「ななつ星」の軌跡/奇跡、逆境と夢は 人と組織を強くする

九州旅客鉄道 代表取締役会長 唐池恒二(からいけこうじ)
「事業構想」8月号より
1987年、国鉄の分割民営化という大改革で誕生したJR九州。
発足当時、JR九州は22路線中21路線が赤字。鉄道の売り上げ1069億円に対して、赤字が300億円。上場どころかいつまで持つのかという状態だった。
発足から10数年が経った。もがき、苦しみながらも、JR九州は、夢を見ることを諦めなかった。
結果、2011年には九州新幹線が開業。2016年には東証一部上場を果たした。
「事業構想は改革と創造」と唐池氏。
鉄道事業を改革し新規事業に次から次へと挑戦した。
平成元年にはマンションを持ち、平成6年にはホテル事業にも参入。1年に40回勧告を訪れて交渉し航路を開拓し、船舶事業も開始。10年がかりの船員養成にも果敢に挑戦した。
夢を見て、その夢をかなえることで成長してきたJR九州。先に上場したJR東日本、JR東海、JR西日本のように鉄道事業で成長したわけではない。
現在のJR九州は売り上げの6割以上が、外食、不動産、農業、ドラッグストア、海外事業など非鉄道事業で上げている。その分野は多岐にわたり40のグループ会社を有している
世界一の豪華寝台列車を作る
唐池氏「JR九州は改革と挑戦を始めましたが、その中に感動を入れました」
JR九州を象徴するD&S(デザイン&ストーリー)列車。その頂点にクルーズトレイン「ななつ星㏌九州」がある。
「ななつ星」は、2009年に社長に就任した唐池氏が唱えた夢。2年後に新幹線の開通が見えていた当時、次なる夢が必要と考えた。『世界一の豪華寝台列車を作る』という新たな夢を掲げた。
九州7つの県をつなぐ「ななつ星㏌九州」。デラックススィート3泊4日で1人60万円から。九州を4日かけて周遊する、日本初のクルーズトレイン。
『世界一の号か寝台列車』という命題に、インダストリアルデザイナーの水戸岡鋭治氏が2カ月間考え抜いてデザインしたという、ロイヤルワインレッドの車両。
夜にはバーのオープンするラウンジカーとダイニングカー、そして14のゲストルームが用意されている。
各部屋には総檜造りのシャワールーム、洗面鉢は有田焼の陶芸家、十四代・酒井田柿右衛門氏の遺作だ。
九州で日本初の豪華寝台列車を走らせる。しかも世界一の寝台列車を造る。
唐池氏の途方もない夢には、物理的、技術的、経営的課題が当然ながら山積みだった。
しかし「最初に夢を見なければ、そこに向かって進むことはあり得ない」と唐池氏。
「夢は、掲げると、そこに向かってみんなの思い思いの力を出してくれます」
2013年10月15日、初運行の日には10万人以上の人が沿線から手を振って応援した「ななつ星㏌九州」。その半分は目に涙を浮かべていたという。現在でも、沿線で欠かさず手を振って応援するファンが絶えない。
JR九州の全員が「ななつ星」に夢を見る。
九州中の人が「ななつ星」を応援する。
「ななつ星」がこれだけ多くの人に愛される理由は何か。
それは「ななつ星」に夢、想い、手間、水戸岡鋭治氏の、社員の、九州の人の夢、期待が「ななつ星」に充満している。
唐池氏はいう。「夢見る力が気を作り出すのです。夢見たくてこのプロジェクトには、多くの人の気で満ち溢れています」
「『ななつ星』の中には込められた機というエネルギーは、感動というエネルギーに変ります。1つの商品を生みだす時の想いと手間が積み重なって、新しい価値を創り出す。それが、感動というエネルギーを生み出すのです。これが、1つの製品・サービスを作るとき、事業を生みだす時に欠かせない要素だと思います」。

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