」とした。
データビジネスの範囲は多岐にわたるため、他の関係省庁も連携して対策を進める。個人情報保護法を所管する個人情報保護委員会は29日、「必要な範囲で連携する」とコメントを出した。
企業、説明責任重く

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携帯大手、付加価値で顧客引き留め 違約金下げにらみ

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KDDIは28日、2年契約の途中解約の違約金を1千円に引き下げると発表した。10月から違約金の上限が1千円になる新ルールが始まるのを受けた措置で、他の大手も対応を迫られている。顧客流出のリスクが高まる中、KDDIがネットフリックスと組み合わせた新プランを発表するなど、各社は他のサービスと組み合わせた付加価値の提供に顧客つなぎ留めの活路を見いだしている。
KDDIの新たな違約金は9月13日からで、大手3社で引き下げを表明するのは初めて。ほかの大手は「詳細は未定だが、総務省の定めた方針に今後対応していく」(NTTドコモ)、「金額などは検討中だ」(ソフトバンク)などとしている。10月に参入する楽天はこれまで総務省の会合で「違約金はゼロにすべきだ」と主張していた。
2年契約の途中で解約する際の違約金は現在、大手3社がいずれも9500円で横並びだが、総務省は10月1日の法改正に合わせて携帯電話料金の新ルールをまとめ、違約金の上限を1000円とした。違約金を引き下げることで、利用者が携帯会社を乗り換えやすくする狙いがある。端末と通信料金それぞれの価格競争が進むよう促す。
違約金を巡っては、現在でも乗り換え先の携帯販売店などが負担するため顧客の負担感が小さい。大手3社の毎年の解約数を契約数で割った解約率は1%未満にとどまる。一方で、新ルールの下では携帯会社を乗り換えたい消費者の心理的な抵抗感は小さくなる。
KDDIの高橋誠社長は新ルールについて「事業計画には織り込み済み。通期の業績も達成できる」と影響は限定的とみるが、大手3社にとって顧客の流動リスクがより高まるのは確実だ。通信料だけでなく、サービスで差別化して顧客をつなぎ留める方針だ。
新たなつなぎ留め策としてKDDIは28日、米動画配信大手ネットフリックスの会費を組み込んだ新料金プランを9月に始めると発表した。新プランはデータ容量が無制限で使い放題となり、月額料金は7880円。家族割引などを適用した最も安い水準で月4880円から使える。従来のネットフリックスのプランは上限が25ギガ(ギガは10億)バイト、割引を組み合わせた最安値は5150円だったが、使い勝手をよくした。次世代通信規格「5G」も見据え、データ容量を気にせず使いたい利用者の需要を取り込む。
KDDIはコンテンツ事業者の利用料を組み込むサービスがカギとみている。高橋社長は同日の記者会見で「サブスクリプション(定額課金)サービスと組み合わせると解約率はかなり下がる。エンゲージメント(顧客との関係性)を重視する」と強調した。
他社も同様に顧客の引き留め策に動く。ドコモは「dポイント」の提携先や還元額を拡大することで家族中心に顧客のつなぎ留めを狙っている。6月末時点で提携先は476ブランドと1年前から1.7倍に増えた。
ソフトバンクは月に50ギガまで使えるデータ大容量プラン「ウルトラギガモンスター+」で動画投稿サイト「ユーチューブ」やSNS(交流サイト)の「フェイスブック」などはデータ量を気にせずに使えるサービスを導入。固定通信とのセット割引も活用して顧客を囲い込む。
調査会社、MM総研(東京・港)の横田英明常務は「5G時代は携帯会社の競争軸がサービスに移る。差別化するにはキャリア独自のエコシステム(生態系)が求められる」と話す。サービスの魅力があれば、他社からの乗り換えも期待できることから、携帯会社のプランづくりの巧拙が一段と問われそうだ。

留学生30万人時代 語学習得 継続は力 友人つくって気軽に会話/恐れず実際に使ってみる

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日本の大学や日本語教育機関で学ぶ外国人留学生が30万人時代を迎えた。留学生たちは日本語をどのように学び、使いこなす工夫を重ねているのだろうか。日本の大学を選んだきっかけも関心事も異なる2人の留学生に体験を聞いた。学びの姿勢は、ほかの留学生だけでなく、海外留学を志す日本人学生にも参考になるだろう。
オーストラリアからの交換留学生であるメドフォードさん(29)は、高校卒業後の6〜7年間、飲食、警察など様々な仕事を体験した。2015年に約3週間、日本を初めて旅して「穏やかで平和な国、料理も好きになった」という。
マードック大学(パース)に入学し、国際関係論と日本語を学んできた。個人で電子辞書やウェブサイトの教材も活用しながら日本語への理解を深め「留学に必要な基本的な日本語を身につけられた」と強調する。
今春、立教大学との交換留学生として来日した。1年間、日本語を学び、文化や社会を体験するなど日本を知る活動に重点を置いている。
立教大日本語教育センターによる日本語講座を受講し、さらなる上達を目指す。実力別に設けられた文法、読解、作文などの講座を数時間学びながら毎日3時間程度を予習・復習にあてている。
心がけていることは「毎日、新しい言葉を少しずつ覚え、使ってみること」だという。週末にはイベントに参加するなど、街を歩いて学びの機会を広げている。たとえば「案内表示板」「コンビニエンスストアでの店員との会話」「駅のアナウンス」などは生きた教材になるという。
少しでも言葉を使えるようになるためには「日本の友人をつくり、コミュニケーションを増やすことが大切です」と体験を語る。大学のボランティア活動やサークル活動に参加し、積極的に話す機会をつくることにも取り組んでいる。
「継続は力なり」という日本語を引用しながら、「言葉を学ぶということはまさにその通りだと思う」と語る。わからない言葉や表現を見ると学ぶ気がなくなるかもしれないが「決して諦めないこと、毎日続けることが重要だ」と強調する。
日本での留学期間を有意義に使うため、今後は日本語のシンポジウムなどを聴講して、議論の中身を知り、課題をみつけて理解する経験を積んでいきたいという。
将来は外交官を志している。高校卒業後に様々な人々とかかわり、仕事を経験したことで、国と国の橋渡し役として、貿易や安全保障などの問題に関わってみたいと考えるようになったからだ。
自らの経験を踏まえて、日本の若者にも「高校を出て、すぐに人生を決めることは難しい。自分の将来や仕事への夢、そして自分自身を知ることが大事だ」とアドバイスした。
インドネシア出身で関西学院大学国際学部3年生のスンジャヤさん(22)は、子どものころに日本の漫画やアニメーションを見て日本に関心を持つようになった。

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精神疾患リスク、脳画像で判定 広島大、MRI×AI うつ病7割の精度で

精神疾患などの患者の脳を磁気共鳴画像装置(MRI)で撮影して、病気の診断や発症リスクの見積もりに役立てる研究が進む。広島大学は機能的MRI(fMRI)の画像を人工知能(AI)に学ばせて、うつ病の患者を7割の精度で見分けることに成功した。国立精神・神経医療研究センターはパーキンソン病の前段階の患者を区別できた。早期発見や最適な治療法の探索に役立つと期待されている。
精神疾患はがんや脳卒中と並ぶ、厚生労働省が指定する5大疾病の1つだ。同省の2017年の調査によると、精神疾患と一部の認知症の国内患者は419万人。1999年の204万人の2倍以上に増えた。社会保障費の増加につながり、対策が求められている。
学会による診断基準などに沿って、問診を中心に症状の重さなどを医師が診断するのが一般的だ。精神疾患には様々な種類があるが似た症状の病気も多く、正確な診断には知識と経験がいる。だが、地方では精神科医が不足するところもあり、診断精度に限界がある。
MRIで脳を撮影し、その特徴を診断や発症リスクを見積もる手掛かりに使えば、診断精度が高まる。早くから治療できれば、症状の緩和や進行を抑えられる可能性も高まる。画像データは様々な種類がある精神疾患を正しく分類するのに役立ち、より効果的な治療法の開発にもつながる。
うつ病の患者と健康な人の画像を66人ずつ使うと、患者を7割の精度で見分けられた。「病気の可能性が高い人を見つけ、診断の補助に使える」(岡本教授)。複数の病院で精度を確かめ、診断支援ソフトウエアを開発するなどして、5年後の実用化を目指す。
国立精神・神経医療研究センターの花川隆・先進脳画像研究部長らは、パーキンソン病などの前段階にあたる「レム睡眠行動異常症」の55人の患者の脳をMRIで観察。70人の健康な人と比べて、患者で活発に働く部位を見つけた。
それをもとにすれば患者をほぼ見分けられるメドがついた。5年後にも支援ソフトを作り、将来は学会の診断基準への反映などをして普及を目指す。
ただ、患者の画像に変化が表れる仕組みは謎だ。岡本教授は「うつ病や発達障害で患者の脳画像に変化が生じる正確な仕組みは、現時点では分からない」と話す。
約10年前までは、脳の特定部位の活動だけを観察する研究が多かったが、発症や悪化との関係を十分に説明できなかった。2010年代になり、複数部位の活動の変化をみる研究が盛んになった。現在では、メカニズムの仮説をたててそれに沿って探るのではなく、脳全体の活動を観察して病気を見分ける研究が中心だ。広島大などの研究もその一つにあたる。
ただ、病気を正確に理解するには、画像に写る脳の働きの変化と、病気や症状の関係を解明することが重要だ。花川先進脳画像研究部長は「脳波計や電極を使って脳の働きを詳細に調べる研究などを進める必要がある」と話す。
ただ、こうした研究は患者や発症リスクが高い人を調べる必要がある。患者などへの説明のほか費用も膨らむため、政府などの支援が重要になるだろう。
国際的にみても、精神疾患については早期に診断し、治療や生活の支援をして進行を防ぐ取り組みが一般的で、オーストラリアや欧州で盛んだ。米国ではオバマ前大統領の時代に、政府の支援で多数の医療機関が連携した取り組みが進んだ。脳の画像などを早期診断に使う研究も世界で進んでいる。
(草塩拓郎)

教員の仕事時間、小中とも最長 OECD調査

OECD国際教員指導環境調査の結果から、日本の教員の長時間勤務は国際的にみても異例であることが分かる。
1週間の仕事時間は小学校54.4時間、中学校56.0時間で、ともに参加国・地域の中で最長。一方で職能開発にかける時間は小中とも最短だった。
中学教員の1週間の仕事時間のOECD平均は38.3時間で、日本は大幅に上回った。部活動など「課外活動の指導」が平均1.9時間に対し日本は7.5時間と長い。
仕事の内容別にみると、日本の教員は事務や同僚との共同作業などに割く時間が多い。「一般的な事務業務」は小学校5.2時間、中学校5.6時間で中学は平均(2.7時間)の2倍強だ。
研修などの「職能開発活動」は小学校で0.7時間、中学で0.6時間どまり。30歳未満の若手教員の割合は中学で21.0%(平均11.5%)と前回2013年調査より2.4ポイント上昇しており、勤務時間増の一因となっているとみられる。
OECDのシュライヒャー教育スキル局長は19日、「授業外でも生徒と交流し、個人的な絆を持てることは日本の教育の強みでもあるが、教員の負担は大きい。事務負担の削減など、できる限りの対策をとるべきだ」と話した。
千葉市、水泳授業民間委託 費用減・働き方改革なるか
千葉市は市立小学校の水泳の授業を民間のスイミングスクールに委託するモデル事業を6月から始めた。維持管理費の削減に加え、教員の負担軽減が目的だ。市は効果などを検証し、2020年度以降の導入校の拡大を検討する。
19日午前8時半すぎ、千葉市稲毛区の「セントラルウェルネスクラブ長沼」に市立源小学校の3、4年生約60人が到着した。学校からバスで約15分。屋内プールにはインストラクター5人が待機し「1時間目」の授業が始まった。
「足の力を抜いて」「肘を伸ばして」。児童は泳力別に3グループに分かれて、バタ足やクロールなどの練習に取り組んだ。4年生の尾島悠歌さん(10)は「室内プールだから寒くないし、雨でも中止にならないのがうれしい」と満足げだ。
プールサイドで様子を見守っていた教員(29)も「子どもたちの着替えにかける時間がとても短く、意欲の高さを感じた」と笑顔をみせる。引率は1人で、ほかの教員は学校で別の授業準備などに取り組めるという。
千葉市が水泳授業を民間委託する背景には、学校プールの老朽化と高額な維持管理費がある。市教育委員会によると、全ての市立小中学校(計166校)に屋外プールが1つずつあり、うち築30年以上は8割超の140ある。最も古いプールは築58年だ。修繕費に水道使用料などを加えた維持管理費は、全校で年平均約2億5000万円に上る。大規模改修ともなれば、1行1400万円程度が必要となるという。
水泳授業は教員の負担も大きい。プールの清掃や水質管理に加え、事故防止のため安全管理が求められる。千葉市の場合、小学校では担任に加え管理職ら1人が監視役として授業に付き添う。
ある管理職OBは「午前中の全授業をプールサイドで過ごし、熱中症になりそうになったこともある」と振り返る。委託で負担軽減が期待されるが、千葉県教職員組合の伊藤真太郎書記長は「どれだけ教員の労働負担が軽減されるか見極める必要がある」と指摘する。
委託は専門的な指導による泳力向上や、天候に左右されない計画的な授業実施などの利点もある。今回の千葉市のモデル事業には小学校2校が参加し、委託費は計約400万円だ。市は費用対効果や民間側の受け入れ体制などを検証した上で、2020年度以降の事業拡大を検討する方針だ。
水泳授業の見直しは千葉市以外でも広がっている。千葉県佐倉市は2つの小学校の屋外プールを廃止して授業を民間委託し、神奈川県海老名市は市立小中学校の19のプールを全廃して公営の屋内プールで授業をしている。埼玉県北本市も県内で初となるモデル事業を今年度から始めた。
自治体経営に詳しい静岡大学の日詰一幸教授は「教育現場には委託にふさわしくない業務もあり、明確な線引きが必要だ」と話す。民間委託が少子化、財政難、教員の長時間勤務など様々な課題の一つの解決策になるのか、その行方が注目される。

パラ教育で偏見なくす 元金メダリストが子供に託す夢

東京パラリンピックまで今日で1年。国際パラリンピック委員会(IPC)教育委員のマセソン美季さん(46)は、子供の教育にパラを取り入れようと奔走している。作成に携わった教材を片手に、学校の先生に活用を働きかける。根底には、交通事故で車いすを使うようになった後、長野大会で金メダルをとった経験がある。障害に対する偏見や差別をなくすのが夢だ。
パラリンピックというと、大半の方が「障害のある人」を思い浮かべるのではないでしょうか。障害という言葉には「かわいそう」とか「大変そう」といった先入観がつきまといます。
でもパラの選手たちは障害を言い訳にしません。できないことにこだわらず得意なことを伸ばしていけば、一体どんなことができるのだろうという、人間の可能性にこそ注目してほしい。そう考えて「アイムポッシブル(私はできる)」という教材を作りました。
公益財団法人、日本財団パラリンピックサポートセンター(パラサポ、東京・港)の支援があったから実現できました。IPCの公認教材として、日本はもちろん、全世界で使ってもらいたいです。
障害のある人をかわいそうと思っていた子供も、パラの選手を知れば「すごい」「格好いい」という羨望に変わります。固定観念を崩したところから、新しいアプローチが始まります。
たとえばパラの選手が学校に来るとしたら、どう迎えればいいかを問いかけます。競技場ですごい力を発揮した選手が、外では階段や狭い通路に行く手を阻まれます。選手の立場で身の回りのバリアを見つけだし、解決策をみんなで探ります。
パラ競技のルールを学んだうえで、公平についても考えます。クラスに車いすの子がいて、みんなで玉入れをするにはどうするのがいいか。答えは一つでありません。みんなで、車いすの子の意見にも耳を傾けます。
子供のときから先生になりたくて、カナダの小学校で教えていました。選手として出場した経験からパラの価値も知っています。これらをどう融合させるか、ずっと考えてきました。
私がけがをして一番嫌だったのは、車いすに乗っているだけで、自分は何も変わっているつもりはないのに、偏見とか差別の対象になることでした。
それはどこから来るのか考えていたら、人権教育啓発推進センター理事長だった故・横田洋三先生が「教育です」とずばっとおっしゃいました。親から子供、先生から生徒に教える以外に「無言の教育」もある、と。大人から刷り込まれて子供は育っていく。私がすべきことは教育だ! ビビッと来ました。
(高橋圭介)

三重に集まる建設残土 「土の山」放置、住民ら危惧

緑に囲まれた三重県南部の林野にダンプカーが連日やってくる。積んでいるのは2020年東京五輪・パラリンピックをはじめ大都市圏の工事で出た大量の建設残土だ。突然現れた「土の山」に住民からは土砂崩れなどを危ぶむ声が上がる。なぜ残土は三重に集まるのか。(嶋崎雄太)
三重県の紀勢自動車道を走ると、ピラミッドのような茶色い土の山が見える。紀伊長島インターチェンジ(同県紀北町)近くの山林の一角。約3年前から建設残土が少しずつ積まれ、現在は十数メートルの高さになっている。
近くの町道から見上げると表面は雑草やコケが生え、割れ目が目立つ。「近くには民家もある。崩れたらどうするのか」。紀北町議会で残土の問題を取り上げた岡村哲雄町議(69)は不安そうだ。
県によると、残土の山は紀北町や隣の尾鷲市に少なくとも9カ所ある。大量の残土が持ち込まれ始めたのは12年ごろ。長島港(紀北町)と尾鷲港(尾鷲市)に船で入り、ダンプカーで周辺の山林に運ばれるという。県が確認しただけでも、18年度には25メートルプール280杯分を上回る計約28万トンが港に入った。
「千代田区大手町」「港区六本木」。搬入業者が県に提出した資料によると、残土のほとんどは首都圏や関西の都市部での建物の基礎工事などで掘り起こされたもので、五輪関係の工事もある。
「条例がないから、狙い撃ちされているんでしょうね」。岡村さんは語る。残土を規制する条例は1990年代以降、23府県で定められ、早くから残土が問題になった東京や大阪近郊の自治体は対応が先行した。だが、三重には条例がない。
東北地方の大半の自治体にも条例はないが、搬入業者によると、陸路で東北に運ぶより船で大量搬入した方が大幅にコストが低い。本州の真ん中に位置し東京からも大阪からもアクセスが良く、港の近くに山林が広がる三重が好都合だという。
県担当者は「搬入業者が土地を買い、残土を置くケースが多い」と指摘。過疎化や高齢化で、管理しきれない土地が増えたことも背景に挙げる。
有害物質を含まない残土は産業廃棄物には当たらない。条例の規制がなければ大量に放置すること自体に法的な問題はない。地元の搬入業者は「法令に基づいて運び入れており、土の安全性も確認済み。残土はどこかが受け入れなければならず、地元に理解を得られるようにしたい」と話す。

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勤務先が閉鎖したら… 限定正社員、リストラ大丈夫?

仕事場所や内容を最初から限定しておく「ジョブ型正社員」の推進が閣議決定され、2020年度には関係法の整備を意識した検討が始まる。転勤がなく育児や介護との両立がしやすくなる一方、事業統廃合で勤務先がなくなったときの雇用保障は不透明。働く人にとってジョブ型雇用は使いやすいのだろうか。
■「長く働いてキャリアを向上させたい」
「契約社員で入社し、美容相談を担当してきた。昨年『エリア正社員』になったことで、長く働いてキャリアを向上させたいと意欲が高まった」。ファンケルの旗艦店、銀座スクエアで店長を務める西海望さん(30)の表情は明るい。
ファンケルは2018年4月、全国約200店舗で美容相談を担当する有期契約社員1000人全員を、無期契約のエリア正社員に切り替えた。西海さんもその一人。エリア正社員は勤める店舗が自宅から1時間半圏内で、仕事内容が美容相談に限定されるジョブ型正社員の典型だ。
制度導入の最大の狙いは「専門性の高い人材の長期にわたる確保」(熊谷洋介人事企画グループ課長)。評価基準と賃金テーブルは接客能力に焦点を当てており、総合職とは異なる。専門性が評価されるうえ、休暇日数やボーナスが契約社員時より増えるため、対象者から好評という。
ジョブ型正社員を提言した規制改革推進会議が利点に挙げるのは、転勤がないことで育児や介護、病気治療など個人の事情と仕事の両立がしやすくなり、国内外の多様な人材が活躍できること。法改正でジョブ型の要件が明確になれば、個人も会社もよく考えて労働契約を結ぶようになり、労使紛争防止につながるとする。
■ジョブ型正社員の整理解雇、企業の間に共通規範なし
だが、現在のジョブ型正社員の立場は法的にあいまいだ。歴代の規制改革会議や推進会議は、特に店舗閉鎖や業務からの撤退でジョブ型正社員を整理する場合について議論してきた。
現在、従来型の正社員を整理解雇しようとする場合、
(1)赤字決算など人員整理の必要性があるか
(2)解雇回避努力をしたか
(3)解雇者の選定は合理的か
(4)労働組合などと十分協議したか
   ――の「整理解雇4要素」を考慮することが、裁判例上は確立している。
しかし、ジョブ型正社員の整理について企業の間に共通規範はなく、トラブルが起きれば社員は訴訟を起こしてその都度判断を求めることになる。例えば物流サービス会社の東京都内支店で、支店採用の仕分け専門職として働いていた女性(54)の裁判だ。
女性は14年、「業務集約であなたの仕事はなくなる」として同僚と共に解雇された。「会社には異動先を探す誠意がない」と憤った女性は解雇無効を求めた。代理人の岡部玲子弁護士は、まず業務集約が本当に全社の方針なのか問い、次に女性が勤務する支店だけでなく本社や他の事業所も含めて異動先を探すべきだと主張した。従来型社員と同様、4要素の主に(1)と(2)を求めたわけだ。
裁判所は15年、ジョブ型の女性にも整理解雇の4要素を当てはめ、解雇無効判決を出した。二審で和解し、女性は支店に復帰。元の仕事を今も続ける。
■職務限定型のジョブ型正社員、解雇有効の可能性も
ジョブ型正社員の解雇に関する61の裁判例を詳細に分析した青山学院大学法学部の細川良教授は、地域限定社員の整理でも、裁判所は従来型社員同様に4要素を当てはめて可否を判断することが多いと指摘する。「契約書より労働実態重視」の姿勢で、地域型と従来型の扱いの差は実質的に小さいと取れる。
ただし職務限定型のジョブ型正社員が能力不足で解雇された場合は事情が異なる。「専門職や管理職採用で能力不足の場合、募集広告までさかのぼって採用時の認識を調べ、解雇有効になることも目立つ」
ファンケルは、店舗閉鎖の場合、エリア正社員にも転勤の選択肢を用意し、最大限異動先を提供するというが、そこまでの配慮は一般的ではない。ジョブ型正社員は発展途上の働き方だけに、納得がいくまで条件を聞き、将来を見据えて選ぶ必要がある。
(礒哲司)
■「有効性は個別に判断」 鶴光太郎・慶応大学大学院教授
ジョブ型社員の導入について以前は労使とも懐疑的だった。しかし今では潮目が変わり、特に経団連が前向きと感じる。私が規制改革会議のワーキンググループ座長だった当時、労働者側は事業から撤退するときの雇用保障について非常に懸念していた。だが「既存の正社員制度に波風立てるな」では問題は解決しない。
私は整理解雇の4要素など今の解雇規範は、ジョブ型社員にも当てはめられると考えている。ただ、勤務場所や仕事内容が労使合意で明確になるジョブ型の場合、解雇の有効無効は個別判断で変わるだろう。
ジョブ型が定着するまで、企業は撤退時などに乱暴な解雇をするのではなく、労使コミュニケーションに努め、丁寧に対応することが重要だ。そうすればジョブ型は理解され根付いていくだろう。